第607話 ディートマル・ミュンヒ2

 引き渡しも無事に終わり、役人や奴隷商人が去った後、全員を集合させる。


「こちらにいらっしゃるのが我らが主、ジェロマン・テルガニ様だ。コンヴィル王国からは侯爵、ラーフェン王国からは伯爵の爵位をいただき、この地を含めた領地を任されている。また魔銀(ミスリル)級、つまりSランク冒険者でもある」

 イドがジェロを紹介するなか、爵位のところではあまり反応が無かったが、Sランク冒険者のところでは小さな驚きが広がる。

 続いて、イド、レナルマンの順で家臣達の自己紹介も行う。


「私がジェロマン・テルガニです。命令することは追々あるかもしれませんが、まずは奴隷と言っても特に何か意識しないように。皆、同じテルガニ家の同僚と思って。他人から見たら奴隷か分からない単なる家臣と見えるように。それ以外は、仲間のためにならないことをしない、仲間のことを思って行動する、それだけをやって欲しい」

 ジェロがマドロールを、ラロシェル魔術師団長から奴隷として受け取り仲間にした時と同様の挨拶をすると、動揺が広がる。軍人だった男ばかりの100人もの反応であり、一人一人が小さな反応でも大きな波となる。

 逆にジェロもその反応に腰が引けるが何とか表に出ないように踏ん張っている。


「発言よろしいでしょうか?」

 ディートマルが代表して手をあげる。もちろんとジェロが答えると質問をしてくる。

「犯罪奴隷ほどではないにしても、我々は奴隷です。いろいろなことを命令できるはずですが、今後どうされるおつもりですか?」

「うーん、あまり将来のことまでは検討できていないけれど、しばらくはこの領地の開拓かな。みんながどのくらい戦えるのか確認して、この森の魔物を退治して貰ってそれを食料にするところからかな」

「テルガニ侯爵閣下は戦争で成り上がったのに、我らを戦地に送り込んで手柄を狙わないのですか?」

「!」

「イド、良いよ。まず私への呼び方は単なる“様”にしてくれるかな。で、そうだね。成り上がりなんだけど、たまたまだよ。元々孤児院の出身だし。で、できれば戦争には関わりたくないかな」

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