第6話 旅立ちと炎のヘビ

「これがティガスの作った竜の巣への地図じゃ」


 ミョン爺が1枚の紙を手渡してくれる。

 現在地としてこの村、そして竜の巣と道中の目印が書き込まれている。


「ニナが誰かに助けてと頼るところなど、ティガスがいなくなってから初めて見た。おぬし、決して死ぬんじゃないぞ」


「絶対に助けるってニナと約束したんだから、必ず果たすよ」


「道中の食料と水を準備する。それを持っていくといい。すまんが、村から一緒に行ってあげられる者はおらん」


「大丈夫だよ。ソロプレイには慣れてる」


「ソロプレイ……?」


「ああ、何でもない。ちょっと故郷の方言が出ちゃった」


 適当にごまかして、再び地図に目を落とす。

 一番時間がかかるのは、竜の血を手に入れることだよね。

 行き帰りの時間は出来る限り短縮しないといけない。

 1日半も寝れば元気は満タンだ。走れるだけ走ろう。


 水と食料が入ったカバンを受け取り、それもアイテムボックスに収納する。

 いよいよ出発。

 村の入口へニナが見送りに来た。


「ミオンさん。竜血茸をお願いします。でも、絶対に死なないでください」


「うん。ニナも辛いと思うけど、信じて待っててね」


「はい」


「気を付けるんじゃぞ」


「うん。それじゃあ行ってきます」


 私は改めて地図を確認すると、海と平行に西側へ走り始めた。

 セブホラにも、他のゲームと同じくステータスがあった。

 攻撃力を示すATAとか、防御力を示すDEFとかだ。

 私の特性上、ATAはほとんど必要ない。だって触ればいいんだから。

 そしてDEFも、無効スキルが増えてからは上げるのをやめた。

 だから私のステータスは、敏捷性を表すAGIと幸運値のLUCが高くなっている。

 その自慢の走力を活かして、私は一心不乱に駆けていくのだった。




 ※ ※ ※ ※




 竜の巣があるのは、普通に歩いたら2日かかる谷の底だという。

 お昼過ぎに出発してぶっ通しで走り、辺りが暗くなり始めた頃に半分の目印へ到着した。

 うん。まあまあ良い調子で来れてるね。

 ゲームのステータスシステムによって強化された身体能力に感謝だ。

 でも竜との戦いを考えると体力温存も必要なため、夜は少しペースを落として進む。


「水ぅ……」


 立ち止まって、アイテムボックスからもらった水を取り出し給水。

 さすがに喉が渇く。

 この水を飲むのをサボってゲームをやったばかりに、私は異世界に転生したわけだな。

 リリアちゃんだったら、「今の方が人の役に立ってるので死んで良かったですね」とか言ってきそうだ。

 あんなに毒舌だとは思わなかったなぁ。

 それにしても死んで良かったって……。


 本人が言ってもいない、ただの“言ってそう”というだけの言葉でリリアちゃんのイメージを下げたところで、私は再び竜の巣を目指す。

 今度は全力疾走ではなく、小走り程度だ。

 どんどん日が落ちて、辺りが暗くなっていく。

 でも私には、セブホラで真っ暗な地下エリアをクリアするともらえる特性『夜目』があるので視界には困らない。


「シャアアア!」


 森の中を進んでいると、木陰からモンスターが飛び出してきた。

 体に斑点模様のあるヘビ型モンスター。

 ゲームでも似たようなモンスターを見たことがある。


「シャアアア!」


 モンスターは大きく口を開けると、こちらに向かって火を噴いた。

 やっぱりサラマンダーか。

 もちろん、【炎無効】を持つ私には何のダメージもない。

 でもゲームのサラマンダーよりだいぶ小さいし、炎もただの炎だね。

 ゲームのサラマンダーは、毒炎の複合攻撃だった。


「シャアアア!」


 再び火を噴こうとしたサラマンダーの頭をむんずと掴み、口を強制的に閉じさせる。


「【収納ストレージ】」


 あっさり排除したところで先に進もうとすると、何かにごつんとぶつかった。

 あれ? さっきはこんなところに木なんてなかった気が……


「ありゃりゃ」


 上を見上げて私は呟いた。

 そこにいたのはさっきよりも数倍大きなサラマンダー。

 ひょっとしたら、さっきのは子供でこっちが成熟したサラマンダーなのかもしれない。というか、絶対にそうだ。


「キシャアアアア!」


 サラマンダーが大きな口をぱっくりと開ける。

 私なんて丸呑みされちゃいそうなくらい巨大だ。

 でもその分、的は大きくなる。

 敵が大きければ大きいほど、触るのが楽になって収納しやすくなるのだ。


「……せっかくだから」


 私はすぐにアイテムボックスへ放り込むのではなく、サラマンダーが攻撃してくるのを待つ。

 その攻撃を収納しておけば、増幅して竜との戦いに使えるかもしれないからだ。


「キシャアアアア!」


 サラマンダーが火を噴いた。

 さっきとは段違いの火力で、色も紫色をしている。

 毒も混ざった複合攻撃みたいだ。


「【収納ストレージ】!」


 私は右手一本で毒の炎を消し去った。

 でもまだ本体は収納しない。

 もう一発食らい攻撃をちょうだいしといて、外した時のスペアにするのだ。


「キシャアアアア!」


「【収納ストレージ】!」


 これ以上ないデジャブ。

 さっきと全く同じ光景が繰り広げられた。

 よし、時間もないしこれくらいにしておくかな。


「攻撃手段をありがとね。【収納ストレージ】!」


「キシャ? キシャアアアア……」


 サラマンダーの腹に手を触れて、本体も収納する。

 さあさあ、まだここは行きの半分だ。

 どんどん進んで行こうっと。

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