第49話 2人のレベルアップ

 アニーの防御力が上がりますように、とナナナが祈った。

 昨日の魔物狩りで彼女のレベルが上がったおかげで、彼女の祈りは如実にょじつに力を増していた。

 ナナナの祈りは光になり、アニーを覆った。

 鑑定で確認してもアニーの防御力は上昇していた。


「それじゃ攻撃力が上がるようにも祈ってくれ」

 と俺は言った。


「わかった」

 とナナナが素直に頷いて、また祈りのポーズをする。


 アニーの体が光る。

 攻撃力も上昇した。


 祈りはかなり強力な補助魔法である。攻撃力は上昇できるわ、防御力は上昇できるわ、傷だって癒せる。祈りが相手に通じるモノなら、何だって祈れた。


 昨日はコラ◯タと戦ったけど今日はラ◯タが登場した。一段階進化した魔物と彼女達は戦った。なかなかなかなかなかなかなか大変だけど俺は上空から彼女達を応援する。

 ワイはナニワの応援団長やで。よろしくやで。←急に変な関西弁で失礼する。

 ナナナに補助魔法かけてもらってもアニーの防具が弱いせいで彼女は怪我をした。

 怪我をするたびにナナナは祈ろうとして、そこを攻撃される。

 魔物を倒す、あるいは遠くに離れてからじゃないと祈りは相手に隙を与えるから気をつけて、と俺は上空から声をかけた。


 危険だから今回はちょっとだけ声をかけたけど、出来る限り声はかけないつもりでいる。

 自分で考えて行動するべき、と俺は思っている。

 効率が悪くても、間違っていたとしても、指示をするのは違うような気がした。

 やってる側からしたら『うるせぇーバカ。今からそうしようと思ってたんだ』となりそう。つーか俺ならなる。

 誰のレベルアップなのか? それは2人のレベルアップであって、俺のレベルアップではない。だから2人の課題であって、俺の課題ではないのだ。

 それにレベルアップの中に自分で考えて行動する、というのも含まれている。

 だから上空からは現場の状況を見守るだけ。

 危ないことは口出すこともあるかもしれないけど基本的には何も言わない。



 そして2人は魔物よりも厄介な奴等と遭遇した。

 盗賊3人組である。たまたま馬車で走っているところにアニーとナナナを見つけたらしく、近くに馬車を止めて2人に近づいて来た。

 アニーはナイフを抜いて戦う態勢になっている。

 だけどナナナは怯えて、立ち尽くしていた。

 

 俺は盗賊にバレないように認識阻害の魔法を自分にかけ、見守った。


「獣人じゃねぇーかよ」

 と盗賊の1人が言った。仮にコイツを盗賊Aとしよう。

「見ろよ。もう1人は獣人じゃねぇーぞ。かなりの上玉だぞ」

 と盗賊の1人が言った。仮にコイツを盗賊Bとしよう。

「フルボッキパワー」

 と盗賊の1人が言った。仮にコイツを盗賊Cとしよう。


 フルボッキパワーってなんだよ。キモいパワーを使うな。


 盗賊Cが鞭を手にとって攻撃した。

 その攻撃はナナナに向かった。

 彼女の俊敏さなら避けられたはずなのに、怯えて呆然と立ち尽くしていたせいで、ダメージを受けた。

 

 なんでだよ、と俺は思う。

 ナナナは奴隷狩りに襲われた恐怖を抱いているのか? 動かない。

 あらがえ、と俺は思う。

 2人なら倒すことが出来る。争え。


 ナナナは何度も攻撃を受けていた。


「グヘヘへへ。コイツは弱ぇー」


「ナナナちゃん」

 とアニーの叫び。


 アニーは鞭使いの盗賊Cに向かって行った。

 彼女のナイフは盗賊の腕を突き刺した。


 盗賊Bが剣を抜いた。

 アニーが下がった。


 盗賊Aが回復魔法で盗賊Cの腕を治した。


「ナナナちゃん。しっかりして」

 とアニーが叫んだ。


「クソ。コイツめ」

 と盗賊C。

 そして鞭の攻撃がアニーに向かった。


 鞭でアニーが捕まった。

 盗賊はアニーを引き寄せた。


「やめて」とアニーが叫んでいる。

 

「へへへへへ」

 と盗賊Cは笑って、アニーのホッペをペロンと舐めた。


 アイツ、アニーを舐めやがった。


 俺は盗賊達を消しそうになったけど、止めた。

 俺の課題じゃない。

 今は盗賊に立ち向かうべきなのは2人なのだ。

 見守る。本当にヤバい時は一瞬で彼等を消す。痛みとかも感じる暇も与えないほど一瞬で彼等を消すことは容易だった。


 怯えて立ち尽くしていたナナナが動いた。


 盗賊Bが振り上げた剣をナナナは避け、アニーを捕まえていた盗賊Cの顔面に爪で攻撃した。


 ナナナの攻撃力はそこそこ。

 だけど武器は最強のモノを渡している。コチラの商品は岩でも鉄でも豆腐みたいに簡単に切れる商品なんですよ、ザクザクザク、これは凄い。そんな武器を渡していた。それが盗賊の顔面を切り裂いたのだ。


 盗賊Cの顔面が3枚におろされた。

 

 のどかな景色の映像が流れるほど顔面3枚おろしはエグかった。


 鞭から解放されたアニーの行動も素早い。

 剣を振り下ろそうとしていた盗賊の首にナイフをザグっと突き刺さす。

 残った盗賊Aはナナナがさばいて、肉にした。


 俺は認識阻害の魔法を解き、地上に降りた。


「すごいすごい」

 と俺は言って手を叩いた。


 血まみれの彼女達に拍手喝采である。


「本当に頑張ったね」

 と俺は言う。


 言葉の限り彼女達を褒めたかった。


 盗賊に襲われて怖かったと思う。

 ナナナにいたっては怯えていた。動けなくなっていた。争うことを忘れていた。

 それでも立ち向かうことができたのだ。



 俺は盗賊の死体を消した。ファイアーで焼いて灰にして、風魔法で飛ばしたのだ。1秒もかからず、それをやったので2人には消えたように見えただろう。


「消えたよ」

 とナナナが驚いていた。


「消したんだよ」

 と恐ろしいことを、俺は微笑みながら言った。


 異世界に来てから俺も残酷になったモノである。

 戦わなければ殺される。犯される。奪われる。

 だから戦わなくてはいけなかった。

 そんな環境だからこそ怯えて争うことができずにいると全て奪われてしまう。



 盗賊が乗って来た馬車の荷台に入った。


「うわぁー」とナナナが声を出した。


 どこかで盗んできたらしい宝石。

 そしてオレンジのドレス。


「すごいね」

 とナナナ。


「そうですね」

 と興味無さげにアニーが言った。


「いらないの?」

 とナナナが尋ねた。


「私は小次郎様から貰ったモノがありますので」

 とアニーが言った。

 自分が持っているモノよりも劣るモノと彼女は思っているらしい。


 正直に言えばドレス以外は、たしかに劣る。宝石は、ただのピカピカ光るだけの宝石で何のスキルも付いていない。売っても二束三文だろう。


「貰っていい?」

 とナナナが尋ねた。


「いいですよ」

 とアニーが答える。


 そしてナナナは、俺の答えも求めた。


「もちろん」と俺は言った。


 誰から盗んで来たのかわからない品は、持ち主に返すこともできない。

 だから盗賊を倒した彼女達の物だろう。


「やったー」とナナナが喜んでいる。


 量が多いのでアイテムボックスに入れて俺が預かることにした。

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