第51話 みんな次は幸せな人生が待っているんだよ

 証拠は何も残さなかった。

 死体や血痕がついたモノは、全て魔法で灰にして窓から外へ飛ばして消した。


 死んだ獣人達は全員で15人だった。

 アイテムボックスに彼女達を入れた。

 過去にもヘップは同じことをしていたと思う。彼は死んだ獣人を保管するための専用の部屋まで作っていた。

 もしヘップが生きていたら、これから先も同じように獣人は殺され続けていただろう。変態貴族を殺したナナナは未来の獣人を救ったんだろう。


 馬車に戻り、獣人達が安らかに眠れる場所を求めて俺達は森に向かった。

 ナナナは返り血をシャワーで洗い流した。

 それから3人で体を寄せ合った。

 離れてしまえばナナナを闇の中に落としてしまいそうな気がした。


 ナナナは落ち着く匂いを探して俺の首元に鼻を押し付けた。

 アニーは何かを言いたげだったけど何も言わなかった。

 もしかしたら妻以外の人間はそんな事をしたらダメなんですよ、とアニーは思っているのかもしれない。


 ナナナは俺だけじゃなく、アニーの首元を嗅いだり、頭の匂いを嗅いだりした。されるがままにアニーは匂いを嗅がれていた。


「2人とも優しい匂いがする」

 とナナナが言った。


 アニーがナナナに微笑んだ。

 俺は彼女達の背中をさすったり、頭を撫でたりした。



 森に辿り着くと木を集めた。

 正しい火葬の方法を知らない。だけど魔法で一瞬で灰にするのは違うような気がした。

 獣人達を寝かせてキャンプファイアーをするように死体の周りを木で囲んだ。

 全ての獣人達を一箇所で焼くことはできなかったから3つのキャンプファイアーを作り、その中心に彼女達を横にした。

 木に火をつける時だけ、魔法で付けさせてもらった。


 炎が燃えて煙が空に向かっていく。

 まるで獣人達が空に向かって行くようだった。


「こういう時は祈るんだよ」とナナナが言った。

「次生まれて来た時に、また出会えますように。次生まれて来た時は幸せな人生が待っていますように」

 たくさんの死を見てきたナナナが俺達に、死んだ人を送り出す時の作法を教えてくれた。


 ナナナは祈った。

 祈りは願いである。


 俺も祈った。

 次、彼女達が生まれて来たら幸せな人生が待っていますように。


 死んでいった彼女達に俺は何ができるんだろうか?


 もし生まれ変っても今のまま獣人差別が蔓延はびこっていたら、また辛い人生が待っているだろう。


 祈りは願いだ。そして願いは願望に変わる。


 そうやって獣人達は願望を胸に抱いて生きているんだろう。


 アニーが肩を震わせて泣いていた。

 それを見たナナナは、困った表情をしてニコッと笑った。


「大丈夫だよ」

 とナナナが言う。


「みんな次は幸せな人生が待っているんだよ。次の人生では、みんなお腹いっぱいご飯を食べて、家族と一緒に過ごすことができるんだよ。みんな明日捕まる心配も、殺される不安も抱えず、ずっと笑いあえる日常が待っているんだよ」


 アニーが肩を震わせて泣いている。


「だから平気だよ」

 とナナナが笑った。


「……そうですね。そうですね」

 とアニーが確認するように、何度も頷き、涙を流しながら煙を見上げた。


 次生まれた時は、かならず温かいご飯と家族と一緒に住めるようにしてあげるから。

 次生まれた時は、明日捕まる心配も、殺される不安もない世界にしてあげるから。

 空に向かって行く煙に、俺は誓った。

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