第48話 領主様のエッチ

「フェニックスの防具を外して戦ってくれないか?」

 と俺が言うとアニーが「えっ?」と顔をした。


 あまりにも防具が優秀すぎてアニーが怪我をしない。

 怪我をしないから祈りを捧げる必要がない。

 今日はナナナの祈りの練習もしたいのだ。

 そのことをアニーに伝えた。


「わかりました」

 とアニーが了承りょうしょうした。


 すでに彼女は防具を身につけていた。

 恥ずかしそうにスカートの中にアニーが指を入れた。


「ちょっと待って。なんでココで脱ごうとするんだよ」


 アニーが顔を真っ赤にさせて馬車の窓を見た。

 馬車は昨日よりも強い魔物が出る狩場かりばに向かっていた。

 もちろん目的地に近づいている。


「小次郎様が脱ぐ姿を見たいと思いまして」

 と恥ずかしそうにアニーが言った。


「領主様のエッチ」

 とナナナ。


 見たくない、というのもおかしい。

 でも見たいというのもおかしい。


 だから俺はアワアワした。


「今は、今は脱がなくていいから。あとで新しい防具を出してあげるから」


 馬車が新しい狩場に辿り着く。

 草原だけど昨日よりも強い魔物が出る場所である。


 アイテムボックスから一度も使ったことがない森人シリーズの防具を取り出す。

 森人を助けた時に貰ったもので、別にいらねぇーけど好意だから一応貰っておくかレベルの品だった。

 クマの耳がついた帽子。

 モコモコのチョッキ。それをアニーは白のワンピースの上に着た。

 モコモコのズボン。モコモコの靴。

 モコモコだらけの森人シリーズの防具。

 決して防御力が高いわけじゃないけど、こんなにアニーが可愛くなるなら捨てなくて良かった。


「どうですか?」

 とアニーが尋ねた。


「可愛い」と俺は言った。


「耳が付いてる」

 とナナナが帽子の耳を触った。

 獣人みたいで嬉しいみたいである。


「それじゃあ魔物と戦う前に腹ごしらえをしよう」

 と俺は言った。

「今日から君達が朝ごはんを作るんだ」


 俺はアイテムボックスから卵とベーコンとパンを取り出した。

 焼くだけなら2人にも出来るだろう。


 ガスコンロに魔力を注いで使えるようにする。

「コレをひねると火が出るから」

 と俺は言ってガスコンロに火をつけた。

 本当はガスコンロじゃなくて魔力コンロである。ガスは使っておりません。

「フライパンに油をひいて、温めてから卵とベーコンを焼くんだ」


 これ以上は口出ししない。

 だって目玉焼きとベーコンを焼くだけである。


「ボクがやろうか?」

 と卵を握ってナナナが言った。


 コクン、とアニーが頷く。


 ナナナが卵をそのままフライパンに置いた。

 そう言えば卵を割る、っていうことは伝えていなかった。


「違いますよ」

 とアニーが言う。

「そのまま卵を置くんじゃなくて、割ってフライパンの上で焼くんです」


 そしてアニーがフライパンの上の卵を取ろうとした。


「あつっ」

 卵が熱かったらしく、手に取った卵をアニーが落としてしまった。


 落とした卵は床に落ちて割れた。


「勿体ないな」

 とナナナが言って、うつ伏せになり床に落ちていた卵をジュルッと啜った。


 見てられない。なんで床に落ちた卵を啜るんだよ。


「そんなハシたないことをしちゃダメですよ」

 とアニーが言った。


「だって勿体ないもん」

 とナナナ。


「落ちた物は一度、洗ってから食べてください」


「わかった」とナナナは言った。


「それじゃあボクやるね」

 とナナナは卵を握りしめた。

「割ればいいんでしょ?」


 コクン、とアニーが頷く。


 ナナナの卵を割るモーションが、メジャーリーガーのピッチングみたいだった。

 すごい勢いで割った卵がグシャと台の上で割れ、ゆっくりと床に落ちていく。


「わかってる。わかってるよ。アニー」

 とナナナは言って、床に落ちた卵を手で取ろうとした。

 ベチャベチャな卵は手で取れない。


「これは仕方がないんだよ。仕方がないんだよ」

 とナナナが言って、うつ伏せになり手で取れなかった卵をジュルジュル啜った。


「やめてください」

 とアニーが言った。


「大丈夫。手で取った卵もあるから」

 とナナナ。

「これは洗ってアニーにあげるよ」


 グジョグジョの卵を、水でナナナが洗った。


「あっ、無くなった」


 当たり前じゃん。

 卵は水で流されいる。


「次は私がやります」

 緊張した面持ちでアニーが卵を握った。


 そしてナナナと同じように、メジャーリーガーがボールを投げるようなモーション。

 グシャ。

 台の上で潰れる。


「大丈夫」

 とナナナが言う。


「台の上に落ちる前にすするから」


 ジュルジュルとナナナが台の上の卵を啜った。


 俺は頭を抱えた。

 なぜ卵を割るだけが出来ないのか?


 口出ししないつもりだったけど、俺は目玉焼きの作り方を実践して見せた。

 そして時間をかけてようやく朝ごはんができた。

 コゲているし、黄身の部分が崩れているけど、ご愛嬌である。

 これから料理も練習していけばいい。

 ミナミには料理を諦めさせたけど、この2人はミナミよりは見込みがあった。

 ちゃんと目玉焼きとベーコンが焼けるんだもん。それだけで素晴らしい。

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