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次の日から早速漆黒の塔に通いだした。


他の二人もそうだがヒルデガルダも漆黒の塔に入る為、魔法、剣、魔道具のどれに適性があるかテストを受け、剣の才があると言われたのでヴァルキュリアに師事した。


ヴァルキュリアは漆黒の塔第二位の魔剣主ソードマスターで三人の護身術も受け持っている。


ヴァルキュリアの修行はーーー鬼畜の一言で表される。


ヒルデガルダは騎士を目指していたが、漆黒の塔の騎士は魔法の知識や生物(魔物や人含む)の生態や弱点の知識も必要で騎士の訓練をしながら座学も行い、答えられなければ訓練が終わらない。


将来漆黒の塔に入り家族と縁を切り、緑葉の間で仕事以外はダラダラ過ごす夢に向かって頑張った。


そのために元々持っている風以外の三属性も休息日をいれずに取得した。


直後は瀕死の状態だったが·····


そんなヒルデガルダをヴァルキュリアは我が事のように喜んでいてヒルデガルダも嬉しかったが、もしかして自分の代わりに賢者につけようと画策しているのではと一抹の不安が過ぎる。


「ヴァル様、わたしは黒騎士の位を目指しているんですが·····」


ヴァルキュリアを愛称で呼ぶのを許され(ヴァルと呼んでと言われた)、何くれとなく面倒を見てくれる彼女には三人とも頭が上がらなくなっていた。


そんなヴァルキュリアはいい笑顔で

「もちろん何を目指してもいいけど様々な状況でも対処できるように強くなって損はありません!」

と言われ、ヒルデガルダも確かに!と納得してそれからも鬼畜修行に疑問を持たずについていった。


どちらも脳筋だったーーー


その結果、学院に入学する頃には意識しなくとも常時身体強化ができて、漆黒の塔の騎士や黒騎士、魔法騎士よりも強くなり漆黒の塔の誰もが魔剣主ソードマスターヴァルキュリアの愛弟子と認められる程の実力をつけていった。







「わたくし最近不安になるんですの?」


フレイヤが読んでいた本を置き唐突に言い出した。


今日は三人の休憩が重なり、緑葉の間で思い思いに過ごしていた。


「なになになにー?

春の学院入学の事?

あと2ヶ月だもんね。

それなら私も不安はあるからわかるよー☆」


魔道具に使う魔石の鑑定をしていたヨルズノートが顔を上げてフレイヤの言葉に賛同する。


クッションに埋もれてダラダラしていたヒルデガルダもフレイヤの方を見た。


「それも不安ですが違いますわ。

考えすぎかもしれませんが隠者ヴォルヴァはもしかしたらわたくしを賢者にするつもりでご教授して下さっているのではと心配なんですの。」


フレイヤは片手を頬に当て眉を八の字にしている。


「·····私も同じ心配してる。

師匠も「もう賢者辞めたい」って時々言ってるもん。

でも今は実質賢者が二人しか居ないから辞められないって嘆きながらチラチラ私の方を見るし·····」


その発言にヒルデガルダも思い当たる事があった。




3ヶ月前の漆黒の塔での騎士全体訓練をした時だ。


広大な訓練場に騎士達2000人が集まっていた。


「今日は総当たり戦を行います。

最後まで立っていた者以外は一週間日の出から日没まで基礎練習をさせますので皆様お励みなさい。」


その言葉に皆が顔色を無くし、宿敵を前にしたような目で他の者を見る。


それは騎士でもないのに参加させられたヒルデガルダも同じだった。


ヴァルキュリアの言う基礎練習は走り込み、腕立て、腹筋、素振りと休みなく続く地獄の訓練だ。


日没になる前に立ち上がる体力も気力も無くなっている。


そんな状態でも見守り(見張り)人形ゴーレムに回復薬を飲まされ日没まで休めないのだ。


それを一週間など誰もしたくない。


皆死に物狂いで乱戦に突入した。


ヒルデガルダも絶対に生き残る(最後まで立つ)為に剣術と魔法と体術を駆使し、終了時には何とか立っている事が出来た。


他に立っていたのは数名の魔法騎士ソードナイトだけで、ヴァルキュリアの「これで終了します。」の言葉を聞いてヒルデガルダ含め全員が地面にダイブした。


その時に意識を朦朧とさせながらもヴァルキュリアの独り言が聞こえてきたのだ。


「賢者候補筆頭はヒルダかしらね。」


声にならない叫びを最後にヒルデガルダは気絶した。





あの時の発言は幻聴だったと思いたい。


漆黒の塔の騎士達は超実力主義だ。


最初は〈双眼者シン〉とだからと騎士を統括するヴァルキュリアに指導してもらっていたヒルデガルダに当たりがキツかった。


しかし7才で四属性を獲得し、ヴァルキュリアの地獄の特訓に不平不満を漏らさず黙々とこなし、剣の才を発揮したヒルデガルダを騎士達は少しづつ認めてくれるようになり、14才の今ではまだ騎士になっていないのに仲間のように接してくれる。





~騎士達の感想~

騎士「俺より年下なのにすっげー努力してんの知ってるし、すっげー強いんだぜ。下っ端の俺が悪口言ったらただの僻みじゃん。そんなかっこ悪いことできるかよ。」

ーー漢だった。


黒騎士「幼いのに弛まぬ努力と折れない精神に敬意を持つのは当然。」

ーー騎士道精神。


魔法騎士ソードナイト「愛らしいのに容赦ない攻撃にゾクゾクしちゃう。」

ーーこっちがゾクゾクする。


魔剣主ソードマスター「賢者になって俺を武者修行に行かせてくれ!」

ーー感想ではなく願望だ。





今までこの世界で生き抜くのに必要だからと脇目も振らず厳しい修行も耐えてきたが、賢者にはなりたくない。


世の中の賢者のイメージは賢く強く世の理を知る尊敬される地位だが、現実は癖の強い漆黒の塔の人々を纏めなければならないし、依頼を受けて仕事を振り分け書類仕事もしなければならない、雑用係にしか見えない。


その上変人扱いだ。


魔法関係は隠者ヴォルヴァが魔道具関係は賢者イーヴァルディがそして騎士関係は魔剣主ソードマスターヴァルキュリアが主に雑用係を担っている。


三人とも雑用係を誰かに押し付け、好きな研究や仕事だけをしたくて獲物を狙っているのだ。


その候補としてヒルデガルダの若手三人が標的にされていると三人ともが思っている。


「わたくしには荷が重いので魔法師がいいですわ!」


「私も魔道師で!」


ここ緑葉の間でそんな宣言をしても意味がないのに二人は賢者になりたくなくて誰にともなく訴えていた。


かく言うヒルデガルダも黒騎士の位を狙っている。


だがどの部署よりも騎士は実力の誤魔化しが効かない。


漆黒の塔に入る試験で手を抜きたいが手を抜けばバレる。


最近になって三人とも周りを見始め、師匠達が三人に無茶振りをしていたと知ったが、その無茶振りに破滅したくなくて死に物狂いでついていったせいで将来を嘱望されるほどの有望株になった。


こうなった原因はわかっている。


師事した人が無茶振りを無茶振りと思っていない。

自分の教え子ならできると思っていたのだ。


なぜならヒルデガルダだけでなく、三人の師が漆黒の塔のトップクラスの実力者なのだから。

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