第12話・緊急
「や、やめろよ、離せよぉっ!」
ああ、なんて最悪な。
なんなんだこいつは、と混乱するしかなかった。宗介はこれでも、大学時代はアメフト部だったのである。パワーがものを言うラインマン。最前線で、敵の壁役とぶつかってふっ飛ばすのが自分の仕事だった。身長195cm、体重89kgの日本人離れした屈強な体格と怪力が武器。残念ながら卒業後はアメフトを離れたが筋トレは続けているし、今もアサガオ建設でパワーと体力を活かした仕事を続けている最中である。
そう、自分は仕事の休憩時間、ちょっとばかしうたた寝をしただけのはずだった。それがなぜ、こんなわけのわからない夢を見る羽目になっているのだろう。朝、出勤前にちらっと見た動画のせいだろうか。あの、エミシとかいうユーチューバーの、拷問屋敷だとか獄夢だとかいう。
――まさか、これがその夢だって言うんじゃねぇだろうな……!?
馬鹿げている。そもそも、あの動画が投稿されたのは何日か前で、自分よりも前に見た奴がたくさんいるのだ。そいつらをふっ飛ばして、自分が夢の対象になるなんてなんとも馬鹿げた話ではないか。
普通に考えるなら、あの動画を見た影響でおかしな妄想をしてしまって、自分がそれっぽい夢を見ていると思うべきだろう。普通にありえることだ。火曜ドラマをがっつり見て寝たら、夢の中にその女優が出てくるようなものである。
そう、宗介も思いたいのだが。なんだろう、この妙な悪寒とリアリティは。
――俺を軽々と担ぐとか……こいつ、どんだけ力持ちなんだ?
あの動画を見たとき、獄夢なんてあるわけないとタカを括っていた。そして、仮に自分が見る羽目になっても実害なんてあるわけがないと。理由は単純明快、己の肉体の強さに絶対の自信があったからである。
ハリウッド映画を見ていればわかる。日本のホラーとは違って、大抵は肉体的、物理的に力を行使することで怪物をやっつけるのがあちらの流行だ。機械や武器を使うこともあるが、拳で戦って怪物をやっつけることも多い。宗介は昔からあの手の派手な映画が大好きだった。多少何か怖いものが目の前に現れたとしても、拳で戦えない相手なんかそうそういない。それこそ例の井戸から出てくる幽霊だとか、呪われた家の幽霊だとかだって、拳でぶちのめせばきっと退治できるはずだと信じていたのである。
だから、今回もうまくいくとばかり思っていた。
獄夢の可能性も考えたが、オカルトな夢であれ普通の夢であれ、自分の拳とタックルで対処できない敵はいない。そりゃ、大学時代の大会ではさほど勝てなかったが、あれは自分自身のパワーが敗北した結果ではなかったと思っているから尚更である。
妙な庭のような場所で、あの黒い影に遭遇した。男、と表現したが本当に男かどうかはよくわからない。こいつがこの館の主に違いないと革新し、宗介は真っ先に殴りかかったのである。向こうはまだ自分に気づいてなかった。逃げるなんて性に合わない。どうせ戦うなら奇襲で一発ノックダウンさせてやればそれで終わり、そう思っていたのである。
しかし。
――何が起きてんだ。畜生、畜生!
黒い影を殴った手応えは確かにあった。影が庭をふっとんでいくのも。これでよし、と思った次の瞬間、宗介は全身から力が抜けてへたりこんでしまっていたのである。
そして、気がついたらソイツは目の前にいて、巨漢の宗介を軽々と担ぎ上げていたのだった。力いっぱい暴れたが、まったく影の手が外れる様子はなかった。それどころか、暴れれば暴れるほど力が抜けていくのを感じたのである。
なにかの薬でも使われたか、ファンタジー的な要素があるなら術か。これが夢の世界である以上、どっちもあり得る話だった。
――俺をどこに連れて行く気なんだ?
影はゆっくりと、灰色の階段を降りていく。
――本当に、これから拷問されるってんじゃないだろうな……!?
ぞわり、と背筋が泡立つ。アイアン・メイデンに入れられ、全身穴だらけにされる自分を想像した。夢の中であっても、そんなおぞましい体験したいはずがない。なんとか、その前に脱出することはできないだろうか。
――お、お、落ち着け。そうだ、焦るこたねえ。俺をどこかに拘束するなら、確実に一度体を降ろす。その時にダッシュで逃げればいい。
幸い、自分はまだどこも拘束されていない。手も足も自由な状態なのだから、いくらでも逃げるチャンスあるはず。拘束されたところで、自分の腕力なら物理的に破壊することだってきっとできるはずだ。
しかし、ここで宗介にとって最大の誤算が起きた。黒い影が階段をおりきったところで足元のスイッチのようなものを踏むと、ういいいいん、と音を立てて眼の前の床が開いていったのである。眩しさに思わず顔を顰めた。そこは、明るいライトに照らされた白い部屋であったからである。どうやら、すぐ真下に一つ部屋があって、その入り口がボタンひとつで開く仕組みになっていたらしい。
何をする気だ、と思った瞬間。ふわり、と宗介の体が浮かび上がった。
「ま、まさか」
刹那。宗介は勢いよく、開いた入り口に投げ込まれることになる。
「うわぁぁぁっ!?」
強かに肩を打ち付けて呻くことになった。真下の部屋に人を投げ入れるなんて、なんと乱暴なことをするのか。思わず相手を睨んだ直後、機械音を立てて入り口がしまっていくのを目にすることになる。
「て、てめえ待ちやがれ!何しやがるんだ、このっ!」
怒鳴ったものの、まったく反応はなし。宗介が投げ込まれた天井の穴は閉じて、普通の天井とまったく同じになってしまった。さすがにこの展開は予想していなかった。拷問されるというからてっきり、拘束されて台にでも固定されるか、アイアン・メイデンのようなものにでも突っ込まれるとばかり思っていたのに。
天井はそれなりに高く、部屋は広い。宗介がジャンプしても、手が届く気配はなかった。
――ち、ちくしょう!これじゃ、脱出できねえ……!
真四角の白い部屋。天井に四角いランプが埋め込まれているので、室内は明るい。しかし、他には本当に何もなかった。窓も、ドアも、RPGゲームでお約束のギミックっぽい突起物も何もない。
もちろん、壁や床を調べればまだ何かが存在する可能性はあるが。
――嫌な予感がする。このまま、閉じ込められただけで終わりとは思えねえ。
拷問屋敷。それが本当なら、自分もこれから拷問されるはず。まだ己の妄想の可能性もなくはないが、いずれにせよ一刻も早く脱出したほうが良いに決まっている。
壁の向こうには何か機械でもあるのか、ゴウンゴウンと低く唸るような稼働音が聞こえてきていた。ひょっとしたら、どこかから水が流れ込んでくるのかもしれない。あるいは、部屋の温度がどんどん暑くなったり寒くなったりなんてこともあり得る。どちらにせよ、逃げ場のない空間でそんなことになったら絶体絶命だ。
――あの天井を開けるスイッチとか、あるいは床とか壁に何か隠し扉があるとか。あるはずだ。なかったら困る!
やがて。宗介の予想は、最悪の形で当たることになるのである。
気がついてしまったからだ。徐々に、部屋の形が変わってきていることに。正方形だったはずの部屋の床が、いつの間にか長方形に変わっているのだ。
違う、これは。
――か、壁が迫ってきてやがるのか……!?
あまりにも速度がゆっくりで、すぐには気づかなかった。向かい合わせのニ枚の壁が、じわじわと中央に向けて動き始めているのである。
このままでは最終的に何が起こるかなんて明白だった。この部屋から逃げるか壁を止められない限り、自分は潰されて殺されてしまうだろう。
――じょ、冗談じゃねえ!そんな死に方してたまるか!!
***
【本日の】ガチで怖い話を語ってこーぜ! part196【ホラー】
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115:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
そんな自動システムいらない!マジでいらない!!!!!
116:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
トイレを勝手に開けてくれるなんて便利な幽霊さんだねー(白目)
117:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
よっぽどあなたのことがすきなんだね(大混乱)
118:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
みんな他人事だと思って好き勝手言いやがって(´;ω;`)
トイレで踏ん張ってる時に鍵が勝手に開いてドアも開いて、廊下には誰もいないんやぞ!!!!
おっさんがふんばってるところ見たい幽霊がいるのかそういう意味でも嫌すぎるだろおがよおおおおおお!!!!!
119:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
大草原不可避
120:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
それはほんとに可哀想にねwwww
121:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
カワイイ女の子の幽霊だといいねwwww
122:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
>>121
カワイイ女の子にウンコ覗かれたい趣味でもあんの????
123:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
すまん、ちょっと相談。
ユーチューバーのエミシが最近投稿した、拷問屋敷の動画、見たことある人いる?
あれで獄夢を見たら、逃げ出す方法知ってる人いる?いたら教えてほしい、緊急で
124:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
エミシってあいつか
125:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
あー、この間の動画ね、見た見た
しょっぱい都市伝説でしょ?まさか獄夢とかいうの見たっての?
126:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
釣りでもいいわ、面白そうだから話してちょ
127:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
待機
128:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き>>123さん
今朝、エミシの動画を見たんだ通勤の途中に
それで仕事中の休み時間についうたた寝したら、変な屋敷の中みたいなかんじで
黒い人影に襲われて、抵抗したけど捕まって、よくわかんない白い部屋に入れられた
そしたら壁が迫ってきて潰されそうになったところで目が覚めた
129:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
情報少なすぎる
130:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
壁が迫ってきた?それだけ?
131:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
圧死系か、個人的には十分嫌だけどな(;´Д`)
132:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
ちょっと地味だね
133:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き>>123さん
壁が迫ってくる速度がゆっくりだから今回はなんとか生き延びられて夢から覚められたけど、今夜眠らないわけにもいかない
今夜はギリギリ助かるかも知らないけど、多分明日は確定でアウトだと思う
まだ俺の妄想の可能性もあるし、本物の獄夢じゃねえかもしれないけど、でももし本物だったら笑い話にもならない
一刻も早く夢から逃げ出さないとやばい
たのむ、誰かその方法を知ってたら教えてくれ、今日なんとかしないとほんとにやばい
134:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
結構びびりだなww
135:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
なんとかしてと言われても情報が少なすぎてなんもわからんて
136:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
ていうか釣るならもう少し面白い拷問にしろよー
アイアン・メイデンとか、もっと血がドバーッで出るやつ!
137:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
はげど
圧死って派手に見えるけど、壁が迫ってくるまではひまっつーか
派手さがまったくないじゃん?
138:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
もっとちみちみ痛めつけられる方が痛そうでみんな興味引けると思うよー?
爪剥ぎとかどう?
139:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
>>138
そっちのが地味じゃない?
140:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
圧死だと壁が迫ってきたらわりとすぐ死ねそうで退屈だよね
141:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
うわー、みんな好き勝手言ってんなぁ
142:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き>123さん
ふざけんな!!!!!なんでだよ、こっちは本当に死ぬかもしれないってのに笑い話にしやがって意味がわかんねえよ!!!!!!
人が死にかけてるのがそんなに楽しいのか、面白がってんじゃねえぞクソが!!!!しね!!!!
143:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
気持ちはわかるけど落ち着けって
144:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
うっわキレた
それが人にものを頼む態度ですかー?
145:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
逆ギレ野郎の話なんか誰も聞きたくないつーの
面白そうな話ができない自分が悪いんじゃん
146:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き>>123さん
冗談じゃねえつくり話扱いされてたまるか!!!
ほんのうのことをふつうに言ってるだけなのになんでおもしろが、せないといけないんだよざけんじゃねえよ!!!!
ふざけんなよたすけろよまじで!!!!!!
147:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
誤字酷すぎて読みづらいです、解散
148:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
まあ、エミシの動画は面白かったし、獄夢に関しては興味あるけどねw
149:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
動画見ても無事なやつたくさんいる時点で釣り乙としかwww
150:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
犯人のサイコパス殺人鬼ってどんなのかなー?
ていうか夢なんだからビビリすぎだろw
現実で死ぬわけでもないんだしさー
あれ、夢の中で死んだら現実でも死ぬんだっけ?
151:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
さあ?
152:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き名無しさん
どっちでもいいやー
153:こっくりさん、今日も召喚中@ホラー大好き>>123さん
ふざけんなふざけんなふざけんな
ほんきでこまってるのになんでだよ、わらってんじゃねえよ
おねがい、たすけて
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