107話 俺達のレベルアップ

 俺とカヨは銀スラダンジョンの中に入った。2人だけでは気まずいのでバランも誘ったけど、ドワーフのレベルの上限まで彼は鍛錬たんれんしていてレベル的な伸び代は無いらしい。


 結局、カヨと2人でダンジョンに入ることになった。

 ダンジョンまで愛が案内してくれたけど、彼女はすぐに仕事場に向かってしまった。


 銀スラダンジョンは愛が結界で隠しているから誰にも見つからないようになっていた。


 ダンジョンの中は洞窟で、深く潜れば潜るほど強い銀スラが出てくるらしい。強ければ強いほど経験値も豊富らしい。


 カヨは俺と距離を取って銀スラと戦っていた。


 カヨとの関係性っていうか、彼女に対する思いを言語化するのは難しい。

 ためしに言語化してみる。だけど、どれほど伝わるのかはわからない。

 

 俺はカヨと結婚していた。子どももいた。異世界に来てからも彼女の元へ帰りたかった。家族の元へ帰りたかった。だけど日本に帰ることが出来ずに諦めた。そして異世界で大切な人ができた。

 賢者の石が日本に帰れるアイテムと知っても、俺は異世界に残ることを選択した。


 そこにカヨがやって来たのだ。俺は異世界で複数人と結婚してしまっている。それにカヨは17歳の女子高生だった。俺と出会う前のカヨである。

 あれほど会いたくて恋こがれた女性である。家族である。

 だけどカヨは俺のことを覚えていない、っていうか知らない。

 

 俺は32歳で異世界に行ってしまう。

 カヨが彼女の時代の日本に帰ったとしても俺と出会うことを、俺自身は望まない。


 日本にいた時の俺は家族の幸せだけを考えていた。だけど俺は彼女を幸せにできない。


 家族を捨てて異世界に残ることを決めていた。俺が異世界に残ることを決めたからこそカヨが日本に帰れる。これは決まっていた選択だったように思える。


 だけどカヨに対して申し訳ない気持ちを俺は抱えていた。

 

 実は赤ちゃんを抱っこする時だって、カヨがいない時はもっとブチュブチュとほっぺや頭をキスしたり、もっと長時間赤ちゃんと触れ合っている。オムツを変えたり、お世話も喜んでする。

 だけどカヨに気を使って赤ちゃんとの触れ合いは短くしている。←なにを言ってんだ? と思うけど、今のカヨじゃなくて、未来のカヨに対して気を使っているのだ。


 俺とカヨの子どもは1人だけ。大切で愛している子どもは1人だけ。

 その子がいるのに、別の妻が出産した子どもとイチャイチャしていたら、どう思う?

 我慢できずにカヨの前で赤ちゃんを抱っこしてしまった。

 それだけで俺は後悔してしまっている。


 17歳のカヨの姿を見るだけで、幸せだった頃の日本の記憶を思い出して、申し訳ない気持ちになった。


 それが俺がカヨに対する思いだった。



 彼女も俺に対して思うところがあると思う。

 17歳の彼女は社会性がまだまだ育っていない。高校生が知らない場所で周りも知らない人達のなかで苦労しないわけがないのだ。

 しかも召喚したのはエジーという最弱国家だった。いいように扱われたんだろう。日本人と出会っても攻撃されて、魔力まで奪われて最終的にはオークションで売られた。


 そこに現れたのが俺である。妻を何人も抱えて、異世界で楽しくやっているように彼女には見えているのだろう。

 自分の境遇と俺の境遇を照らし合わせて、その差にムカついているのかもしれない。

 

 それに、その男が日本で自分と結婚していた、と語るのだ。

 何人も妻がいて、楽しそうに異世界を堪能たんのうしている男が。

 

 カヨが怒っても仕方が無い。


 お互いの相手に対する思いが、大きな溝になり、2人の空間に変な距離を作っていた。


 それでも俺は彼女のことが気になる。視界には入らないけど魔力感知でカヨの魔力消費量を気にしていた。


 愛から貰ったカヨの魔力が無くなり、彼女は銀スラに襲われた。


 すぐに俺はカヨを助けた。

 彼女をお姫様抱っこした。

 カヨは気絶していて目を瞑っている。


 俺の心臓がフライパンに焼かれたように熱くなった。

 昔のことを思い出したのもある。それに今のカヨが頑張ってレベリングしている事に対しても心臓が焼かれた。


 彼女はソビラトから大切な友人を取り戻そうとしている。それを俺は戦争のカードにしようとしていた。


 沢山のごめんが彼女の気絶した顔を見て、溢れた。


 俺はアイテムボックスからキャンピングカーを取り出した。


 銀スラが入って来ないように結界を張って中に入った。

 カヨをベッドに寝かせる。


 愛してる、と思った。

 だけど、その思いは水の中に入れた和紙のように溶けて消えた。

 俺が彼女に言ってはいけない言葉だった。


 お前のことが世界で1番愛おしい。ごめん。

 言葉に出して言えない思いを心の中で呟いた。

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