第17話 ニクメシ

「さあて、何を食べようか」


 旅の楽しみといったら、やっぱりご飯だよね。

 ネロと合流した私たちは、夜ご飯をどうするか、町を歩きながら相談していた。

 屋台が建ち並ぶ屋台通り、そして店舗を持つ飲食店が並んで店を構える美食通りと、2種類の通りがある。

 今、私たちがいるのは屋台通りの方だ。


「2人はどんなものが食べたいの?」


 私が尋ねると、ニナとネロはしばらく考えて言った。


「美味しいものが食べたいです」


「俺もだな。美味しいものがいい」


「うん。そりゃそうなんだけど。ガッツリ系とかあっさり系とかあるじゃん」


「お腹はペコペコです。たくさん食べられますよ」


「じゃあガッツリ系だね」


 かくいう私も、めちゃくちゃお腹が空いている。

 こういう時はガッツリのお肉だ。お肉こそ正義。

 私はごつい肉の串焼きを売っている屋台に目をつけた。


「あそこはどう?」


「いいと思います」


「いいんじゃないか」


「じゃあ第一弾はあそこで」


 屋台に近づくと、それはそれは香ばしくジューシーな香りが漂ってきた。

 こんなものをかがされたら、もう我慢できない。

 口の中によだれが溢れる。


「串焼きを3つ」


「はいよ。肉は何にする?」


「何があるの?」


「今日は牛か豚だな」


「じゃあ私は牛にしようかな。ニナたちは?」


「私も牛にします」


「俺は豚にするかな」


「牛が2つに豚が1つだな」


 店主から串焼きを受け取り、ニナとネロに渡す。

 ここは私のおごりだ。

 ネロは御者お疲れ様だし、ニナは年下だしね。

 一応、私はお姉ちゃんなのだ。


「いただきまーす」


 豪快に牛肉へかぶりつく。


「んまっ!」


 噛むたびにじゅわぁっと肉汁があふれ出してくる。

 表面は香ばしく、それでも中はしっかり火が通りつつミディアムレアの焼き加減。

 味付けはシンプルに塩だけ。

 その加減、あとは肉の旨さと焼き加減が物をいう料理だ。

 文字通り塩梅が良く、最高に美味しい。


「すごく美味しいよ」


「そうりゃあ良かった。食ってる顔見てると、肉が好きなのがよく分かるぜ」


「大好きだよ」


「だろうな。もしよかったら、美食通りにある『肉舞亭』に行ってみてくれ。ここは肉舞亭の経営してる屋台でな。美食通りにあるのが本店だ」


「へえー、行ってみる?」


 ニナたちに聞くと、2人そろって頷いた。

 決定だね。




 ※ ※ ※ ※




 美食通りに向かい、教えてもらった肉舞亭を探す。

 すると、『ニクメシの肉舞亭』と刻まれた看板の掲げられた店を見つけた。

 ニクメシか。

 漢字で書くと、おそらく肉飯だよね。

 飯といえばご飯、つまり米。

 ひょっとしてだけど、この店なら肉だけじゃなくて米にもありつける……!?


「ここみたいですね」


「うん。入ってみよう」


 店に入ると、人気店のようで席がほとんど埋まっていた。

 唯一、空いていたテーブルにつくと、女性の店員さんがやってくる。


「いらっしゃませ。何になさいますか?」


「ニクメシって何ですか?」


 ニナが質問すると、店員さんは笑顔で答えた。


「みなさんはお米ってご存じですか?」


「「コメ……?」」


 ニナとネロが首を傾げるなか、私は心の中でガッツポーズする。

 やっぱりメシは飯で米だ。

 まさか異世界でお米にありつけるとは……!


「当店にいらっしゃるのが初めてでしたら、ご存じないかもしれませんね。この辺では作られていませんし、入ってもきませんし。少々お待ちください」


 店員さんは一度厨房に戻り、そして皿を持って戻ってきた。

 皿の上には、白くてほかほかしたものが乗っている。

 おお~、米だぁ~。

 しかもザ・日本の米って感じの米。


「ちょっと食べてみてください」


 言われるがままに、3人ともスプーンですくって食べてみる。

 ああ、ほっとする味だ。

 最高に美味しい。

 ニナもネロも、パッと笑顔になった。


「美味しいです!」


「本当に美味しいな。 噛めば噛むほど甘くなってきて……こんなものがあったとは」


「このお米というのは、遠く離れた東方にある『ヒノくに』というところのの名産なんです。当店の店主がそのヒノ国から来た旅人を助けたことがありまして。そのお礼として破格の安値で送ってくれるんです。どうしても運ぶのに時間がかかるので味は落ちるらしいんですけど、十分に美味しいですよね?」


「うん。すごく美味しいよ」


「私はぜひ一回、ヒノ国で時間の経ってないお米を食べてみたいんですけど……。まあ、なにせ遠すぎるんですよね。このお米にドカーンと豪快に肉を載せたのが、ニクメシです。このレシピもヒノ国の旅人から教わったんですよ」


 ヒノ国かぁ。

 文化的には日本に近いのかもしれない。

 かなり遠いみたいだけど、ぜひ機会があったら行ってみたいなぁ。


「上に載せる肉を選んでください。牛、豚、鶏、羊の4つがありますよ」


「牛はさっき食べたから……豚にする」


「私は鶏でお願いします」


「俺は今度は牛にするかな」


「豚、鶏、牛ですね。プラス料金でお米を大盛りにもできますよ」


「いくらなの?」


「大盛りは300Gです。ちなみに鶏のニクメシは2200G。豚は2400G、牛のニクメシは2600Gです。お米が安値とはいってもやはりコストがかかるので、多少は高くなってしまうんです」


「私は大盛りにしてみたいです。お米をいっぱい食べたいんですけど……」


 ニナはお金の入った布袋を握り締めて迷っている。

 払えることは払えるけれど、王都にも取っておきたいのだろう。


「いいよ。お金は心配しなくて。私も大盛りにしようかな」


「いいんですか?」


「もっちろん」


 ティガスが帰りフェンリアが健康になって以来、ニナは少しだけ遠慮しなくなった。

 今までが遠慮しすぎだったから、むしろいいことだ。


「俺も大盛りで」


「かしこまりました」


 注文を取って店員が去っていく。

 なかなかいいところに来れたみたいだ。

 屋台の肉も最高だったし、そこに米が合わさったら最強のコンボ。

 楽しみだなぁ。


 15分ほどで、店員が大きな丸皿を3つ運んでいた。

 こんもりと米が盛り付けられ、その上にデデンとステーキが鎮座している。

 どれもすごく美味しそうだ。

 立ち昇ってくる湯気がもう美味しい。


「「「いただきま~すっ!」」」


 まずは豚肉を一口。

 これだけで十分に美味しいな。焼き加減最高。

 肉汁がじゅわぁっと口の中に広がる。


 そしてそしてメインの米。

 まだ口にステーキが残っているうちに、肉汁の染みた部分をパクリ……


「んんんっ……!!!」


 美味すぎて悶絶する。

 米と脂って相性がいいんだよなぁ。

 かなりのボリュームだけど、こんなに美味しかったらぺろりと食べられそうだ。


「美味しいですっ!」


 お店の中にニナが感動する声が響き渡る。

 チキンステーキも、皮目がパリッと焼かれていてすごく美味しそうだ。


「ニナ、鶏も一口ちょうだい」


「もちろんです! ミオンさんのも一口もらっていいですか?」


「いいよ~」


 お互いに皿を交換して肉と米をほおばる。

 ああ、鶏も美味しい……。


「美味しいですか?」


「うん。最高だよ」


「良かったです。『ヒノ国』では、これにショーユというもので作るソースをかけるらしいです。ちょっと想像がつかないんですが、ぜひとも食べてみたいんですよね」


 ショーユ!

 それって醤油だよね!?

 これはますます、ヒノ国に行ってみたくなった。


 私たちはガツガツとニクメシを食べ進め、あっさり3人とも完食してしまった。

 大満腹の大満足だ。

 皿を下げに来た店員さんが、私たちの表情を見てにっこり笑う。


「ご満足いただけたみたいですね。ぜひ、またいらしてください」


「ぜひ! ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさま」


 3人とも満足感と一緒にお店を出る。

 さあて、明日からも続くたびに備えて寝ないとね。

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