4
ヒルデガルダの一日は学院に行って授業中に爆睡し、邸に帰ると自室にフレイヤお手製の漆黒の塔までの転移陣で飛び、訓練と勉強と時間があれば緑葉の間でダラダラし、夜になれば遊びに出かけて朝王都のキリング邸に戻り学院に行く支度をする。
漆黒の塔での時間以外はゲーム通りの行動をしていた。
ゲームと違うのは漆黒の塔で大半を過ごしている点だ。
漆黒の塔で、勉強を教えてもらい訓練もしてくれて(ついでにご飯も食べせてもらって)いるので、お世話になり始めた頃にお金を払うと言ったが皆が「出世払いで!」と笑顔で受け取ってくれなかった。
年々ヒルデガルダだけでなくフレイヤ達も、あの時に強引にでも生活費を渡しておけばよかったと後悔が強くなっている。
三人とも出世払いが賢者だったらどうしようと不安になっているのだ。
そんな三人だが学院ではほとんど接触せず過ごしていた。
漆黒の塔入りが国にバレる訳にはいかないからだ。
王家に漆黒の塔に入れるほどの知識や実力、それ以上に【千里眼】の持主だと判明すれば、ヒルデガルダの親は王家に娘を売るのは確実で、フレイヤの親も国の為に娘を差し出すだろうと本人が言っていた。
ヨルズノートの親は娘と王家の板挟みになり、彼女が耐えられない筈だ。
三人とも婚約者に蔑ろにされ浮気されているのに、そんな三人が一緒に居れば探られるに決まっている。
だから学院では他人のフリをし、ヒルデガルダはゲームの登場人物の観察を睡眠の合間にしていた。
そしてゲームの話を聞かされてから感じていた疑問が強くなっていくが、まだ決定打にならずフレイヤの階段落ちが決まった。
ヒルデガルダは抑えようのない怒りを感じる。
何故いつもこちらが辛い選択をしなければならないのか?!
フレイヤはフォルセティに対して制限された中でまともな忠告をして、教科書を破ったり足を引っ掛けても後でできるだけのフォローをしていた。
やっている事は褒められたものではないが、あの女狐はその何倍もフレイヤを傷つけているのだから放っておけばいい。
はっきり言って自業自得だ。
やられても許せる
(いや、ヨルは婚約者も被害者だからとか言って許そうとしてたな。
·····そばに
今更に価値観も趣味も共通する何もない己を受け入れてくれた二人に感謝の気持ちが湧いてきた。
運命共同体と転生者のよしみだろうが、それでもヒルデガルダの面倒くさがりな所も割り切りすぎる性格も呆れられはするが、一度も嫌がるような態度はとられなかった。
ならばヒルデガルダにできるのはギリギリまで階段落ち以外の方法を探して見つからなければ精一杯のフォローをするしかない。
(あの女狐と屑王子、断罪の時には覚えてろ!)
結局何の代替案も出ずに階段落ちの日が来て、ヒルデガルダはヨルズノートと隠れてフレイヤと女狐が落ちてくるのを待った。
ここまで来ても本当にこれでいいのか、何としても止めるべきではなかったかと考えていた。
それも叫び声が聞こえて重いものが落ちた音に思考をかき消され、急いでフレイヤの元に行き治癒魔法をかける。
(頭からの出血が多すぎる。
治癒は苦手なんだから早く止まって!お願い!!)
ヨルズノートに作って貰った魔力増幅器を握りながら頭部を治癒していく。
体内の魔力がほとんどなくなり目眩と吐き気がしたが、修行で慣れているから大丈夫と自分を誤魔化し、フレイヤの止血が終わり心臓が動いているのを確認してフォルセティの治癒を最後にする。
本当はこんな女を治癒するくらいなら全てフレイヤに使いたかったが、フレイヤが命をかけてこの女狐の下敷きになったのを無下にできなかった。
(あんたは無傷でいてもらわなきゃフレイヤのやった事が無駄になる)
ヒルデガルダは治癒が終わると意識を手放した。
覚えのある悶えるような苦味がヒルデガルダの口中に広がって一気に覚醒した。
周りを見渡すと隠者ヴォルヴァとヴァルキュリア、ヨルズノートがホッとした表情で自分を見ていて、魔力枯渇かと己の体内を確認する。
魔力が半分程度戻っていて隠者ヴォルヴァとヴァルキュリアが魔力を流してくれたのだと察した。
お礼とフレイヤも命を取り留めたと報告し、そのまま夜まで眠った。
深夜に目覚めると横でヨルズノートが苦しげな表情で眠っていた。
熟睡できるわけが無い。
冷たい手を握り風と水の魔法で血液の循環を整え体を温める。
表情が解けたのを確認し転移陣でフレイヤの部屋に飛んだ。
真っ白な顔のフレイヤを見て屑たちに対する怒りが再沸騰したが、今はフレイヤの治癒が先だと己を落ち着かせフレイヤの体に触れ魔力を流していく。
魔力を二割程度残しフレイヤから手を離して本日の夜遊びノルマをこなすべく部屋を後にした。
フレイヤも目覚め傷が完治すると、すぐにヨルズノートの呪返しイベントがやってきた。
こちらも
前日の夜に逢い引き場所の教室の窓ガラスに死の呪いを猫耳にする変異魔道具を付ける。
ついでに逢い引きを録画するのに出歯亀虫を置いてきた。
(こっちも断罪後に目に物見せてくれるわ!)
当日ヒルデガルダは隠蔽魔法でヨルズノートの婚約者のダグと浮気相手のイズンを見張っていた。
万が一変異魔道具が死の呪いを変異させられなかった時の為だ。
呪いが窓ガラスに当たり上手く作動して変化させ、イズンの光の魔法で弾き返したのを見て、身体強化で漆黒の塔へ向かった。
緑葉の間の扉を開き全身を自分の血で染めたヨルズノートが視界に入り、そばに行って心音を確かめたが音が拾えずにフレイヤを見た。
「心臓を動かして血液を全身に循環させて。
合図したら心臓に電流をお願い!」
治癒がある程度終わってから蘇生させるつもりだと理解し、心臓に手を当てて体内の水分を使い心臓を動かす。
この方が胸骨を折る心配がない。
「電気を流して!」
フレイヤの合図で心臓に電流を流す。
ヨルズノートの体が跳ね、フレイヤがすぐに治癒魔法を再開した。
ヒルデガルダはヨルズノートの心音が聞こえてきたのに、詰めていた息を吐き出し顔を上げた。
「心臓が動き出した。」
その言葉にフレイヤが泣きそうな顔をしたが、涙を零さずに治癒を続ける。
「あの二人は絶対許さへん。地獄に落としたるわ!」
治癒を続けながら怒りのあまり関西弁がでていたが、その気持ちはヒルデガルダも同じだった。
それから増血剤と回復薬と極苦栄養剤を何度か流し込んでいるとヨルズノートが目を覚まし飛び起きた。
口の中の苦さに驚いたからだろうが、貧血状態での素早い動きに目眩がしてまたベッドに倒れる。
ヨルズノートを脅して極苦栄養剤を飲ませ、増血剤や回復薬も飲み白かった顔色に少し赤みがさしたのをみて安堵した。
ヒルデガルダはやっと二人の最終イベントが終わり、心の底からホッとする。
もう危ない橋を渡る必要はない。
断罪イベントは残っているが漆黒の塔に入るヒルデガルダ達にとってたいしたイベントにはならない。
この時のヒルデガルダはそう考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます