6

国王が王宮の騎士を呼び、魔力封じの手枷を禁忌魔法に関わった全員と息子に嵌めて、緊急会議を行う為に会場から出て行った。


パーティに集まっていた貴族達も、会議に出席するのに国王の後に続いた。


残った卒業生や一年生も自分の家に帰され、断罪で嘘の証言をした者達は家に帰れず、王子と浮気相手と共に〈閉縛の塔〉に入れられた。


そこにはマリオネットマインドに関わった貴族達も入っている。


国家重罪犯を収監する〈閉縛の塔〉は、窓もなく出入口は1階の1つのみで、魔力も吸い取られ魔法が何一つ使えない。


一度入れば、出入口の扉は国王しか開けられず逃亡する手段のない塔だ。





「やっと終わったわね~。

見物しかできないのってしんどいわ~。」


小会場に残っていたのは漆黒の塔の三人とフレイヤ、ヨルズノート、ヒルデガルダだけだった。


だからこそ賢者イーヴァルディは威厳の欠片もなく、不満を口に出来たのだ。


「自分達で決着をつけたいと言われたから手出しはしなかったが満足したか。」


隠者ヴォルヴァはアスガルズ王国の将来と弟子三人の心情を憂いていた。


「魔力の圧のかけ方が雑すぎますよ。」


ヴァルキュリアはこんな状況でも指導を忘れない。


フレイヤ、ヨルズノート、賢者と隠者の四人は弟子も大概だが師も非常識だと引いてしまった。


そこに帰ったと思ったヨルズノートの婚約者、ダグとイズンが近づいてきた。


ヨルズノートを守るようにフレイヤとヒルデガルダが前に出る。


ヨルズノートは二人の腕を取り笑って首をふる。


二人の気持ちは嬉しいがダグの事は自分で決着をつけなければならない。


フレイヤとヒルデガルダは躊躇ったが、大人しく退る。


「ヘルモーズ公爵令息様、自宅にて待機せよと王命が出ているのに、まだいらっしゃったの?」


ヨルズノートの他人のような態度にダグは困惑した表情をしていた。


「ヨル、一体っ、ぐっ⋯ガハッ!」


ダグが喋っている途中で蹲り血を吐いた。


「似非紳士がヨルに馴れ馴れしいですわ。」


「屑が!」


フレイヤとヒルデガルダの魔力の圧を受けたのだ。


イズンは魔力の余波をうけ、へたり込む。


「二人とも落ち着いて。

ヘルモーズ公爵令息様、もう婚約者ではないので、愛称で呼ぶのは止めてください。

こんな事は言いたくありませんが、私は貴方にそんな風に呼ばれたくありません。」


ダグは息を乱しながら漆黒の塔の第二位、魔道冶師となった嘗ての婚約者に頭を下げる。


「申し訳ありません。

ですが貴女がどうして漆黒の塔に入れたのか、以前とはあまりにも違うし、それに⋯」


ダグの言い淀んだ先をヨルズノートが引き取る。


「それに死んだのに何故生きているのか聞きたいですか?」


その言葉に視線を逸らした。


「その前にイズンさんを立たせてください。」


へたりこんだイズンの存在を思い出し、ダグは手を貸して立たせる。


「貴方に言えるのは私は死んでないし、そちら有責での婚約破棄は決定している。

ヘルモーズ公爵家は終わりです。」


ヨルズノートはイズンを見てからダグに視線を戻す。


「君、いや、貴女は禁忌魔法を使ってイズンを殺そうとした。

その件は魔導冶師になろうとなくなるものじゃない!」


まだわかってなかったのかとヨルズノートは呆れた。


「イズン様を禁忌魔法を使って殺そうとした証拠は?」


ダグはイズンを見たが、イズンは顔を背けた。


「イズンが死の呪いだと⋯

それに血溜まりで倒れている貴女を見た。」


イズンの行動で自信がなくなったのだろう、小さな声で言った。


「つまりイズンに言われただけで信じたんですね。

血溜まりの私を見たと言ってますけど間近で見たんですか?」


「いや⋯」


「でしょうね。

はあ、もうこんな屑に同情した私が本っ当に馬鹿だったわ!」


自身の愚かさを再認識してヨルズノートは自嘲した。


「しかしあれはっ!」


「あれは人形だよ。

それに私がかけたのは当日だけ猫耳が生える呪い。

貴方は私の両親にも死の呪いって言ってたから、こちらでも王宮魔術師と漆黒の塔の魔術師と魔法師で検証しました。

そんなものは一切なかった。

王宮の魔術師に聞いてみればわかるよ。」


イズンはヨルズノートの言葉に敵意を剥き出しにして叫ぶ。


「あんたが周りを唆して隠蔽したんでしょ!

あれは絶対に死の呪いよ!」


「だから証拠がないじゃない。

漆黒の塔は仲間だからって庇わないし、王宮の魔術師は真実の宣誓をしてるから嘘はつけないんだよ。」


王宮魔術師はその職に就く時に魔法、魔術関係で真実しか言えないように契約魔法を施される。


「そんな、あんたは私に死の呪いをかけて私がそれを弾き返して死ぬのよ。

そうじゃなきゃおかしい。」


独り言のような呟きにヨルズノートは嘲笑う。


「いくら妄想でもえげつないね。

頭大丈夫?」


イズンはその嘲りに顔を真っ赤にした。


「妄想じゃない。

ゲームではそうだったもの!」


言った途端にハッとなって両手で口を覆うが遅かった。


「やっぱりゲームを知ってたんだね。

誰か魔力封じの手枷持ってる?」


隠者ヴォルヴァがヨルズノートに手枷を渡し、それをイズンに嵌める。


ついでにフレイヤが口封じの魔法でイズンを喋れなくした。


ダグはこの展開についていけずイズンとヨルズノートを交互に見る。


「どうしてイズンを⋯」


「イズンがさっきゲームって言ったでしょ。

ゲームを知ってるのは【千里眼】か王妃の仲間のどっちかなんだよ。

【千里眼】なら私を禁忌魔法を使った罪人に仕立てあげようとした悪人だし、王妃の仲間ならもっとヤバいよ。

そんであんたはそんな女に入れあげ、婚約者を蔑ろにして禁忌魔法の罪人にしようとした共犯。」


ダグの顔が一気に青くなり一歩後ずさる。


「でも呪いをかけたんだろう。

なら⋯」


「一口に呪いといっても色々あるんだよ。

1日猫耳が生えるおふざけ程度のものなんて、説教されて終わり。

宴会で盛り上がったら時々やる人もいるんだから。」


呪術関係は闇属性や呪術を扱える人間しか精通していない。

ダグが詳しくないのをヨルズノートは知っていた。


「私はヨルを陥れようなんて思っていなかった。」


首を振りながら必死に否定するが、今更だ。


「ヨルって呼ばないでよ。

知っているかどうかなんて私にわからないけど、あんたはその女と不貞して私を禁忌魔法を使った罪人にしようとした。

後は推して知るべしだよ。」


無表情でダグを見据えて事実だけを告げた。


いつの間に来たのか王宮の騎士がイズンとダグを連行して行った。


ヨルズノートは大きく息を吐いて体の力を抜く。


その手をフレイヤとヒルデガルダが握った。


「こっちも終わったよ。

フレたんもヒーたんも守ろうとしてくれてありがとう‪☆」


笑顔でお礼を言うヨルズノートの顔に翳りがないか確かめ、完全に吹っ切れている様子に二人は安堵した。


「これで本当に終わりましたのね。」


「お疲れ様でした‪☆」


「やっと本当の自由だね。」


三人の悪役令嬢は心からの笑顔を浮かべて抱き合った。




「なーんかいい感じに終わらせようとしてるけど、三人とも漆黒の塔の第二位になったから、自由だけど忙しくなるわよ♬.*゚」


「それに後処理でこの国は荒れるかもしれん。

そのせいで逆恨みを買わないようにしておきなさい。」


「まだ貴女達に教える事もありますし、書類仕事とか書類仕事とか。」


賢者イーヴァルディ、隠者ヴォルヴァ、ヴァルキュリアの三人の師から発せられた恐ろしい未来にゾッとなった。


「少しは感慨にふけらせて下さいませーーー!」


「私、この会場を覆う魔道具作るのにほとんど寝てないのにーーー!」


「わたしのダラダラ生活がーーー!」


元悪役令嬢三人の悲鳴が響き渡った。



[完]




★ Σ ★ Σ ★ Σ ★


読んで頂きありがとうございますm(_ _)m


一応これで完結となります。


好きなものだけ詰め込んだら(友情、バトル、剣と魔法)女性向けでありながら恋愛ほぼ0のポンコツ作品となりましたが、書いてる本人はノリノリでした( ˶¯ ꒳¯˵)


これにコメディを入れれば収拾がつかなくなるところでした。(実際はコメディで書く力がなかったんですがorz)


最後の黒幕を国王にしようか王妃にしようかと悩み、国王なら最強ラスボスとしてバトルを繰り広げられる!と意気込んで書こうとして( ゚д゚)ハッ!思い出しました。


(これ、一応女性向けですやん·····)


で、ラスボスは王妃になりました。


それ以外は迷走もあまりなく手直し程度はありましたが、大きな書き直しがなかった初めての作品でした。


完結までお付き合い下さった皆様、お気に入り登録や感想を下さった皆様には感謝しかありません。


本当にありがとうございました。


((。´・ω・)。´_ _))ペコリ


(この後はちょっとお時間を頂き番外編を書きたいなぁと思っています。)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る