第503話 ザーローネの街
「そうか、敵将の名前はマリオ・ネッツァー少佐。敵ながら見事な玉砕。一兵たりとも背中を見せず最後まで我々の足止めに全力を尽くしたか」
「今は帝国に完全に併合され名前が消滅した小国の一つにネッツァーというものがあったかと」
ラーフェン解放軍の司令官アクセル・ドゥケは、副官ジョルジュ・アルノワの報告をうけ、もう一人の副官マテオ・デュクロとともに、敵将の覚悟を知る。
そしてザーローネの街へ進軍を開始させたところで、ユニオール皇国方面からの狼煙を見つける。
「あれは!」
「どうもベルカイム王国の方面で良くない状況になっているようですね」
「ザーローネの街へ急がなくては!」
そうはいっても、歩兵や王族の馬車、多くの兵を食べさせる輜重車も含まれた1万の軍勢の歩みは遅い。皇都ナンテールを出発したときには合流する部隊を待つのも含めてわざとゆっくり進んでいた意図もあったが、現在は急いでいても遅い。足の速い騎馬隊だけで先に進んでも街の攻略には不足であり、結局は全軍で進む必要がある。
幸いにして帝国軍も、国境の守備隊以外にはザーローネの街までの間に配置していないようで、それ以上の足止め、兵の損失はなく到着できた。
ザーローネの街は他国が侵略して来たときの防衛拠点になるため、それなりの城壁が構築されている。しかし、ラーフェン王国はユニオール皇国と戦争をすることは想定していなく、ラーフェン王国も立国時以来、その城壁の増強などはして来ていないため、その程度の造りである。
街道沿いにあるザーローネの街に到着し、街道側で皇国軍が陣地を設営している間に、狼煙が見える。今度は場所的に、ラーフェン王国内で帝国軍が伝達に使用している狼煙、それからしばらくして皇国の中を伝達して来た狼煙の両方が確認できた。
「つまり、帝国にとっては良い知らせ、皇国にとっては悪い知らせです。ベルカイム王国の方面で状況が急変しているとしか分かりません」
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