第29話 最悪の犯人

 貴族のパーティーは最悪だった。それ以上に犯人が最悪だった。


 俺を見て動揺した貴族をアニーは教えてくれて、ワープホールを使ってソイツ等の頭をチェルシーに触らせた。

 俺を見て動揺する奴等は性奴隷を飼っている奴等だった。最強の武力を持つ元勇者が奴隷が禁止している。だけど自分は飼っている。バレる訳は無いのに俺を見て動揺してしまったのだろう。

 

 アニーから目を離した隙に、バカが彼女に言い寄っていた。ぽっちゃり金髪脂ギッシュ肌の20代の男である。

 一応、コイツの頭もチェルシーに触ってもらって情報は手に入れた。どこかの貴族のバカ息子だった。性奴隷を大量に抱え、メイド達にも手を付ける性欲お化け。そんな奴がアニーの美貌にやられてウヘヘ、と近づいて着たらしい。


 彼女を助けようとしたけどセドリッグに止められる。こういう事は想定内らしく、男性に誘われた時の振る舞いも身につけているらしい。

 音楽が流れる会場。ダンスフロアーにアニーとバカの2人が行って踊った。

 それを見ているだけで俺の胸がモヤモヤした。


 アニーは人気で、次々と男性達からダンスに誘われていた。


 舞踏会にいる鑑定士がアニーを鑑定したらしく、あの美しい娘がどういった身分なのかという噂話が流れていた。

 彼女はらしい。

 だからあの美貌で振る舞いも優雅なのか、と納得している貴族達を見て俺は笑った。

 

 アニーにあしらわれたバカが俺のところにやって来る。

「あの子と、どういった関係なんですか?」

 なんでお前に言わないといけねぇーんだよ。

 たぶんコイツは俺の事を知らないんだろう。俺に話しかけて来る奴なんて他にはいなかった。

「ただの知り合いですよ」

「謝礼を渡しますので紹介していただけないでしょうか。あの子を私の正室にしたい」

 なんでお金と引き換えにアニーを渡さなくちゃいけないんだよ。

 なんだよ、急に正室とかキモっ。

「私に、そんな権限はございませんよ」

 と俺は答える。


 バカから離れて彼女の元に向かおうとしたけど、音楽が止まって空気が変わった。

 アニーはレッドカーペットに体を向け、屈んだ。

 他の女性陣も同じようにして整列している。

 今は彼女に喋りかけちゃダメだな、と俺は思った。

 コンテストが始まったのだ。


 王様と女王がレッドカーペットを歩き、めぼしい子の顔を上げさせて、フンフンと頷いている。

 このコンテストの審査員は王様と女王である。フンフンと頷いているのは審査しているのだろう。

 そして2人がアニーの前で立ち止まった。彼女に顔を上げさせる。


「美しい」と女王が言った。

「美しい」と王様が言った。


 アニーから視線を外した王様と、彼女の近くにいた俺の目が合った。 


 この人です、とアニーの心の声が念話で聞こえた。

「恐怖、怯え、怒り、様々な感情が王様の心拍から感じます」


 もし魔物を巨大化させた犯人が王様なら最悪だった。

 俺と王様の関係は、大阪市長と総理大臣の関係である。

 ルールに従っているのは俺で、ルールを作っているのが王様である。

 もし王様が犯人ならルールを作っている側からの攻撃になる。

 不当であることを言う場所がなくなるのだ。 


 アニーを見た王様と女王は、彼女以降の女の子は審査せず、用意された王座に座った。

 そして従者を使ってアニーを王座に呼び出した。

 これがコンテントの発表みたいなモノである。つまりアニーが優勝という訳だった。


「アニー様を王座に近づけてはいけません」と心の中でセドリッグの声が聞こえた。

「王様の隣にいる男が、私が警戒していた鑑定士であります」


 王様の隣には老紳士が立っていた。

 俺は動き出したが、もう遅かった。

 老紳士が王様に何かを伝えている。


「お主は奴隷か?」

 王様のその言葉は、衝撃のインパクトとして会場内に広がった。

 ざわつく会場。

 

 俺は王座の前に行った。

 王様と女王様には急に俺が目の前に現れたように見えたんだろう。2人が目を丸くして驚いていた。


「この子を連れて来たのは私でございます」


 俺は頭を下げる。


 その隙に王様の後頭部に小さなワープホールを作り出し、チェルシーに頭を触ってもらう。


 もし王様が犯人ではなかったら事情を喋り、徹底的に謝罪するつもりだった。



「最悪だ」とチェルシーの声が聞こえた。

「犯人は王様だ」


 正直に言えば犯人が王様とわかった時点で逃げたかった。

 だけど俺が逃げてしまえば王族に恥をかかしたことになる。それは罰せられて然るべき事象じしょうを作ったことになる。王様の面子を潰したことになるからだ。


「皆様、これは余興よきょうでございます。この国は安泰でございます。この国にはこんなにも美しい女性がいます。それに勇者である私、宮本小次郎が守っております。我々はこの国の発展の支えになりましょう」


 拍手を求めるように、自分で手を叩いた。

 会場から俺に釣られるように拍手が起きた。

 俺は何を言っているんだろうか?

 自分で喋っていて意味がわからん。美しい女性と勇者がいるから安泰? 

 意味がわからないけど、これが王様による余興に見えればいいのだ。


 俺は王様と女王に一礼した。


「今日、お呼びいただきありがとうございました」


 俺はアニーをお姫様抱っこした。


 俺達は先に帰る、とセドリッグに念話で伝えた。

 かしこまりました、とセドリッグの声が心の中で聞こえた。


 アニーを抱えて俺は会場を後にする。俺の速さは誰にも止められない。だけど彼女に負担がかかってしまうからお姫様抱っこは会場の外まで。

 外に出ると慌てて馬車に乗り、街へ戻った。


 そしてチェルシーが手に入れた王様の記憶を見て、俺は頭を抱えた。

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