第11話 家族

 ミョン爺の家で食事をごちそうになり、そのまま疲労に負けて爆睡。

 そして目が覚めると、ちょうど日の出の頃だった。

 フェンリアはどうなったかな。


「行ってみよっと」


 私はミョン爺の家を出て、ニナたちの家に向かう。

 そーっとドアを開けると、フェンリアが上半身を起こしてベッドに座っていた。

 ニナとティガスは、まだ眠っているようだ。


「おはようございます。ミオンさん」


 私に気付いたフェンリアが、にっこりとほほ笑む。

 目をごしごししているところからして、たった今起きたところみたいだ。

 当然のことながら、まだやせ細っているし栄養が足りないのは明らかだけど、毒の影響はすっかり消え去っているみたいだった。


「体の方は?」


「驚きました……。すっかり軽くなって、何一つ辛いことはないんです」


「それは良かったね」


「苦しい中でうっすらと聞こえてきたんです。現実だったのか夢なのか、苦しすぎて区別がついていないんですが……。ミオンさんが竜をぶっ飛ばすって言ってて」


「ははは。聞こえてたんだ」


「やっぱりミオンさんのおかげなんですね」


 フェンリアは深々と頭を下げた。

 その態勢のまま言う。


「本当に……ありがとうございました……っ!」


 うーん。

 こういうのって素直に受け取っていいんだよね?

 あんまり人から感謝されたことがないからなぁ。


「えっと、どういたしまして」


 少し照れくささを感じながら、私は言った。

 そして続ける。


「ニナとティガスも本当に頑張ってくれたから。私が最後に良いところを持っていっちゃったかもだけど、2人の積み重ねが無かったら……ね?」


「はい。その通りですね」


 フェンリアは顔を上げて、優しく微笑んだ。


「ニナと、そして今は遠くに行ってしまったティガ……えええええ!? てぃてぃてぃてぃてぃティガスっ!?」


 娘を挟んで横に寝ている夫を見て、フェンリアが大声をあげる。

 うん。これだけの声が出るのは、本当に元気になった証だね。

 というか、気付いてなかったんかい。


「ななななな何で!?」


「竜の巣でしぶとく生き延びてたんだよ。フェンリアを救うためにね」


「そうだったんですか……。彼、無事ですよね……?」


 傷だらけの夫に、不安そうな顔を浮かべるフェンリア。

 私は優しく笑って安心させる。


「確かに怪我はすごいし、健康状態も良くなかったけど。これからしっかり休んでいけば、元気になれると思うよ。何せとてつもなく強い人だもん」


 あの谷を逆ロッククライミングとか、7年間ただ働きの末に竜と決闘とか、私が言うのも何だけど本当に常識の枠に収まらない人間だ。

 それだけの生命力があるんだから、あっという間に回復してしまうだろう。


「ん……」


「うう……」


 フェンリアの大声で、寝ていた2人も目を覚ましてしまった。

 まずはニナが、そしてティガスが体を起こす。

 傷口が痛むのか、ティガスはやや顔をしかめた。


「ティガス……ニナ……っ!」


 フェンリアがうるうるした瞳で、数年越しにそろった家族を見つめる。


「お母さん。もう大丈夫なんだよね?」


 ニナがそっと母親に抱きついた。

 それを優しくフェンリアが抱きしめ返す。


「大丈夫よ。今まで大変な思いさせてごめんね」


「謝らないで。あ、でも、ありがとうは言ってほしいかも」


「ふふっ、ありがとう。本当にありがとう、ニナ」


 抱き合う母娘をさらに包むようにして、ティガスが2人へ手を回す。


「お父さん……」


「大きくなったな、ニナ。お母さんのこと、ありがとう」


「あなた……」


「フェンリア……」


 あーあ。

 こりゃ、私は邪魔ものだね。

 家族水入らずの時間を過ごしてもらうとして、私は退散しよう。


「ミオンさん」


 家の扉に手を掛けた私に、背後からニナが呼び掛けた。

 振り返ってみると、家族3人が喜びの涙を流している。


「「「ありがとうございました」」」


「はいはい。どういたしまして」


 照れくささがMAXに達した私は、そそくさと家をあとにするのだった。

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