第45話 女子2人のとんでもない会話

 馬車の前。

 冒険を始める前に2人に注意事項を説明しないといけなかった。

 まるで引率の先生の気分だった。


「この冒険には注意事項がある」

 と俺は言った。

 

 獣人の女の子。エルフの女の子が真剣に俺のことを見ていた。

 すでに彼女達には防具を着てもらっていた。

 アニーはフェニックスの防具。その上に白いワンピースを着ている。

 ナナナは魔物の鱗で作られたアーマーを着ていた。防具のふちにドラゴンのたてがみが付いている。もちろん希少なモノで防御力は高い。


 俺の鑑定ではナナナの得意武器は爪、となっていたのでドラゴンの爪で作られた武器も渡していた。それを彼女は腰にぶら下げている。


「冒険は思いもしない出来事が起きると思う」と俺は言った。「少しでも帰りたいと思ったら言ってほしい。すぐに引き返して帰る」


「はい」と2人が返事をする。


「魔物と戦うこともある。その時は出来る限り2人で対処してもらう」


 この冒険でナナナとアニーのレベルアップを考えていた。

 メンタルを鍛えるには肉体強化も必要なのだ。

 この冒険は少しだけ時間をかけるつもりだった。

 領主としての仕事は、彼女達が寝静まった後にワープホールで家に帰ってからするつもりだった。


「危ないと思ったら俺が対処する。なにかあったらすぐに俺に言うように」


「はい」と2人が返事をした。


 それとコレは注意事項ではなく、確認事項である。

「目的の場所に辿り着いても、すでに獣人達は死んでいるかもしれない」と俺は言った。

「獣人を助けたい、というナナナの思いは叶わないかもしれない。それでも行きたいか?」

 何度もした質問だった。

 答えはわかっている。


「行くよ」とナナナは言った。「もし死んでいたら供養してあげなくちゃ。生まれ変わることができない」


 獣人を殺した貴族のことをどうするのか? について彼女は考えていないみたいだった。

 倒すことができる、という発想が無いんだろう。

 ただ獣人はやられるだけ。そう彼女自身も思っている。その意識を俺は変えてほしかった。あらがうことができる事を知ってほしかった。



 俺達はユニコーンが引く馬車に乗った。

 ユニコーンには弱い魔物が出る草原に向かうように指示していた。もちろん目的地の途中にある草原である。


 俺は揺れる馬車の中で晩御飯の用意をしていた。女子2人も手伝う、と言ってくれたけど狭いキッチンなので断った。

 決してアニーの料理が不安だから断ったわけじゃない。むしろ時間を見つけて料理を教えたいぐらい。

 馬車で揺られながら狭いキッチンで3人で料理することができないから断ったのだ。

 草原で魔物と戦って馬車に帰って来たら2人ともお腹が空いているだろから、今すぐ料理を作っておかなくてはいけなかった。


 俺が料理を作っている間に、アニーがナナナに絵本を読んでいた。

 文字の勉強らしい。

 お姫様が王子様にキスをして蘇る話である。


「アニーはキスしたことがあるの?」

 とナナナが質問した。


「したことあります」

 とアニーが小声で言った。


「どんなの?」


「柔らかかったです」

 とアニー。


「なにが柔らかいの?」

 とナナナ。


「……唇が柔らかいんです」


「領主様も、あの女性の人とキスしてたよ」


「……女性の人?」


「ミナミっていう人」


「どこでしてたんですか?」


「マラソン大会の時に」

 とナナナが言う。


「ナナナ」と俺が言った。

「余計なことを言うんじゃねぇ」


「ミナミ様と外でキスしてたんですか?」とアニーが言った。「へー」

 アニーが俺を見てくる。


「アニーはキスしても交尾しないの?」とナナナが質問した。


「私はまだ交尾してません」


「どうして?」


「交尾は16歳になってからです」


「ボク、たぶん16歳になってるよ。領主様と交尾していい?」


 俺は吹き出してしまった。

 えっ、俺としたいのか?

 獣人の繁殖能力は高い。

 つまり、ちょっと他の種族よりもエロいのだ。


「小次郎様は妻としか交尾しません」

 アニーが焦りながら言った。


「そうか。妻じゃないと交尾できないのか」

 ナナナの残念そうな声。


「ナナナは小次郎様のこと好きなんですか?」


「好き。大好き」

 めちゃくちゃ素直にナナナが答える。

「交尾できないのなら、それじゃあ見る」とナナナ。


「何を見るんですか?」


「領主様とアニーが交尾しているのを、ボクは見ておくよ」

 ナナナにとっては妥協案だったんだろう。


 たまらず俺は吹き出した。


「何を言ってんですか? 交尾はしませんよ」


「でも妻なら交尾してもいいんでしょ?」


「16歳になってからです」


「ボク、16歳だよ?」


「ナナナの年齢は関係ないでしょ」とアニーが言った。


 女子2人のとんでもない会話を聞きながら俺は料理を作っていた。




 

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