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フレイヤは一礼して国王を見据え


「もう茶番劇は終了したいと思いますの。」


と笑顔で伝える。


国王は未だ混乱しているような顔で聞いてきた。


「どういうことだ。

近衛騎士を一瞬で倒すなどありえん。

どうしてそなたが治癒魔法を使えるのだ。

それにスクルド嬢の変化は何があったら·····」


「私の容姿って今関係ある?」


小声で二人に聞くと


「混乱していらっしゃるから。」

「結構衝撃的だよ。」


フレイヤはフォローしたがヒルデガルダは遠慮なく言ってきた。


ヨルズノートも否定できず口を尖らせる。


三人が内緒話に我慢できなくなったのか、王妃が立ち上がり扇を突きつけてきた。


「こそこそ何を言っているの?!

さっさとその女を捕らえなさい。

それとも貴女達もその女の仲間なの?!」


フレイヤは王妃に目を向けにっこりと微笑む。


「その通りですわ。

ヒルデガルダはわたくしの親友ですの。」


ヨルズノートも笑顔で答えた。


「仲間じゃなきゃあんな重い剣をスカートに隠して持ってきたりしません。」


「なっ?!」


「重かった?」


「結構重かったよ‪~。

よくあんなの軽々と振れるね、凄い‪☆」


「慣れかな。筋トレも結構してるし。」


「その割にムキムキじゃないよね。

羨まし~‪☆」


ヨルズノートとヒルデガルダは王妃の怒りを気にせず、筋肉で盛り上がっていた。


フレイヤは風の魔法で二人の額にデコピンし話を戻す。


「そういう訳ですのであなた方にヒルデガルダを渡しませんわ。」


王妃はブルブルと震えながら叫んだ。


「この女は陛下の近衛を倒したのよ!

それが意味するのは反逆よ!

貴女達も反逆罪に問われたいの?!」


こちらを睨む王妃の視線など気にせず、フレイヤは自分の開いた扇を見遣り、ゆっくりと閉じながら答えた。


「反逆罪とは大袈裟ですこと。

ですがそれは国があってこそ。

国が無くなれば反逆や謀反など問えませんわ。」


最後に扇をパチンと閉じて王妃を見据える。


「それはそなたらが国を滅ぼすとの布告か?」


国王の恫喝にヨルズノートが笑顔で返した。


「何か勘違いしているみたいだけど、国を滅ぼすのは私たちじゃなくてそっちですよ。」


「さっきから何を訳の分からぬ事をーーー」


国王の言葉が途中で途切れる。


視線が三人を越えて入口を凝視し、驚愕に目を見開いた。


「報告があってわざわざ来たのだが、取り込み中か?」


会場にいる皆の視線が声のした方を見て、国王と同じく驚愕する。


それもそのはず、入口に現れたのは賢者の証である漆黒のマントを纏った男、賢者イーヴァルディが入ってきたからだ。


その後ろから黒灰色のマントの隠者ヴォルヴァ、藍色のマントのヴァルキュリアが付き従うように入ってくる。


途中に転がっている近衛騎士をヴァルキュリアがチラリと見ただけで三人とも気にせず歩を進めた。


フレイヤは王子と浮気相手以外の拘束魔法を解く。


拘束魔法を解かれた全員が最敬礼をして、漆黒の塔の最高位、賢者に礼を尽くした。


国王と王妃、側妃も高座から降りて深深と腰を折る。


「我が国にお越しくださるとは望外の喜びなれど、いきなりの訪問ではお迎えする準備が⋯」


一国の王であっても大国でもないアスガルズ王国の君主が、大陸中が畏怖する賢者を相手に追い返すなど考慮の余地もない。


実態は取り立てが鬼畜なおネエなのだがーーー


賢者イーヴァルディが気にするなと言うように手を振った。


「肩苦しいのは苦手でね。

今日来たのは漆黒の塔に新たな仲間が入ったのを知らせるためだ。」


漆黒の塔ではおネエ言葉だが、公の場ではしっかり賢者としての威厳があった。


国王は賢者イーヴァルディの言葉に困惑する。


通常新たに漆黒の塔入りがあった場合、書面で知らせるのみで、わざわざ最高位の賢者や第二位の隠者、魔剣主ソードマスターが来るなど有り得ない。


「驚くのもわかるが、今年の新人が私たち三人の弟子で、今日はこちらに来ているのだ。

師匠が弟子にマントを渡すのが慣例なのでね。

いいかな?」


賢者イーヴァルディが言い終わると周りがまた騒がしくなった。


漆黒の塔では師が弟子にマントを贈るのは有名な話だ。


その為に来たと言うことはこの中に漆黒の塔に入る者が三名以上いる。


国王もフレイヤ達三人を早く追求したいが、賢者に否と言える度胸はない。


環境の厳しいアスガルズ王国では漆黒の塔の助力がどの国よりも必要という切実な事情もある。


「賢者のお言葉に逆らえましょうか。」


「アスガルズ王国の国王は度量が大きいな。

では、我らの弟子にマントを渡そう。

こちらに来なさい。」


フレイヤ、ヨルズノート、ヒルデガルダがそれぞれの師の前に歩いていく。


会場が一際どよめいた。


それに構うことなく三人の師は弟子にマントの入った包みを渡した。


「開けて見てみなさい。」


賢者イーヴァルディがニヤニヤと弟子達を促す。


その笑みに三人は嫌な予感がしてなかなか開けられない。


「忙しい合間を縫ってわざわざ・・・・もってきたんだ。

愛弟子の晴れ姿を早く見せてくれ。」


そこまで言われては開ける他なく、三人は恐る恐る包みを開いた。


その色を見た瞬間、三人は膝から崩れ落ちた。


周りは三人の様子に首を傾げる。


賢者イーヴァルディは深緑色・・・のマントをヨルズノートに纏わせ


「おめでとう。今日から魔導冶師よ。

この次元結界や今回の魔道具を作っておいて逃げられると思わないでね。」


とニヤニヤしながら言ってきた。


「·····ありがたき幸せに存じます。」


隠者ヴォルヴァもフレイヤに黒灰色・・・のマントを掛け


「まあ、仕方ないだろう。」


と諦めるように伝える。


「·····謹んでお受け致します。」


魔剣主ソードマスターヴァルキュリアは不敵に笑ってヒルデガルダに藍色・・のマントを羽織らせ


「邪竜を降しておいて黒騎士になれると思いましたか。」


と冷たく言った。


無茶をした弟子にまだ怒っていたのだ。


「·····拝命します。」



三人はこれで雑用係と変人予備軍の決定にガックリと肩を落とした。


その様子を見ていた王妃が悲鳴を上げて叫び出した。


「嘘よ!どうして悪役令嬢が漆黒の塔に入るのよ。

あんた達はここで断罪されて殺されるのに!!」


王妃の叫びに三人は立ち上がり王妃を見据える。

(雑用係云々は後で考えようと三人ともが棚上げした)


「王妃、何を言っているのだ?!」


国王は王妃の不穏な発言に焦って王妃を見た。


「やはり貴女だったのですね。」


フレイヤの言葉に王妃はハッとなり慌てて扇で口元を隠した。


「何を言ってるの。」


「今更とぼけても無駄だよ。今悪役令嬢って言ったじゃん。」


ヨルズノートの礼を失した態度に扇を持つ手が震える。


「小娘が無礼な口を!」


「小娘でも漆黒の塔第二位だよ。

王妃程度に無礼とか言われる筋合いないけど。

あんたは王様より偉いわけ?」


ヒルデガルダの言葉に国王は慌てて王妃を叱責する。


「あのマントの色を見よ。

三名とも王妃が礼を欠いていい方では無い。」


王妃は三人のマントの色を凝視しながら「嘘よ、そんなはずない。」と繰り返していた。


三人は王妃の前に行き、フレイヤが笑顔を消して王妃を見据える。


「貴女がわたくし達を操っていたのですね。」


王妃はその言葉に三人を見据え、扇の下で歪に笑った。


「何を言ってるの。

操るってなんの事かしら。

いくら漆黒の塔に入ったからと、あまりにも失礼ではなくて。」


「しらばっくれるより素直に認めた方が罪が軽く·····はならないね。

でも早く認めた方がいいと思うよ~☆」


ヨルズノートの巫山戯た言い方に額に青筋を立てて否定する。


「巫山戯るのもいい加減になさい!

知らないと言っているのよ!!」


王妃の体から魔力が漏れ出て三人に圧力をかける。


ヒルデガルダが前に出て剣を振り、その風圧で魔力の圧が霧散し王妃の扇だけを真っ二つにした。


「王妃が答えなくても、別に教えてくれる人がいるからいいんじゃない。」


そう言って側妃に目を向ける。


三人の目線に晒された側妃は体をガタガタと揺らしながら蹲まる。


「わたくしは王妃陛下の言われた通りにしただけです。

そうすれば皆が幸せになれると言われたから!

側妃であるわたくしに拒否など出来なかったのです!!」


側妃は泣きながら言い訳をしてきた。


それを哀れに思うようなヒルデガルダではない。


「皆って誰?

自分の利益のある人?

王妃に言われて拒否出来なくても阿呆をまともに育てる位はできるでしょ。

言い訳するにしてももっとマシな事言って。」


魔力の圧をかけながら側妃の言い分を切って捨てる。


皆がヒルデガルダの容赦の無さに引いていたが、ヴァルキュリアだけは弟子の成長を喜ぶように頷いていた。


フレイヤとヨルズノートは早く終わらさないとヒルデガルダの怒りで本当にアスガルズ王国が滅亡すると、王妃に引導を渡す事にした。


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