第7話 対立

◎現在判明しているルール

1:あなたたちの中に1匹、狼が紛れ込んでいる。狼に噛まれた場合、あなたは死亡する。

2:制限時間以内にこの建物から脱出できなかった場合、あなたは死亡する。

3:建物から出る方法は2つ。正しい鍵を見つけるか、狼を死亡させるか。その他の方法で出た場合、あなたは死亡する。



 ゴトンッ


 スーツの青年の頭が地面に落ち、鈍い音を立てる。

 それに数秒遅れて、全員を椅子に固定していたベルトが音を立てて一斉に外れた。

 結果、青年の体は自らの頭を追うように地面へと倒れ込んだ。

 その途中でモニターにぶつかった衝撃で、切断面からあふれる血が辺りに飛び散った。


「ぎゃああああああああ!」


 静寂を切り裂くように、ギャル系女子の悲鳴がこだまする。


「ちょっとおおおおおおおお!何なんだよこれえええええ!」


 椅子から転げるように降り、壁際に張り付きながら非難の声を上げるギャル系女子。

 雅史はその様子を横目で流し見た後、モニターに目を向けた。

 先程現れた『Execution.』の文字は既に消えており、画面には残り時間と参加者の写真、そしてこのゲームのルールが表示されていた。

 残り時間は既に40分を切っている。

 参加者の項目では、作業着の男とチンピラ風の男に加えて、スーツの青年にバツ印が新たに加えられていた。


(見たかったのは、ここだ……。)


 雅史は額の汗を拭いながら、さっきまで画面から消えていたルールの項目に目を移した。

 目的は、さっき自らが取った行動についての詳細確認だった。

 ルールに関しては、1度この部屋に戻ったときに改めて読み返していたのだが、おかげで命拾いしたようだ。

 1番確認したい場面で消えてしまうとは思いもしなかったが。

 目当ての部分をひと通り読み漁ると、雅史は痛む腹を押さえながら、椅子の背もたれに体を預けて1つため息をついた。


(死ぬかと思ったけど、何とかなったな……。)

 

 全身が冷や汗でびっしょりと濡れているのを自覚しながら、もう動かない青年の死体を眺める。

 首から上を失った死体は、自らの体内から溢れ出た血液にまみれて横たわっている。

 少し離れた場所には、切り離された頭部が転がっている。

 虚ろな目は、何もない空間を睨みつけたままだ。

 この建物に連れて来られてから、死体を見るのは3つ目だ。

 だがこの死体は、雅史にとってこれまでの2つとは全く異なる側面を持つ。

 彼を死に追いやったのは、雅史自身なのだ。


(でも、やらなきゃ死んでたのはこっちだ。)

 

 震える手を見つめながら、自分に言い聞かせる。

 実際のところ、自分の取った行動に関しては微塵も後悔を感じていなかった。

 殺さなければ、殺されていた。

 それが全てだ。


「おい!アンタ!これどういうことよ!」


 ギャル系女子が、引き続き壁際から喚いている。

 そろそろキチンと説明してやらなければ、雅史に対する不信感が覆せないレベルになってしまうかも知れない。

 疲労感を拭いきれないままに、雅史は重い腰を上げることにした。


「落ち着、うっ、ごほっごほっ……落ち着いてください。これは、このゲームのルールに則った行動の結果なんです。全部、このモニターに書いてあります。ちょっと目を通してみると良いですよ。」


 まだ痛む腹をさすりながら、目の前にあるモニターを軽く叩く。

 自分でも、再度ルール4と5の部分に目を向ける。



『ルール4:左腕に配布されているツールで全ての生存者を“招集”し、狼と疑わしき者を“告発”することが出来る。ツールを体から外した場合、あなたは死亡する。』


『ルール5:“告発”の際、生存者は処刑対象を選択することが出来る。過半数の生存者が対象を選択し、かつあなたが最も多人数に選択された場合、あなたは死亡する。』



「簡単に言うと、これは俺たち“参加者”が“狼”に対抗するためのルールです。多数決によって、“狼”ではないかと疑われる人間を処刑出来るっていう。」


 あえてざっくりとした説明に留める。

 事細かに説明したところで、口頭で伝わるかが怪しいのと、時間的にそんな余裕は無いためだ。


「さっきのは、俺たち全員がスーツの彼に投票したんで、彼が処刑されたってことです。」


 この多数決は、ルール説明によれば投票者が過半数に達しなければ成り立たない。

 今回の場合で言うと、雅史と女子高生がスーツの青年に投票し、スーツの青年は雅史に投票していたので、投票者数は3人となり、その時点で過半数を超えていたのでその条件はクリアしていた。

 しかし、ギャル系女子が雅史に投票していたら結果は2対2で同点になっていたので、青年の処刑は執行されず、雅史は再びピンチに陥っていただろう。

 ギャル系女子がスーツの青年に投票してくれるかは、かなりギリギリの状況だった。

 ほんの少しの掛け違いで、彼女がスーツの青年側についたままだった可能性は大いにあっただろう。


「でもアンタ、さっきはアイツが死ぬなんてひとことも言ってなかったじゃねーか!」


 ギャル系女子はやはり、全て納得した上での結果ではなかったようだ。

 自らの選択の結果、スーツの青年が死んでしまったことに動揺しているのだろう。

 実際のところ雅史は、投票の結果によって青年が死んでしまうかも知れないということを、あえてぼかして説明していた。

 でなければ、彼女は青年に投票しなかったかも知れないからだ。


「いや、まさか俺も、殺すことになるだなんて思ってなかったんです。それに、あの時は詳しく説明してる時間も無かった。」

「にしては、アンタ随分と落ち着いてるじゃんかよ!ホントは全部分かってたんだろ!分かってて殺したんだろーが!ああ!?」


 雅史の嘘を含めた言い訳に、ギャル系女子はむしろ余計に怒りを露わにした。

 その剣幕は、とても冷静に話ができる状態には思えなかった。


「……そう思うんなら、それでも良いですけどね。今はそんなことより、他に考えなきゃいけない事がある。」

「何だとコラ!ごまかして話変えようってんじゃ……。」

「今問題なのは!ここにいる3人の中の誰かが、“狼”だって事なんですよ!」


 雅史が、モニターを勢いよく叩いて声を張り上げた。

 急変した雅史の態度に、勢いづいていたギャル系女子も若干の戸惑いを見せる。

 しかし、それもほんの数秒のことで、彼女は再び感情を露わに口を開いた。


「はぁ?“狼”はアンタたちの内のどっちかって話だろうが!何あたしまで数に入れてんだよ!」

「だから、それはあんたの視点での話でしょう!俺達からしたら、全部逆なんですよ!作業着のおじさんが殺された時、俺たち2人は間違いなく部屋の中にいて、廊下にいたあの人を殺すなんて絶対できなかった!むしろ怪しいのは、その後に俺達の前に現れたあんたの方だ!」


 声を荒げるギャル系女子に対して、雅史も負けじと怒鳴り声で反論した。

 スーツの青年が雅史と女子高生を殺そうとしたのは、彼が2人を“狼”だと疑ったからであり、青年と共に行動していたギャル系女子はその候補から外れていたのだ。

 多数決によってスーツの青年を処刑してしまったとはいえ、彼女からすると“狼”の候補は未だ雅史と女子高生の2人ということになるのだろう。

 だがそれは、雅史たちの側からすれば全くもって正反対の主張になるのだ。

 自分のことを棚に上げてこちらを責める態度に、争いごとが苦手な雅史も、苛立ちを抑えることは出来なかった。


「ふざけんな!あたしはそんな事してない!あたしが作業着のおっさんの死体を見たのはアンタの悲鳴を聞いてからだ!」

「そんな事、誰にも証明出来ないだろう!あんたの無実を証言してくれる男はもう死んだんだ!」

「そいつを殺したのはアンタだろ!やっぱり、アンタの言うことなんか聞くんじゃなかった!」


 口論は解決の糸口が見いだせず、平行線をたどるだけだった。

 もはや、ギャル系女子が雅史の意見を受け入れる事は無いように思えた。


(くそっ。話しても無駄だってんなら、いっその事さっさと多数決に持ち込んでやるか?そうすれば、多分このゲームは終わるはずだ。)


 感情に任せて、決断を下してしまおうかという気持ちがムクムクと膨れ上がる。

 ルール3には、“狼”を死亡させればこの建物から脱出できるとはっきり書かれていた。

 ギャル系女子を多数決で処刑してしまえば、この狂気じみたゲームを終わらせられるかも知れないのだ。

 雅史にしてみれば、現時点で“狼”と疑わしいのは、もはやギャル系女子ただ1人だ。

 女子高生の方は、作業着の男が殺された時に雅史のすぐ側に間違いなくいたのだから、容疑者の候補からはどうしたって外れる。

 同じ理由で、女子高生の方も雅史の味方についてくれるはずだ。

 ギャル系女子に投票が集まるのはほぼ確実と言ってよかった。


 それでも、雅史が多数決に踏み切ることが出来ないのには、理由があった。

 それを今一度、確かめなければならない。

 感情を逃がすように深呼吸を1つすると、雅史は再び口を開いた。


「1つ、聞いてもいいですか?」

「あぁ?何だよ急に。」


 不意にトーンダウンした雅史につられて、ギャル系女子もやや声を落として返答する。


「さっきの多数決、あなたはあのスーツの男に投票しましたよね?」

「……ああ、そうだよ。アンタに騙されたおかげでな。」

「でもそれは、あなたもあの男が危険だと思ったからそうしたんでしょう?」

「うるせえ!確かに、アイツはヤベーやつだと思ったから投票したんだよ!あたしも殺されるかも知れなかったしな!でも、その事であたしを騙したアンタは、もっと信用出来ねえんだよ!」


 ギャル系女子が再びヒートアップするのを、雅史は努めて冷静に観察していた。


(やっぱりおかしい。彼女が“狼”だとすると、スーツの男に投票するのはどう考えたって合理的じゃない。)


 あの多数決の直前、雅史と女子高生は“狼”の容疑者としてスーツの青年に殺されかけていた。

 もしギャル系女子が“狼”ならば、スーツの青年に投票などせず、同点に持ち込んで雅史と女子高生の2人を見殺しにしてしまえば良かったのだ。

 そうすれば、自ら手を下さずとも彼女はスーツの青年と1対1の状況になっていた。

 ここまでの犠牲者である、成人男性2人が為す術もなく殺されていることを考えれば、何らかの方法でスーツの青年もあっさりと殺されて、ゲームは終了だったはずだ。


(駄目だ、分からない……。“狼”は彼女じゃないのか?でも、あの女子高生が“狼”だなんて、もっとあり得ない。あの娘に人殺しなんか、出来るわけないじゃないか!)


 自然、女子高生の方へと目線が向く。

 彼女は、椅子の後ろに隠れるようにして震えていた。

 この小動物のように怯える娘に、人を殺せるような度胸があるとはとても思えなかった。


(どうすりゃいいんだよ。こんなの決められるわけがない。処刑する相手を間違えれば、次に死ぬのは俺なんだぞ……!)


 万が一“狼”でない相手を処刑してしまったとしたら?

 待っているのは、雅史と“狼”の1対1の状況だ。

 そうなった場合、もちろん雅史に生き残る道などありはしない。

 ここで選択を誤るという事は、無実の人間を死に追いやるだけでなく、自身の死にも直結するのだ。

 それは、あまりにもリスクの高い2択だった。

 命をかけたギャンブルに出るような勇気を、雅史は持ち合わせていなかった。

 だが、どれだけの人間にそんなクソ度胸があるというのだろうか?


「おい、何黙りこくってんだコラ。もう何も言い訳出来ないってか。」


 口を閉じて考え込んでしまった雅史を、ギャル系女子が挑発する。

 どこか不安げなのは、急に黙ってしまった雅史の様子を不気味に思っているのだろうか。


「……てめえ、なんとか言えよ!シカトこいてんじゃねえぞ!」


 しびれを切らして怒鳴り散らすギャル系女子に、いっそ思考停止して彼女を処刑してやりたい衝動に駆られた。

 だが、そんな分の悪い賭けは出来ない。

 雅史はため息をついてかぶりを振ると、ひと呼吸おいて口を開いた。


「いや、この先どうするかを考えていたんですよ。このまま話してても、お互い無実の証明をするのは難しいと思うんで。」

「あ?だったらどうするってんだ。」

「“狼”が誰かを特定するのは、一旦諦めましょう。ここで時間を無駄にしてたら、すぐにタイムリミットが来ます。ルールを見る限り、その時は全員死亡するみたいですよ。多分、そこの彼みたいになるんじゃないですかね。」


 そう言ってスーツの青年の首無し死体を指し示すと、ギャル系女子はチラリと視線を送ってから、何かを振り払うようにかぶりを振った。

 その様子を確認してからモニターに目を落とすと、残り時間はもう30分を切ろうとしていた。


「残り時間はもう30分しか無いです。時間を有効に使わないと。」

「……有効にって、何する気よ。」


 思いの外ギャル系女子がこちらの言うことに耳を傾けているのを、雅史は意外に思った。

 スーツの青年の末路を例に出したのは正解だったかもしれない。

 それに、彼女としてもこの先どうするかというビジョンがあるわけではないのだろう。

 雅史の提案が有益であれば、案外素直に受け入れてくれるかも知れない。


「さっきまでやってたことですよ。鍵探し。まだ途中だったでしょう。この建物から出るために、“正しい鍵”を探すっていう。手分けして探せば、時間内に見つけられるかも知れない。」

「はぁ?誰が“狼”かも分かってないのに、そんなこと出来るわけねえだろ!あれか?そうやって1人にさせた後、隙を見て殺そうってんだろ!また騙そうったってそうはいかねえぞ!」


 ギャル系女子は、雅史の提案に猛反発した。

 だが、その反応は予想の範疇だった。

 彼女の立場からしたら、そう思うのも当然だ。


「言いたいことはわかります。でも、その点はこいつが解決してくれます。」


 そう言って雅史は、自分の左手を掲げた。

 そこにあるのは、例のスマートウォッチのような端末だった。


「この端末の画面に、“call”と書かれた四角い白のボタンがあるはずです。さっきそこの男に殺されそうになった時、俺はこれを押しました。その結果、全員がこの部屋に一瞬で飛ばされて来たんです。」


 あの瞬間移動は、間違いなくこの端末を雅史が操作したことが原因だ。

 自分でも未だに信じがたいことだが、このゲームではそんな馬鹿げた現象が実際に起きてしまうらしい。

 そしてそれは、ここにいる全員がその身をもって体験したことなのだ。


「万が一俺たちのどちらかが“狼”で、あなたに危害を加えようとしたとしても、この端末を使えばそれを防ぐことが出来ます。」

「……信じられるかよ、そんなこと!」

「でも、実際についさっき起きた出来事ですよ。すぐに信じられないのもわかりますけど。なんだったら、あなたの端末で1度試してみますか?」


 そう言って雅史は、ギャル系女子の左腕を指差した。

 他の端末でも本当に可能なのか、確認できるならそれに越したことはない。


「やめろ!あんなのもう沢山だ!わけ分かんないのはもうウンザリなんだよ!とにかく、あたしはもうアンタの言うことなんか信用しない!」


 ギャル系女子の答えは、頑なな拒絶だった。

 雅史を睨みつけるその表情を見る限り、今この場で彼女の信用を得ることは不可能に思えた。

 雅史に騙されてスーツの青年を死に追いやったという認識がある限り、彼女の心は固く閉ざされたままなのかも知れない。


(この女は置いていって、女子高生と手分けして鍵探しをするか?いや……。)


 女子高生に視線を向けたところで、雅史はその考えが現実的でないことを悟った。

 彼女は椅子の後ろで完全に怯えきっており、とても鍵を探して建物を駆けずり回ったり出来る状態とは思えなかった。

 理不尽に殺されかけるという極限状態にあったことを考えれば、致し方ないのかもしれない。

 とはいえ、今の状況をなんとかしなければ待っているのは全員の死だ。

 ただ震えて縮こまっているわけにはいかないのだ。


(どうする……どうすればいい……?)


 雅史は焦っていた。

 焦ってはいたが、自分でも驚くほどに頭の中はクリアーだった。

 死にかけたのは雅史も同様だし、残り時間を考えればもっと焦ってパニックになっていてもおかしくはない。

 しかし、雅史の脳みそはこの状況を打開するためにフル回転で思考していた。

 圧倒的な死の淵からの逆転を果たしたという成功体験が、雅史に確固たる自信をもたらしたのかもしれない。


「分かりました、だったらこうしましょう。」


 心を決めた雅史は、降参したとばかりに両手を上げながら口を開いた。


「鍵探しには、俺だけが行きます。2人はここから動かないで下さい。俺が戻るまで、どこにも行かないようにお互いを見張っててもらいます。」

「えっ!?」

「はぁ!?」


 女子高生とギャル系女子、その両者から驚きの声が上がった。


「ふざけんな!なんでそんなことアンタに命令されなきゃいけねーんだ。こんな死体の転がってるとこにいつまでもいられるかよ!」

「いや、ここにいてもらいますよ。俺からしたら1番疑わしいのはあなたなんです。そんな人にうろつかれてたら、おちおち鍵探しなんて出来ません。」

「うるせえ!あたしは違うっつってんだろうが!だいたい、この女が“狼”だったらどうすんだよ。あたしが殺されるだけじゃねーか!」

「言ったでしょう。そうなる前にこの端末を使えばいいんです。そうすればそんなことにはならない。」


 矢継ぎ早に言葉を重ね、ギャル系女子の反論を封じ込める。


「いいですか、これ以上ここで無駄な言い争いをしてる暇はないんだ。これが最大限の譲歩です。それでも納得出来ないというのなら、今すぐ多数決を取るだけです。そうなった場合、投票で選ばれるのは恐らくあなたになると思いますけどね。」

「……。」


 最後はもはや、脅しともとれる物言いだった。

 しかし、もはやなりふり構ってはいられなかった。

 ギャル系女子は鬼のような形相でこちらを睨みつけてはいたが、言葉を発することはせず黙り込んでしまった。

 脅しの効果があったということだろうか。


「君も、それでいいかな?」


 ここまで蚊帳の外だった女子高生に向き直り、声をかける。

 彼女は驚き戸惑っているようだった。

 まさか、殺人鬼かもしれない人間と2人きりにされるとは思っていなかったのだろう。


「何かあったら、腕の端末を使うんだ。あの人がなにか怪しい動きをしたら、すぐにやってくれていい。自分の身の安全が最優先で構わないから。」


 女子高生はこちらに目を合わせず、視線を泳がせて心底怯えている様子だった。

 しかし、最後には小さく1つ頷いてみせた。

 少々心苦しいが、彼女にも他に選択肢は無いはずだ。

 ここは、気力を振り絞ってでも耐えてもらうしかない。


「よし、時間もないんで、俺はもう行きます。2人共、絶対にその場を動かないように。」


 もう1度指示を繰り返すと、雅史はスーツの青年の死体に近づいた。

 首の切断面と転がっている頭部はなるべく見ないようにして、懐のポケットを探り例の鍵を取り出す。

 出口に向かいかけたところでふと後ろへ振り返ると、2人の視線は雅史へと注がれていた。

 怒りと不安、対照的な2つの視線に見送られながら、雅史は薄暗い廊下へ駆け出した。

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