第38話 冒険ギルドに行こう
突然、下の兄が俺の前で土下座した。
「アル、一緒に冒険ギルトに付いて来てくれ!」
はぁ、何を言い出すのかと口をあんぐりと開けてしまう。
渡り廊下で両手を合わせて謝っている母さんが見えた。
最近、冒険者になると言っていた下の兄だったが練習をサボるようになった。
俺に付きまとって肉を無心する。
「アル。肉を買おうぜ。肉、肉、肉」
「お金なら担当官さんに預けたので持っていませんよ」
「取って来いよ。肉を買ってくれ」
畑の仕事も手伝わなくなった。
「いいか、よく聞け。親父が金貨5枚を手に入れた。一年働いても小金貨1枚に届かったのに金貨5枚だ。そして、お前は金貨4枚が稼いだ。もう、一生遊んで暮らせる。肉も食べ放題だ。俺が働く必要があるか?」
「シュタ兄は何をするんですか?」
「アルのお金を管理してやる」
「遠慮します」
我が家は俺の教材があるので勉強するのに事欠かない。
担当官さんが来る日はお土産を目当てに良い子にするので、担当官さんに習って読み書きと計算ができる。
上の兄は学校で同級生や上級生に教えて尊敬されているらしい。
加えて靴屋の跡取りというステータスもあって女の子が言い寄ってくる。
選び放題だ。
家の横暴な態度と違って、学校では優等生を演じていた。
信じられない。
一方、下の兄は学校の不良だ。
授業も受けずにふらふらと教会の中を探検していた。
あるいは、御神木を相手に木刀で剣の練習だ。
うまぁぁぁぁぁのシスター長に見つかって逃げた事もあったようだ。
冒険者になって肉をたらふく食うという夢に向かっていた。
だがしかし、思わぬ大金が手に入った。
今日も学校に行かず、商店街をウロウロとして何を買おうかと妄想に更けていた。
姉さんが下の兄が学校に来なかった事を告げ口した。
「違うわよ。シスターに頼まれて言付かったのよ」
・・・・・・・・・・・・だ。そうだ。
菜種の収穫も終わり、シスターらは油絞りで忙しいのだ。
人手は欲しかろう。
「シュタ兄。昼はどうしていたんですか?」
「事務所に行った」
畑の事務所に行くと賄いのおばちゃんが昼を作っている。
学校の昼食より良い物が出るらしい。
今度から餌を与えないように言っておこう。
「アル、頼む。一緒に冒険ギルドに行ってくれ。でないと、家を追い出される」
母さんは下の兄に親父の手伝いをするか、働いて家に金を入れないと追い出すと脅された。
放浪者になると冒険ギルドにも登録できない。
スラムで生きる事になる。
居住区や工房区に近づく事も禁止される。
恐らく、生きていけないだろう。
母さんも思いきった事を言った。
だが、下の兄は一人で冒険ギルドに行く度胸が無かった。
嫌な事から逃げるのが得意な下の兄だ。
向かうのは不得手なのだ。
はぁ、俺は息を吐いた。
母さんの頼みなら仕方ない。
「付いて行くだけですよ」
「登録できたら一緒に登録しようぜ。アルが居ないと困るんだ」
「明日の安息日だけです」
俺も暇じゃない。
◇◇◇
翌日、冒険ギルドに向かいながら大切な事を話した。
親父の金をアテにするなだ。
親父は手付金の金貨5枚をすでに全部使い切ったばかりか、借金までしている。
魔物の毛皮を加工するには特殊な道具が幾つもいる。
それがべらぼうに高い。
素材を用意する商人から金貨10枚の借財をして道具の準備をしている。
「マテュティナさんが靴を気に入らなければ、ウチは借金で大変な事になります」
「マジか?」
「借財の話は担当官さんから聞きましたから間違いありません」
「どうして金貨10枚なんて大金を借りるんだよ」
「職人馬鹿ですから」
大手の工房ならあるハズの道具がウチにないだけだ。
但し、靴の善し悪しに関係なく、親父の革靴は金貨10枚以上で売れる。
多分、売れる。
その裏付けは脅し続けていた魔術士のおっさんがあっさりと帰った事だ。
以前のような日本の雑談をする気軽さに戻った。
レムス子爵夫人が後ろ盾になると宣言した事が大きいようだ。
「これで坊主の身の安全は保障された。おめでとう」
全然、感情の籠もっていない祝辞を言われた。
俺が奴隷になる未来は消えたらしい。
しかし、家族の安全の為に目立たないのが最良だとも忠告を受けた。
俺は初等科で優秀者である事を示しつつ、家族が人質にされないようにと言われた。
特にマテュティナさんに?
マテュティナさんが親父の靴を気に入ったと言って、自分の領地に誘う?
まさか!?
ライトノベル1冊の為にそこまでするか?
・・・・・・・・・・・・しないとは断言できない。
俺に恩を売りたいマテュティナさんが高値で靴を買う。
これが靴の売れる理由だ。
次にマテュティナさんは専属にならないかという誘いが来る・・・・・・・・・・・・だろうか?
家族で引っ越し?
「面倒臭そうだ」
「ふふふ、貴族はもっと面倒だぞ」
「意味深な言い方ですね」
「いずれ判る」
魔術士が意味不明な事を言ったので不安になった。
本当に意味が判らん。
そんな事を思い出していると冒険ギルドに到着した。
ゴシック調の立派な建物だった。
「ア~ル。冒険ギルドって大きいのね」
「そうですね」
「シュタ。さっさと行って来なさい。私達はここで待っているから」
「一緒に入ろうぜ。というか、一緒に登録しよう」
4歳で冒険者に登録できるのか?
出来ました。
次いでに冒険パーティー『シスターズ』を結成だ。
えっ、どうしてかって?
姉さんが決めた事に逆らえるハズがない。
『貴方がアネィサーちゃんですか? お待ちしておりました』
『私を知っているの?』
『もちろんです。次世代の
『私が
『どうでしょうか? 兄さまと一緒に冒険者パーティーを組むと言うのは。兄さまも筋の良い戦士と聞いております』
『俺も!?』
『冒険ギルドでは様々な情報を集めております。兄さまの腕も確認済みです』
あれよあれよと冒険者登録をさせられてしまった。
なんと洗礼が終わると、2歳でも登録できるらしい。
4歳は珍しいが無い訳でも無い。
木の札に名前と番号が書かれており、これが俺の市民証になる。
番号から住所が判り、何かあれば伝えてくれる。
最初の四桁が同じなので、これが城壁町エクシティウムを表しているようだ。
という訳でドブ攫いの仕事を貰ってきました。
「何でドブ攫いなんだよ」
「
「10回で良いのでしょう」
「姉さん、10回分です。大人が一日で熟す量で一回です。子供なら10回で一回だと言っていたじゃないですか」
「
森の魔物狩りは
冒険者が始まるのはずっと先だった?
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