第80話 彼女は暗闇の中を歩きながら夢を見た

 まだ選択肢は残されていた。

 王様の命令を受けて国を滅ぼすのか? それとも2人でバビリニアから逃げるのか?

 イライアは長谷川を元の世界に戻すこともできた。だけど、その選択肢を彼女は取らなかった。


 2人が選択したのは国から逃げることだった。

「人を殺す訳ないやろう」というのが長谷川の意見だった。

 バビリニア国内は平和だった。戦争をしているようには見えなかった。


 なのに王様は別の国を滅ぼすように命令した。 


 それから2人は国から逃げた。

 逃げ切れると思っていた。

 それに長谷川は勇者である。

 最強勇者。

 彼に敵うモノはないと思った。


 だけど違った。

 勇者らしき2人組がやって来て、イライアをさらったのだ。

 1人は長谷川と戦って時間稼ぎをして、1人はイライアをバビリニアまで連れて行った。


 ココからはみやもとこじろうの予想である。

 9年前に見た当時は色々と訳がわからなかったけど、星のカケラというアイテムが世界にあると知ったことによって色々と仮説が立てることができる。

 名探偵、毛利小次郎の出番である。毛利って名付けたら名探偵っぽいと感じるのは俺がコ○ン好きだからだろうか。

 ココからは仮説なので話半分に聞いてください。エビデンスがございません。急にカタカナを使うやつ嫌い。エビデンスっていうのは証拠のことである。

 この仮説はバビリニアという国が複数の勇者を召喚できるというのが前提である。


 イライアの国を襲った魔王は元々バビリニアが召喚した勇者である。何度も言いますがコレは仮説である。


 勇者Aは星のカケラを手にいれるためにイライアの国を滅ぼした。

 そして魔王になった勇者を討伐させるために勇者Bを魔王討伐に向かわせた。

 勇者Bというのが長谷川のことである。魔王討伐というのは勇者のためのレベリングである。つまり勇者を兵器として強くさせるためのモノだった。

 勇者を強くさせるのは他国に攻め込ませて星のカケラを手に入れるためである。


 勇者Cと勇者Dは見張り役である。

 勇者Cなら長谷川を足止め出来るぐらいの強さがあり、勇者Dならイライアを連れ去るぐらいの強さがあった。


 少し俺の推理に甘いところあり。だけど合っているのではないでしょうか? どうですか江戸川さん。


 そして結末はこうである。

 勇者B《はせがわ》は星のカケラを持っている他国に攻め込んで魔王になってしまう。

 勇者Cと勇者Dは魔王討伐に向かって強くなる。

 最終的にはバビリニアには星のカケラと強い勇者2人を保有する国になるわけである。



 長谷川は足止めしていた勇者Cを振り払ってイライアを助けに行った。


 イライアも勇者Dを必死に振り払って、彼の元に行こうとした。


 そして悲劇は起きたのだ。

 勇者Cが放った攻撃がイライアに当たった。それもお腹に当たったのだ。

 イライアの意識は遠くなっていく。


「気絶させてから連れて行けバカ」と知らない人の声が聞こえた。


 イライア、と長谷川の叫び声が聞こえた。


 彼女は、そのまま意識を失う。



 次にイライアが目覚めた時、待ち受けていたのは絶望だった。

 彼女はベッドで眠っていた。

 誰もいない個室だった。


 目覚めてすぐに彼女がやったことは、お腹にいる赤ちゃんの安否を確認することだった。

 大きくなっていたお腹の膨らみはなかった。

 イライアは焦り、何度も何度もお腹を触った。

 だけど、そこには赤ちゃんはいなかった。


 泣き叫びそうになった。

 だけど部屋の外に人の気配がする。

 彼女は泣くのを我慢した。


 自分がどういう状況なのかわからない。


 目覚めた事がバレると不利になるかもしれない。


 扉の向こうの誰かが喋っている。

 警備がいるのだろう。


「可哀想だよな」と扉の向この誰かが言った。

 イライアは耳を澄ませた。エルフ特有の聴覚を彼女も持っていた。


「今晩ダークエルフの女の子は殺されるんだろう?」

「勇者を脅すための道具だからな。長谷川っていう勇者が国を滅ぼして魔王になってしまったんだ。目的は達成したんだ。仕方がねぇ」

「ひでぇーな」

「無駄口、叩いていたら俺達も殺されるぞ」


 長谷川が自分を助けるために国を滅ぼしに行ったことを彼女は知った。

 もしかしたら、この時の彼女は長谷川を日本に戻さなかったことを後悔したのかもしれない。


 彼女は幽閉ゆうへいされている場所から逃げた。

 そして魔王になってしまった長谷川の元に向かった。


 だけどイライアが長谷川の元に辿り着くことはなかった。

 2人の勇者が新しい魔王を討伐したという噂を彼女は耳にした。

 それでもイライアは長谷川を探した。

 

 ずっと彼女は小さく萎んでしまったお腹を撫でていた。

 お腹の赤ん坊と愛した人の3人で暮らす日を彼女は夢を見ながら、暗闇の中を歩き続けた。


 チェルシーの映像は、それ以上は無かった。9年前の俺達はイライアの弱点を探すために彼女の過去を鑑賞していた。

 そして、この時点で俺達は彼女の弱点を見つけていた。

 イライアに初めて戦った時、魔王が俺を殺せる場面があった。だけどミナミが俺を庇って攻撃が止んだ。

 たまたま偶然に攻撃しなかっただけ、と思っていたけど、そういう訳じゃなかった。

 魔王イライアはミナミに過去の自分の姿を投影させていたのだ。それがイライアの弱点だった。


 


 



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