第4話 母さんが大好き?

俺の名はアルフィン・パウパーらしい。

パウパー家の次男で『ア~ル』と呼ばれている。

俺はまだ正文のつもりだが、何度も前世を見せられたので客観的には、アールなのだろうと思えるくらいになっていた。


俺の家は貧しい靴屋らしい。

両親は毎月わずか銀貨1枚を得る為に俺に魔道具を付ける事を承知した。

銀貨100枚で売るという選択もあったらしく、売られなかった事に感謝しよう。

孤児院はここより酷い所らしい。

どちらにせよ。

成人もしていない俺に人権はない。


“テメぇ、殺すぞ!”

“ははは、私もそうでした。私もそんな感じで担当者に吠えましたよ。しかし、こちらの呼び掛けに応じた時点で魔道具を使う事は決まっていました。諦めて下さい。元の国の言葉に置き換えれば、法の下の平等という奴です”

“どこがだ?”

“貴族であれ、平民であれ、貴重な情報や知識を持っている者に魔道具を貸し与える。私も有無を言わせずに付けられました”


自分の怒りを他人に与えて溜飲を下げていると、悪びれる事もなく言い切った。

俺は一年ぶりにやって来た魔術士の顔を初めて見た。

おっさんの入り口に入り掛けている。

予想より若い事に驚いた。

この魔術士も異世界人と知られただけで魔道具の揺り籠に入れられたらしい。

前世の記憶がこの国の農民か、商人以外ならば、前世の記憶を持っているだけで装着される。

異世界人ならば、有無を言わせずに決定だ。

異世界転生人がこの国の建国にも関わっており、奇妙な期待が掛かるらしい。

まだ、言葉が喋れない俺は魔術士との念話を楽しんだ。


“この世界は神様がいるのか?”

“います。リアルの神様ですよ。ワクワクしませんか?”

“別に。魔王もいるのか?”

“魔王はいませんが邪神がおります。町の外は魔物だらけです”


魔法使いがおり、魔物がいるだけでファンタジーな世界だ。

物流が発展していないので文化度は中世レベルだが、魔法技術があるので科学力は比べられない。


“特に王族が技術を独占していますね。特殊な技術を下手に広げると目を付けられるので気を付けた方がいい”

“独占か?”

“そう難しく考える事ではない。元の世界で得た知識を国に売ると思えばいい。それで十分に生きて行ける”


不便な事にこの体が1歳というのに体力がない。

魔道具に入れられた弊害だ。

魔術士と少し話しているとそれだけで疲れて眠くなり、一度眠ると3ヶ月ほど魔術士と会う機会はない。

知りたい事は山ほどあったが、知り得る情報が少なかった。


俺はまだ歩けない。

それ処か、立ち上がる事すらできない。

目が見えるようになり、音も聞き分けられるようになったが、言葉は理解できない。

一日でも早く単語を覚えて、会話を成立させたい。


「ص、وقت الحليب」(アール、お乳の時間ですよ)


母がそう言って乳房を近づけて来た。

魔道具で疲れ果てて気にせずにしゃぶり付いていたが、余裕ができると気恥ずかしい。

戸惑っていると、嫌々と思われたのだろうか?

流動食に変わってしまった。

失敗した。

俺のお乳が消えてしまった。


「うぉく、うぉく」


乳は『うぉく』だったハズだ。

慌てて母乳をくれと要求したが、俺の意思は伝わらなかった。

母さんはとても綺麗で可愛く、整った乳房を持ち、まだ幼さを残す要望がそそられる。

童顔の母さんが俺の好みだ。

可怪しい?

俺に幼妻を好むような趣味はなかったハズだ。

そう断言して、はっとなる。

これが『刷り込み』という奴だろうかと頭を捻った。

謎のパワーだ。


対して、髭がじゃりじゃりの親父は嫌いだ。

どう見てもおっさんであり、若く美人の母と釣り合わない。

汚い手で俺の母さんに触るな。


「あぶあぶあぶ、あぶ~」(このロリコンが。母さんから離れろ)


母さんから手を放せと俺が叫ぶとじょりじょり攻撃で襲って来た。

チクチク刺さって痛いのだ。

体が両手で押しつぶされる。

俺が大声で泣くと母さんに渡してくれた。

脱出成功だ。

この親父は危険だ。

親父から母さんを守らねばと1歳にして志を立てた。

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