第39話 ナナナちゃんの支えになりたいです

 ナナナの記憶を見てアニーが落ち込んでいた。

 何に対して落ち込んでいるのかはわかっていた。


「アニー」と俺は彼女を呼んだ。

「もしかして君はナナナから薬草を値切ったことで落ち込んでいるのか?」


「……はい」と彼女が頷いた。


「アニーが値切らなければナナナはパンが買えたかもしれない」


「……はい」と彼女が頷いた。


「だけどアニーは何も悪いことはしていない」


「……でも」


「やってはいけないことを領民達の間で作ることが悪なんだ」

 と俺は言った。


「……」


「採取した薬草を店は買い取ってくれなかった。本来なら、あの店はアイテムを買い取ってくれるはずの店だった。だけど獣人だから買い取ってくれなかった」


「……」


「正規の値段でナナナはパンも買えなかった。パン1つ銅貨1枚で買えるはずなんだ。だけど獣人だから正規の値段で提供してくれなかった」


「……」


「パンを盗んだだけで、種族ごと街から追い出された。そんな処罰は、この街には存在しないのに」


「……」


「やってはいけないことを領民達の中で作ることが悪なんだよ」と俺が言う。

 悪。意味は正しくないこと。


 ルールを作るのはリーダーの仕事である。そして、そのルールは特定の種族だけを排除するモノであってはいけない。

 領民達が作った暗黙のルールは獣人達にやってはいけないことを作るモノだった。


「アニーは商品を値切っただけで、やってはいけないことを作ったわけじゃない。だから君が薬草を値切ったことで落ち込むことは間違っている」

 と俺はハッキリと言った。


 何が良くて、何が悪いかぐらいの判断は出来る。

 彼女がしたことは、ただ商品を値切っただけなのだ。


「チェルシー」

 と俺は言った。


「ヘップの記憶はまだ残っているのか?」


「残ってねぇーよ。どれだけの記憶を読み込んでいると思ってんだよ。メモリーがパンクするからゴミの記憶から消していっているよ」


「ヘップの家はわからないのか?」


「わかんねぇーな」


「それじゃあ、街で一番の豪邸に侵入して……」


「ちょっと待て」とチェルシーが言った。「ヘップは領地を持たない貴族だぞ。一番の豪邸とは限らない。それにあの街は領地を持たない貴族が沢山住んでいる」


「年金組が住む場所か」

 と俺は呟く。


 この世界の年金は貴族の制度である。国に領地を返却した貴族は年金を貰えた。領地運営が得意ではない貴族達は領地を国に返して年金を貰って生活するのだ。


 手当たりしだいに探すには街は広すぎた。


「君に決めてみた」

 召喚獣を出す時の決め台詞は忘れていない。


 俺は一体の魔物を召喚した。

 今までにも人探しで召喚したことがある魔物である。

 煙のようにフワフワと宙に浮いていた。犬みたいな胴体で顔は猿っぽい。

 アルプである。

 この魔物は夢の中に忍び込める。そして夢から夢へ移動が出来るのだ。だから誰にも見つからずにヘップを探すことができる。


 チェルシーにヘップの顔を映してもらった。


「コイツを探してくれ」


 コクン、と頷いてアルプは消えた。


 どれぐらいかかるかは、わからなかった。


「バカ貴族を見つけてどうするの?」

 とミナミが尋ねた。


「獣人を取り返す」


「もうすでに獣人が殺されていたら?」


「本音で言えば獣人が殺されていた時点で俺はヘップを殺したい。だけど最終的にはナナナに決めてもらうと思う。仲間を奪われたのは彼女だから」


「殺す時は証拠を残したらダメよ」


「チリ1つ残す気は無いよ」

 と俺は言った。


「あの」とアニーが言う。「ナナナちゃんを連れて行くんですか?」

 

「仲間を取り戻したい、と言うならナナナも連れて行く」と俺は言った。

 

 俺がしたいこと。街から追い出した獣人を再度受け入れること。

 ナナナがしたいことが仲間を取り戻したいことならナナナの課題でもある。

 だから彼女を連れて行く。


「ナナナちゃんが行くなら私も付いて行っていいですか?」


「どうして?」

 と俺が尋ねる。


「ナナナちゃんの支えになりたいです」

 とアニーが言った。

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