第1章 竜の巣編
第2話 アイテムボックスと【落下無効】と第一村人
「んっ……」
眩しい光で意識が覚醒する。
目を開けて見ると、そこには青空が広がっていた。
そして太陽がさんさんと照っている。
「ここが異世界……?」
私はゆっくりと体を起こした。
痛みも何もなく、体は健康みたいだ。
私が寝転んでいたのは広い草原だった。
心地の良い風が吹き抜け、草がそよそよと揺れている。
VRゲームでも五感は十分に再現されていたけど、やっぱり実際に生身で感じるのとは違うんだなぁ。
気持ち良さがひとしおだ。
長らく家に引きこもっていて、外に出なかったのもあるだろう。
「さーてと」
私は立ち上がり、一つ大きく伸びをした。
まずは現状把握だ。
ちゃんとスキルが引き継がれているか確かめないとね。
これを怠ると命に関わる。
自分に力があると思ってモンスターや何かに立ち向かっていって、何もなかったら即死案件だ。
私は足元の草を適当にちぎると、軽く握って呟いた。
「【
手の中にあった草が、一瞬の間に消えてなくなる。
アイテムボックスの一番基本的な機能がこの【
ものをアイテムボックスの中にしまうスキルだね。
「【
もう一度呟くと、草は元通り私の手の中に戻ってきた。
リリアちゃんが言っていた通り、セブホラでのスキルはしっかりと引き継がれているみたいだ。
もちろん、スキルはこの2つだけじゃないんだけど、これだけ引き継がれて他はなしってこともないはずだ。
とりあえず、異世界に転生して足趾みたいな展開は避けられそうだね。
安心した私は、特にあてもなくふらふら歩いてみる。
風に揺れる銀色の長髪。これはミオン仕様のものだ。
楠木美音はぼっさぼさの黒髪。
どうやら容姿に関しても、ミオンのものが引き継がれているらしい。
少し傾斜が付いた草原を上へと登っていく。
すると、先の方が崖になっているのが分かった。
どうやらここは丘の上みたいだ。
私は丘の先端を目指して進む。
「おお~!」
先端に立って見た景色に、私は思わず声を上げる。
丘の下にも草っぱら、そして砂浜が広がっていて、その先には真っ青な海がある。
太陽の光を浴びて煌めく水面がとってもきれいだ。
「海があるってことは、食料にも困らなそうだね。最高じゃん!」
丘はかなり高く、潮風の影響でかなりえぐられている。
私が立っているところは、わずか厚さ数十センチしかない。
でもがっちりしているし、崩れる心配はなさそうだ。
せっかく海を見つけたんだから行ってみないとね。
よーし。
私はぶんぶん腕を振りながら膝を曲げると……
「そーれ!」
跳んだ。
でも残念なことに、私には飛行スキルがない。
そしてこの世界にもきちんと重力があるようで……
「ああああ!」
地面に向かっての急降下が始まる。
数秒後、私は頭から硬い土の地面に叩きつけられた。
「ひやああああ!」
あら、私以外の悲鳴が聞こえる。
ちょうどえぐられて見えなくなっている崖の下に、誰かがいたみたいだ。
「ふう……無傷無傷」
私はすっと立ち上がり、髪についた土を払った。
【落下無効】。
これが私を守った特性スキルだ。
私はアイテムボックスともう一つ、様々な無効スキルを極めた。
【毒無効】とか【炎無効】とかだ。
初めは【落下耐性(小)】から始まって、【落下耐性(中)】、【落下耐性(中)】、【落下耐性(大)】、【落下耐性(特大)】、そして【落下無効】へと進化していく。
一つの耐性スキルを無効スキルにするのもえぐい労力と時間、多少のダメージが必要なんだけど、私は何種類も無効スキルを手に入れた。
そんなことをやってるから、ゲームのやり過ぎで死ぬなんてことになるんだよね。
良い子のみなさんは気を付けましょう。
ああ……今頃、元の世界では私のニュースが流れてるのかな……。
……嫌なことを考えるのは止めよう。
「い、生きてる……」
細く震えた声が聞こえた。
そうだそうだ。もう一人、誰かいたんだった。
私が振り向くと、そこでは12、3歳の少女が尻もちをついていた。
彼女の横には木で編んだ籠があり、摘んだ草が入れられている。
食べる用か薬草か、とにかく草を調達に来ていたみたいだ。
「ごめんごめん。びっくりさせちゃったよね」
私はにこやかに手を振りながら近づく。
しかし、少女はひっと声を上げた。
怖がらせちゃったかぁ……。
でも、せっかく会えた第一村人ならぬ第一異世界人だ。
いろいろと聞かなきゃいけないこともある。
「私はミオン。あなたの名前は?」
「モ、モンスターが喋った……」
「ちょっと! モンスターじゃないよ。ただの人間」
「嘘! ただの人間が崖から落ちてきて平気なわけないです!」
「あーじゃあ、ちょっと強い人間。とにかく、悪いことはしないから」
完全にやばいやつ認定されてるなぁ。
こんなことなら、ちゃんと正規のルートで海に来れば良かった。
「本当に悪いことしないですか……?」
「しないしない。ちょっと教えてほしいことがあるんだ」
私は籠を挟んで少女の隣に座る。
すると彼女は、すっと籠を私から遠ざけた。
何も悪いことはしないってのに……。
でも、それだけ大事なものみたいだ。
「えーっと、お名前は?」
「……ニナです」
「ニナね。ニナはこの近くに住んでるの?」
「そうです。村があって、そこでお母さんと村のみんなと暮らしています」
海の近くの村ってことは、漁村だろう。
いいねぇ。新鮮な魚にありつけるかもしれない。
「ニナはここで何をしてたの?」
「薬草摘みですよ。お母さんが病気なので」
「なるほど。偉いね」
「どうも」
ちょっとはニナの警戒もほぐれてきたかな……?
ここは思い切ってお願いをしてみよう。
「その薬草摘みと村まで運ぶの手伝うからさ、私をニナの村に案内してくれない?」
「む、村に来て何をするつもりですか」
「悪いことはしないってば。私は旅人なんだけど、食料とかいろいろ必要なもんで」
「……分かりました。必要な薬草は摘み終わってますので、村まで案内します」
「おー! ありがとう! じゃあその薬草は私が持つよ」
「大切に運んでくださいね。摘み直しは大変なので」
「はーい」
私は籠を受け取ると、そのままアイテムボックスへとしまった。
「【
「ちょっと! 何してるんですかぁ!」
「あ、あ、落ち着いて。【
「え? あれ? 今のは一体……」
「アイテムボックスだよ」
「アイテムボックス……?」
ニナが首を傾げる。
異世界物だと、アイテムボックスとかその他の収納スキルが一般的な世界もあるけど、ここはそうじゃないみたいだ。
……ていうことは、アイテムボックスの他の機能や無効スキルがなくても、私はこの世界である意味チートなんじゃないか?
まあ、ここが辺境の地で、もっと王都みたいな栄えているところだと別ってこともあり得るけど。
「村はこっちです。ついてきてください」
「はーい。【
私は再びアイテムボックスへとしまう。
またしても消えた籠と薬草に、やはり目を丸くするニナだった。
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