第19話 王都の商業ギルド

 鳥人族の襲撃を乗り切った私たちは、宿場町で一晩を過ごし、翌日ついに王都へ到着した。

 さすがに国の中心なだけあって、たくさんの人がいる。

 ニクメシを食べたハレスも栄えてはいたけど、やっぱり王都の比じゃない。

 これだけの人がいる場所。

 関心を引くことができれば、刺身商売が大成功する可能性は十分にあるね。


「すごい……! 高いです……!」


 そびえ立つ城壁を見上げて、ニナが感嘆の声を上げる。

 売り物の魚と一緒に、私たちは商業ギルドへと向かった。

 王都にあるギルドは商業ギルド、冒険者ギルド共に本部にあたる。

 都の中心に向かって歩いていると、巨大で豪華な建物が見えてきた。


「あれが王宮だ。王様が住んでいるところだな」


 ネロが教えてくれる。

 遠くからでも分かる壮麗さは、まさに王様にぴったりの雰囲気だ。

 一般庶民の私たちには、とうてい縁のない場所だろう。


 商業ギルドに着くと、やはりたくさんの人が来ていた。

 私たちと同じように物を売りに来た人、逆に何かを買いに来た人、登録に来た人など、その目的は様々だ。


「こんにちは」


「こんにちは。あ、ネロさんお久しぶりです」


 空いたカウンターの受付嬢さんに、ネロが声を掛けた。

 どうやら知り合いみたいだ。


「例によって魚を売りに」


「お疲れ様です。ネロさんの村の魚は質がいいと、王都でも評判なんですよ」


「それじゃあもうちょっと高く買ってくれてもいいんじゃないか?」


「ははは……。あ、そちらの方々は?」


 話をそらした受付嬢の視線が、ネロの後ろにいる私たちの方へ向けられる。


「私はミオン。新しく村の仲間になったの」


「私はニナです。村生まれの村育ちです」


「私はここで受付嬢をしているピノといいます。よろしくお願いしますね」


 自己紹介が住んだところで、ネロが再び口を開く。


「今日は魚を売りに来たのと、あとはミオンも売りたいものがあってきたんだ。そうだよな?」


「うん。魚の取り引きが終わったら、続けて私のもお願いしていい?」


「もちろんです。ではまず、魚の方を終わらせてしまいましょう」


 ピノは手早く処理を済ませていく。

 これだけの人が訪れる王都の商業ギルドともなれば、正確さはもちろんスピードも必要とされるはずだ。

 その手つきはさすがといったところだね。


「それでは次、ミオンさんどうぞ」


 あっという間に魚の売買が終わり、私の番になった。

 ネロと場所を交代し、例のあれを取り出す。


「売りたいのはこれなんだけど……」


「こ、これはっ!?」


「竜血茸って知ってるでしょ?」


 私の言葉に、商業ギルド全体がどよめいた。

 みんながこちらを見ている。

 ひょっとして私、やっちゃったか?


「ここここんなアイテム、どどどどどどどこで手に入れたんですかっ!? しかも2本!?」


「あー、えっとぉ……」


 私の予感が告げている。

 ここで龍を倒して手に入れたとか言ったら、めちゃくちゃ面倒くさいことになると。

 下手なことは言わない方がいいね。


「拾ったんだよ。たまたま」


「そんな石ころみたいに言わないでくださいよ……。残念ですが、今すぐに代金をお渡しすることはできません」


「え? 何で?」


「竜血茸のような超激レアアイテムは、オークションにかけられます。なので売価は不確定なんです。ですからそれが確定するまでは、お金をお渡しできないんです。オークションで売れた額の10%を手数料としていただき、残りをお渡しする形になります」


手数料が取られるのかぁ……。

仕方ないと言えば仕方ないけど。


「なるほどね。次のオークションはいつ?」


「1週間後の予定です」


「結構先だなぁ」


 1週間も王都に居続けるわけにもいかない。

 ここは一度村に帰って、竜血茸が売れたらその代金を受け取りにくるのが良さそうだ。


「じゃあお金が入るころにまた来るよ」


「はい。そうしてください。こちらは、商業ギルドが責任をもって管理致します」


「うん。よろしく」


 さて、目的は果たしたね。

 まだギルド中の視線が私に向けられているけど、気にせず建物を出る。

 商売をする相談は、実際に元手になるお金が手に入ってからでいいだろう。


「すごい注目されちゃいましたね」


 通りを歩きながら、ニナが苦笑した。

 ネロもやれやれと笑っている。

 目立とうとしたわけじゃないんだけどね。

 ちょっと注意深さが足りなかったか。

 でもそれだけ、竜血茸が希少なものだということ。

 オークションの結果が楽しみだ。


「さあ! 王都のご飯を楽しんで帰るぞー!」


 ランガルの懸賞金がまだまだ残っている。

 私が拳を突き上げると、2人も「おー!」と笑った。

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