第22話 裸が見たかったんです

 アニーの事は子どもだと思っている。いわゆるガキである。ションベンくせぇーガキ。子どもに対して大人がしてあげることは1つである。

 自立するために支援すること。

 ションベンくせぇーガキだと思った奴には自立するために支援するのが大人の役目である。


 自立というのは他人からの支援や援助をされずに自分の力で生きていけること。

 いつかアニーは1人で生きていかなくてはいけないのだ。

 

 基本的に俺の教え方は優しい。

 やってみせて、言って聞かせて、させてみて、少しでも出来ればめちゃくちゃ褒める。わからなかったら何度でも聞いてくれてもいい。山本五十六やまもといそろくをリスペクトしている訳ではないけど、オッサンになれば人を教える時はココに落ち着く。


 死にそうなギリギリまで手は出さないし、教えたことがわからなくなって混乱している時も聞きに来ない限りは自分で思案していると思って口は出さない。

 ただただ見守る。


 アニーはすでに10体の魔物を倒していた。

 汗だくで、汚れていて、フラフラの状態になっている。

 

 アニーを鑑定する。

 強さの数値をレベルで表したら、(レベルという概念はこの世界にない。分かりやすく説明するなら)だいたいレベル4まで成長していた。


 威嚇はまだ身につけていない。

 アニーの威嚇は、目が悪くなったけどメガネをかけていない中学二年生みたいな顔をした。

 それじゃあ魔物はビビらない。魔物より自分の方が強いんだ、と示さなければいけないのだ。

 だけどレベルが上がってきているから、そのうち出来るようになるだろう。


 骸骨でサビた剣を持っているスケルトンが現れた。冒険者の屍が魔物化したものである。

 まだ彼女の強さでは戦えない魔物だった。しかもアニーはフラフラである。

 彼女はどういった判断をするんだろうか?

 本来なら自分より強い魔物が現れた場合は逃げないといけない。

 逃げるというのも選択の1つなのだ。


 彼女は無謀にも突進して行った。


 最強防具を装備しているので死ぬことはないけど選択ミスである。

 彼女はスケルトンに力負けして尻もちをついた。魔物は持っていたサビた剣でアニーの心臓を刺そうとした。

 

 俺はスケルトンにファイヤーを飛ばして、魔物を消滅させた。


「頑張ったね」と俺は言った。

「スケルトンは倒せなかったけど、こんなに沢山の魔物を倒すなんて思わなかったよ」


「ありがとうございます」と彼女は言って、立ち上がろうとした。


「大丈夫?」と俺は尋ねて、彼女の手を握って立たせた。


「はい」


「なんでスケルトンから逃げなかったの?」

 と俺は尋ねた。


「逃げてよかったんですか?」


 逃げる、という選択肢がコマンドに入っていなかったらしい。


「自分より強い魔物が現れた時は逃げなくちゃいけないよ」


「わかりました」

 とアニーは言って、また魔物を探しに行こうとした。

 だけど足元はフラフラで、また倒れそうになった。

 だから俺はアニーをお姫様抱っこした。


 彼女は上目遣いで俺を見て顔を真っ赤にさせた。


「まだ、戦えます」


「体を休めるのも修行だよ」

 と俺が言う。

「馬車に戻ろうか?」


「はい」とアニーが返事をした。



 馬車に戻るとアニーをソファーの上に寝かせた。

 疲れすぎていたらしく、馬車まで戻る帰り道で眠っていた。


 俺はキッチンの前に立つ。何を作りましょうか? まずは手洗いである。


 結局はカレーになっちゃうんだよな。他の料理も作れるんだよ。でもキッチンが小さくてカレーしか作れないのだ。←どんな言い訳だよ。まぁ、簡単だし、前もアニーが美味しく食べてくれたし。

 

 カレーの匂いがキッチンカーに充満した。

 ソファーの上で寝ていたアニーの鼻がピクンピクンと動いている。

 美少女がカレーに反応してピクンピクンと鼻を動かしているのは可愛らしかった。


 カレーを机の上に置くと眠っていたアニーが目覚めた。

 どうぞ、とスプーンを渡すと、「いただきます」と小さく呟いて、パクパクと食べ始めた。

 お腹が空いていたんだろう。

 なぜかアニーが固まって、顔を真っ赤にさせて俺を見た。


「どうしたの?」と俺は尋ねた。


「勇者様より先に食べてしまいました」


「別に気にしなくていいよ。おかわりもあるからいっぱいお食べ」


 俺もアニーの隣でカレーを食べた。


 食べ盛りのアニーはカレーを一瞬で食べてしまう。


「おかわりしないの?」

 と尋ねると、

「おかわりしていいですか?」

 と恥ずかしそうにアニーが言った。


 俺は笑顔でいいよ、と言ってアニーのおかわりを注ぐ。

 この年齢の子の胃袋が宇宙なのである。

 それにアニーは今日戦ってレベルアップしたのだ。

 お腹が空くに決まっている。


 結局、アニーは3杯もカレーを食べた。


 ご飯が終わると俺はシャワー室に魔力を注ぎ、シャワーが使えるようにした。


 アニーがシャワーを使っている間、俺はユニコーンのところに言って果物やポーションを飲ませてあげた。


 ユニコーンは目線で喋ってくる。そういうスキルを持った不思議な魔物である。


「今日、ハッスルするのかって? バカな事を言ってんじゃないよ」と俺が言う。


 ちなみに俺は異世界に来てから一度もアレを誰ともしていなかった。アレをして恋人になってしまったら日本に帰りづらくなるからだ。日本に娘を置いて来ている。もしアレをして、この世界に子どもが出来てしまったら? 日本に帰れなくなってしまう。もう2度と娘に会えなくなってしまう。だから俺はアレをしない。


「馬車に戻って来て、いいですよ」

 アニーの声が馬車から聞こえた。

 馬車の中に入ると、アニーは無地のTシャツだけを着ていた。

 もう一度繰り返します、アニーは無地のTシャツだけを着ていた。

 そう言えば寝る時に着る、って言っていた。

 目に毒です。

 俺はロリコンじゃない。でも見てしまう。


「下は履いてるの?」


 と俺は尋ねた。

 やべぇーーキモおじさんになってしまった。

 お嬢ちゃん、パンツは何を履いているの?


「ただの下着、です」

 とアニーが恥ずかしそうに言う。


 柔らかそうな太ももを見た。


「見ないでください」

 とアニーが言って、Tシャツを引っ張って太ももを隠そうとする。


「あっ、ごめん」

 すぐに謝る。


「もう見ない。ごめん」


「少しなら見てもいいですよ」

 

 複雑な女心をアニーが言った。


「髪の毛を乾かせてあげようか?」

 と俺は言う。


「はい」


 アニーをソファーに座らせて、風の魔法で髪を乾かしてあげた。


「それじゃあ俺もシャワー入るわ」


「馬車から出ましょうか?」


「出なくていい」と俺は言った。

 そんな格好で外に出て、他の冒険者がダンジョンに入って来て鉢合わせしたら襲われてしまう。


「シャワー室で着替えて出て来るから」と俺は言った。


 石鹸で頭を洗っている最中に後ろから視線を感じた。

 もしかして幽霊? 振り向けない状態の時にこそ人の気配を感じてしまうものである。

 そこに何もいないことを確認して安心したかった。だから俺は振り返った。


 アニーが扉を少しだけ開けて、覗いていた。


 目が合って真っ赤な顔をしたアニーが、扉をゆっくりと閉めた。

 なんで覗きなんてするんだよ? めちゃくちゃビックリしたじゃないか。幽霊かと思ったじゃないか。


 シャワー室から出るとアニーはソファーの上で座っていた。

 俺もアニーと同じ白い無地のTシャツを着ている。下は短パンである。


「ごめんなさい」とアニーが言った。


「なんで覗いていたの?」


 彼女が顔を真っ赤にさせている。体も真っ赤である。


「……勇者様の……裸が見たかったんです」


 スケベさん。

 14歳だもんな。

 男の体にも興味あるよな。


 ちなみに俺の体は17歳の筋肉質な体である。


「そうか」と俺が頷く。


 これは叱るべきなんだろうか?

 オッサンになっても叱っていいことか悪いことが判断がつかないこともある。

 少しの沈黙。


 彼女が泣きそうになっている。


「怒ってないよ。後ろに幽霊がいるんじゃないかってビックリしたけど」


「……もう覗かないです」


「うん」と俺は頷いた。


「俺もアニーの太ももをチラチラと見ているし、おあいこだね。だけど他の人にはやったらダメだよ」と俺は言った。


 叱らない、という選択を俺は取った。

 だけど他人に迷惑をかけるわけにはいかないので、一応は軽く注意する。


「他の人の裸になんて興味ありません。勇者様のだけです」

 とアニーが言って、さらに顔を真っ赤にさせる。


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