第三十一話 魔境の館で勉強会
「さ、ニア。ついたよ。ここが資料室だ」
「……」
ボクが隣のニアに話掛けるとそこにはげっそりとした彼女がいた。
あれだけ罠を発動させたのだから仕方はないのだが……むしろよくあそこまで罠に引っかかった、と感心させられるが。
おかげで罠が実際に
まぁ魔境にある館に入り込むような
いないことに
「ぐったりしているニアを元気づけるために何か面白い事をしたまえ、バトラー」
「……なんですかその無茶ぶり」
「無茶ではない。君ならできるさ」
「その過剰な信頼、この場では悪意にしか聞こえませんね」
隣にいるバトラーに言うと
ゆっくりと開けながらボク達を中へ誘導。
「ここが資料室」
「ああそうだ」
「資料室、というよりも図書館ですね」
「ふむ。そう言われるとそうかもしれない。まぁ中身が
中へ入ると先ほどまでぐったりしていたニアは回復し目の前に広がる光景に圧倒されているようだ。
これぞ自慢の資料室。
所せましと並べられた本棚にはぎっしりと魔法や武技、刻印魔法に錬金術等様々な分野の本が並べられている。
が、どれも一般的な書物ではないため『図書館』ではなく『資料室』とボクは呼んでいる。
中を進み多くの本から一冊の本を手に取る。
少しかび臭い臭いがするがこれはボクのせいじゃない。
ここに置かれるまでに時間を有し保護魔法をかけた時にはもうすでにこの状態だったのだ。
「ニア。これを」
テクテクと
「これは? 」と言いながらも受け取り軽く本をパサリと開いた。
するとすぐに目を見開きパラパラと
「これは魔法陣の
「もう耳に入っていないようですが? 」
「……集中力が高いのは時として欠点にもなり得る、ということか」
肩を
眼鏡を直しながらも食い入るように読む姿はどこか
「さ、ニアが勉強している間にバトラーは食事を用意してくれ」
「かしこまりました」
「……今晩は何が出るのかな? 」
「それはお楽しみ、ということで」
そう言い残しバトラーは資料室から出ていった。
パラパラと音がする中ボクは軽く本でもチェックしようか。
全部読んだはずだが思わぬ発見があるかもしれないからね。
幾つか本棚の前を歩く。上から下までじっくりといてまた動く。
分かってはいたけれど中々面白そうなものは無いね。ここが
そしてある程度
本当に人生というものは何があるのかわからない。
「お、これは」
本棚を歩きながら見ていると一冊の本が目に
比較的新しめの本だ。
と、言うよりもこれはボクがその昔に書いたやつだね。
いやはや感慨深い。あの頃は確か、と
「いやはや流石に黒は止めておくべきだったか」
独り
確か怒りに塗れて
普通はいらない、と思い込み、
内容がそんなにあるわけでもないのに金色が光っているのも痛い。
白い表紙というのも選択肢にあったと記憶しているのだけれども、確かあの時「白に金は派手過ぎる」と言ったのを覚えている。
文字の色を変えるべきだったか。
「【魔法糸を用いた軽量防具作成について】、か」
「師匠何ですか、それ? 」
「うぉっ! 」
呟いているとニアの声が近くからした。
少し驚き体をはねらせ、落ち着いてニアの方を見る。
何やら興味深そうに見ているのでこの本について説明した。
「へぇ、師匠が書いた本ですか」
「と言ってもそんなに大した内容じゃないから胸を張れるかと言われるとそうでもないのだけれどね」
「でもすごいですね。本を書くなんて」
「あぁ~、まぁね」
「本当に大したものじゃないんだよ。それにこれで技術が進歩したわけでもないし」
「そうなんですか? 」
と、言いつつボクが手に持つ本を手に取るニア。
ボクの前でペラペラと
なんだね、この拷問は。
自分が書いた本を目の前で読まれるなんてこれほどに恥ずかしいものだったのか。
学会発表の時ですらこんな感じじゃないのに。
ニア――弟子だからだろうか?
有り得るが、単に人に対して自分に免疫がないのも原因だろう。
実際バトラーに読まれたところで何も感じないし。
「ふわぁ~。これで人形を作ったら面白そうですね」
「……何をどうやったらそういう
「魔法糸で防具ではなく人形を作り、刻印魔法を刻み、
ほう。目の付け所は良い。
「確かにそれは面白そうだ。しかしそれには
「え?! え、えぇ~っと」
本を再度読み、ニアは集中。
ボクの急な質問に少し
その発想力に集中力。
ニアは考え抜いたのか
「……わかりません」
「そうだね。本来なら「自分で考えろ」と言いたい所だけれども、今回の目的はこれでもないし答えよう」
そう言いつつニアから黒い本を返してもらう。
「まず何に使うか、だ」
「? 」
「人形を作ったとして誰が、何に使う? 」
「え? えぇ~っと……。貴族様? 」
「そうだね。ならばここに書かれている技術や魔技師としての技術を用いて、例えば――歩く人形を作ったとしても使うのは精々お貴族様だけだ。ならば
「そ、それでも買ってくれる貴族様はいると思います! 」
「そうだね。『動く人形』。今の所、これほどまでに面白い存在は無いだろう。もし実用化されればこれを持つだけで一種のステータスになりかねないほどにね。しかしながらこれを作るのを
ボクの話を真剣に聞きくニアを微笑ましく見つつ続ける。
「それはコストだ」
「コスト? 」
「この、魔法糸はどのくらいコスト――つまりはお金がかかると思う? 」
「魔技師がつくったとして……金貨十枚くらい? 」
「白金貨で十枚。これが原価だ」
「はっきん?! 」
「そこに技術者が作ったことによりかかる費用を考えると、
本を定位置に戻す。
驚きのあまり固まるニアに近寄り少し肩に手をやる。
「ま、発想自体は悪くない。時間があったら試してみるといいさ」
「で、でも仕事に勉強が……」
「息抜き程度にやればいいさ。材料はこっちで
「え?! ほ、本当にやる
「ああ」
「さっきは否定したのに」
「もし技術が進歩して魔法糸の値段が下がった時の為の
「は、はい! 」
二人で話していると資料室の扉の方からノックとバトラーの声が。
「食事が出来たようだ。行こうか」
「行きましょう! 」
ここに入る時よりも元気な様子でボク達は食堂へ向かい食事をとる。
今日から数日間、取れた時間を使ってニアの強化を行った。
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