115話 性奴隷を飼ったのに

 バビリニアのみやこに行く途中、バビリニアの騎士団達が魔物達と戦っていた。

 どうやら大勢の魔物が現れたせいでバビリニアの騎士団が俺の国に入ることができなくなっているらしい。

 俺が懐かせていた魔物達である。


 バビリニアの城が見えたところで、80年代ヤンキー風の勇者が現れた。

 ヤンキー勇者は空を飛んでいた。学ランが風になびいている。櫛でリーゼントを直していた。


「どこ見てんのじゃ。ワレ」

 とヤンキー勇者が言った。


 何を言われたのか分からなかった。


「カイワレ?」

 と俺は聞き直した。

 

 ワレ、という言葉が風のせいでカイワレに聞こえたのだ。


「なんで俺が急にカイワレなんて言うじゃ」

 とヤンキーが言う。

 ポケットに手をツッコみ、顎をシャクリあげるように彼が言う。


 なんなんだ、その顎シャクリ。


「カイワレのモノマネか?」

 と俺はボソリと呟いた。


「なんで俺がカイワレのモノマネなんてするんじゃ? イテまうぞ」

 とヤンキー勇者が言った。


 本当に彼が何を言っているのかわからない。

 やっぱり年代が違えば、言葉が変わるらしい。

 イテまう? なんだそれ?

 射手いてまう?

 つまり彼は弓矢で俺を攻撃しようとしているのか?

 でも弓なんて持ってないじゃん?

 そうか、と俺は納得した。

 顎をシャクリ上げているのは弓のモノマネなのだ。


「すまない。カイワレじゃなくて弓のモノマネしていた訳だな。その……似てるよ。すごく弓に」

 と俺は言った。

 謝罪と褒めのコンボを俺は繰り出した。

 

「もうええ。もうええ。お前は絶対に殺す。殺してこれ以上先には行かせん」

 とヤンキー勇者が言って、かめ○め波を出すポースをした。

 ヤンキー勇者の腕が光り輝いた。


 なんの魔法なのかはわからないけど、ヤンキー勇者の掌からレーザーのような光が放出された。

 俺は片手でレーザーを受け止める。

 微弱すぎて、手の平がクスグッたい。

 彼の魔法が切れる。

 ヤンキー勇者が呆然としていた。


 俺は彼の後ろに回り込んだ。

 そしてカンチョウをした。これが俺の必殺技である。魔法なんて使ったら跡形も無く消えてしまう。ヤンキー勇者だって好きで異世界に来たわけじゃないんだろう。

 それに同じ日本人である。殺したくはなかった。

 

 カンチョウされた彼は、すごい勢いで上空に飛んで行った。

 そして気絶して落下してくる。

 

 俺の人差し指から芳醇ほうじゅんな香りがして吐き気がした。浄化の魔法を人差し指に全力でかけた。


 そしてヤンキー勇者が地面に落ちる前に捕まえて、リーゼントが崩れないようにゆっくりと地面に下ろした。


 城に入り、王様のところに行くまでに沢山の兵士と出会った。

 微力な風魔法をフワッとかけるだけで兵士は吹っ飛び気絶した。


 王様は逃げることもせずに王座にふんぞり返っていた。ヒゲを生やした50代のジィジィである。


「1人でノコノコと王様ともあろう者が敵陣に来おったのか」

 バカめ、みたいな事を言ってバビリニアの王様が言った。


 王様の傍には髪を伸ばしたヒョロっとした勇者がいた。たぶん、コイツがバビリニアの勇者の中で一番強い勇者なのだろう。


「星のカケラを出せ。さもなくば殺す」

 と俺は言った。


 ハハハハ、と王様は大爆笑。

「貴殿が星のカケラを出せ」


「わかった。力づくで貰う」と俺が言った。


「貴殿に我が国の最強の勇者を倒せるのか? 我が国の最強の勇者は色んな国の勇者達の魔力を奪って強くなっているのじゃ」


 王様が言葉を言い終わる前に、俺は傍にいた最強の勇者にカンチョウした。

 もう俺は魔法とか剣とか、逆に強すぎて使えなかった。そんなモノを使ってしまうと消滅してしまう。それに被害も大きい。

 カンチョウされた最強勇者は気絶していた。


 またつまらないモノをカンチョウしてしまった。人差し指臭いし、最悪である。

 全力で浄化魔法を人差し指にかけた。


 高笑いしていた途中で最強勇者が倒れて王様は困惑している。


「お前のことを俺は許さねぇーぞ」

 と俺は言った。


「まだ貴殿の国には何もしておらぬ」

 と王様が焦りながら言ったので、俺は王様を睨んだ。


「お前がセドリッグに指示を出して俺の仲間を、ミナミを殺させたんだろう」


「そんな指示は出していない」


「どうでもいい。セドリッグはお前の国のスパイだろう。全部お前の責任だ」と俺は言った。


 俺の威圧に王様が顔を青ざめた。


 なんでもする、と王様は言って懇願こんがんした。

 もちろん2つの星のカケラは貰う。

 星のカケラは最強勇者のアイテムボックスに入っているらしく、俺は気絶していた勇者に回復魔法をかけて星のカケラを出させた。

 また最強勇者には気絶してもらった。つまり、もう一度カンチョウで気絶させた。


「我が国は敗戦で構わぬ。お前の望みは聞いた。だから帰って来れ」

 と王様が言う。


「これで帰るわけ無いだろう」

 と俺は言った。


「当たり前だけどバビリニアの王族を皆殺しにする。そして領土も貰う」

 と俺は言った。


 戦争に負ければ、これぐらいされても文句は言えないのだ。


「……なんでもする」

 と王様が言った。


「それじゃあバビリニアの通貨の発行はこれから禁止しろ。1枚でも刷ってみろ。バビリニアの王族は根絶やしにする」


「通貨が無ければ混乱を招く」

 と王様が言った。


「バビリニアが俺の国の通貨を使えばいい」

 と俺は言った。


 俺は魔具である書類を出した。

 今、俺が言ったことを書類に書き込む。

 そして俺は書類にサインして、指を切って血で拇印を押した。

 俺の魔力が書類に注がれる。

 これは俺の魔力で書かれた書類である。

 誰がどんなことをしても書類の内容を変更することができない。

 そして契約を破ればバビリニアの王族は皆殺しである。


「……無理だ」

 と王様が言った。


「それじゃあバビリニアの王族を根絶やしにしよう」


「もう少し考えてくれ」

 と王様が懇願するように言った。


「お前の選択肢は2つしかない。王族の皆殺しか、経済の支配か、どちらを選ぶ?」


 王様はしぶしぶ書類にサインした。

 

 ミナミを殺した復讐には甘いかもしれない。だけど星のカケラを手に入れたのだ。ミナミを取り戻せる。




 俺はカンチョウだけで戦争に勝利して、自分の国へ帰った。

 みんな外に出て俺の帰りを待っていて来れた。


 カヨの隣にはドレスを着た女の子がいた。到底、奴隷には見えない。



 地上に降りると、みんなが俺を取り囲んだ。

「星のカケラは手に入った」と俺は言った。


「やったー」とナナナ。

「おめでとうございます」とアニー。

「おかえりなさい旦那様」と愛。

「俺が言った通りじゃねぇーか」とチェルシー。


 カヨが俺の事を見ていた。

 俺は彼女に近づいて行く。

 カヨの顔を見た瞬間に、これでお別れかと思った。彼女は無事に目的を果たしたのだ。


「この子をよろしくお願いするわ」とカヨが俺に頭を下げた。


 ポクリ、と俺は頷いた。


「もう帰るのか?」

 と俺は尋ねた。


「お母さんが心配するから」

 とカヨが言った。


 俺はアイテムボックスから賢者の石を取り出した。

 そしてカヨに賢者の石を渡した。


「戻りたい世界のことを強く思い出すんじゃ」と赤ちゃんを抱っこした愛がアイテムの使い方を説明した。


 ありがとう、と彼女は言った。


 別れの言葉を俺は言えなかった。

 もう2度とカヨに会えなくなってしまう。


「絶対に日本に帰っても、アナタに会いに行かないんだから」とカヨは言った。

 彼女は日本に帰るのだ。



 日本に帰っても俺に会わなくていい。俺は32歳で異世界に行ってしまう。俺と出会えばカヨが不幸になってしまう。

 ずっと俺は想像してきたことがあった。俺がいなくなった後の家族のことである。


「パパは?」

 と娘はカヨに尋ねるだろう。

 俺は旅行に行ったきり行方不明で2度と帰って来ない。

「どうして帰って来ないの?」

 と娘はカヨに尋ねるだろう。パパに会いたくて娘は泣くだろう。

 もう俺は娘の元へ帰らないのだ。もう2度と会えない俺のことを思って妻も泣くだろう。

 日本に帰らないということは、……日本に帰れないということは彼女達が泣き続けることである。もう干渉かんしょうもできない世界で、大切な人が泣き続けるのだ。

 もう俺は娘のことを抱きしめることはできないし、妻のことも抱きしめることはできない。

 だから俺に会わないでほしい。



 青いドレスを着たカヨは俺に近づいて来て、俺の頬にキスをした。

 そして彼女は微笑んだ。

 世界で一番美しい笑顔だった。

「バイバイ」とカヨが言った。


 そして彼女は消えた。

 性奴隷を飼ったのに、彼女は俺の前からいなくなった。



 しばらく俺は立ち尽くしていた。

「そろそろいいだろう。ミナミに会わせろよ」とチェルシーが言う。


 俺は涙を服の袖で拭って、アイテムボックスから星のカケラを取り出した。


 アイテムボックスから3つの星のカケラを取り出すと、磁石のようにくっ付いていく。

 そして一つの球になり、光輝いた。


『願い事を叶えてやろう』

 と心の中で声が聞こえた。


「ミナミを蘇らせてほしい」と俺は言った。


 光が強くなる。

 そして光の球が弾けるように消えた。

 同時に紫のドレスを着たミナミが目の前に現れた。


「ミナミ」

 泣きながらチェルシーがミナミに飛びついて行く。


「ミナミ様」とアニーとナナナが彼女に飛びついた。

 バランもミナミに飛びついた。

 

 愛は赤ちゃんを抱っこしたまま、俺の後ろに隠れた。


「何よ?」と困惑しながらミナミが尋ねた。


 俺はミナミの手を握った。


「お家へ帰ろう」と俺は言った。



◾️◾️◾️◾️


 日本。

 俺は20歳でフリーターだった。

 喫茶店でコーヒーを飲みながら本を読んでいた。

 「ようやく見つけた」

 と女性の声が聞こえた。


 顔を上げると見知らぬ綺麗な女性が、そこに立っていた。


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