第14話 拷問

 女の子が犯されるのを見るのは気分が悪い。アダルト動画とかなら、そういうシュチュエーションもありかな、と思うけど、身内の子が無理矢理犯されそうになっているのは見るのはキツい。


 この世界には秩序ちつじょが無い。強い奴が弱い奴を搾取さくしゅするのが当たり前になっている。

 だから弱い女の子が犯されても仕方がないこと、と処理されてしまう。

 

 そういうのが俺は嫌だった。


 だから俺は街に警察を作り、秩序を作り、俺の手が届く範囲だけでも弱い人達が泣かないようにしたかった。

 そういう場所に仲間にいてほしかった。

 そういう場所を仲間と一緒に作りたかった。


 映像の中のアニーは恐怖で声を出すこともできずにいた。

「早送りしてくれ」と俺は言った。


「いいから黙って見とけよ」

 とチェルシーが言う。 


 カエルの格好のような状態で縛られたアニーは、岩のようにゴテゴテの体格のハゲた冒険者に服を破られた。

 

 彼女の誰にも触れられたことがない綺麗な2つの胸があらわになった。


 男のアレはズボンの上からでもわかるぐらいに大きくなっていた。


「コイツのあれ、まるでバランのクソみたいにデケェーな」

 映像を壁に映し出しているチェルシーが言って笑った。


「黙れ」と俺は言って、映像を見ないように目を伏せた。



「君達、ちょっと待ちなさい」

 と声が聞こえた。


 顔を上げて映像を見ると、犯されそうになっていたアニーを助けに入る男がいた。


 その男は20代前半の男だった。大きな肩掛けカバンを持っている。

 服装は膝まである青いワンピース。日本ではワンピースは女しか着ないけどコチラでは男でも着る。

 俺は着ないからわからないけど別の呼び方があるのかもしれない。それにズボンを履いていた。

 商人である。


 なぜ商人とわかったのかというとカバンから算盤そろばんがはみ出ているからだ。

 どこかで見たことがある。誰だろう?

 あっ、と思い出す。

 コイツはアニーを売っていた商人である。


「死人を犯したいと言うから、仕方なく待っていたけど、その子は生きているじゃないですか」

 と商人が言う。


 今、とんでもねぇー発言を聞きましたけど。

 このむさ苦しい3人の冒険者は、死体と、そういうことをしようとしていたのか? とんでもない性癖。

 こっちでは、それが当たり前なのか? 怖すぎる。怖すぎるよ。


 話を聞いていると3人の冒険者は商人の護衛として雇われているらしい。


「コレはお前のモノじゃない」

 バランのクソぐらいに大きいアレを持った(今では縮んでいる)ハゲた男が言う。


「取引をしましょう」


「いくらだ?」


「金貨30枚」


「わかった。ヤッた後で取引しよう」


「君達がヤれば、病気も感染るし妊娠もしてしまうでしょ。そしたら売り物にならない」


 どうする? と3人が顔を見合わせる。


「交渉はヤッた後でだ」

 お預けを食らうのが嫌なハゲた男が言う。


「ヤッた後なら金貨5枚」と商人が言う。


「それじゃあ別の商人に売る」


「我々が今から向かう街は奴隷売買が禁止されているんですよ。誰に売るんですか? もし売る人が見つかったとしても捕まって処刑されますよ」


「別の街に行く」


「護衛の仕事をほったらかして? 依頼を途中で放棄をしたら冒険者ギルドで次の仕事を受けるのが難しくなりますよ?」


「……金貨30枚だ」

 とハゲ男が言った。


「賢明な判断です」

 と商人が言う。


 交渉は成立したらしい。


 商人はアニーを見て、ニヤーっと笑った。


「エルフの村の場所を聞き出せたら、エルフの奴隷を大量に捕まえることができる」

 誰にも聞こえないような小さな声だったけど、耳がいいアニーには聞こえた。


 彼女は唇を固く閉じた。もしかしたらココで彼女は喋らないことを決意したのかもしれない。喋ってしまえば仲間を危険に晒す。

 ずっとアニーが喋らなかったのは仲間を守るためだったのかもしれない。


「コイツは馬車に積んでおけばいいんだな?」


 縄で縛られ、カエルの格好の状態になっていたアニーを男は担いで馬車に乗せた。


 馬車の中にはアニーと同い年ぐらいの女の子達が3人いた。

 みんなボロボロの服を着て怯えている。別の街から買われて来た子達なのだろう。


 商人も奴隷達がいる荷台に乗った。


 彼はニヤニヤしながらアニーの前に座った。

 馬車が走り出して、映像が揺れた。


 商人はカバンから釘を取り出す。


「知ってますよね。エルフは耳を傷つけたら魔力が失うこと」


「……」


 言葉がわからないフリをしているのか、アニーは頷きもしなかった。

 ただ怯えていた。


「エルフの村がどこにあるのか教えてください。教えてくれたら耳は傷つけません」


「……」


 商人は釘をアニーの耳に当てた。

 アニーは顔を振って、釘から逃げる。


「魔力を失ったら、村に帰ることができませんよ」


「……」


「答えてください」


「……」


 商人はアニーに喋りかけたけど、彼女は何も答えなかった。


「仕方がありません」

 そう言って、商人は釘をアニーの耳たぶに押し込んだ。


 アニーの綺麗だった金髪が、真っ黒に染まっていく。


「答えない貴方が悪いんですからね」と商人が言う。

「もう貴方は魔力を使うことも、村に戻ることもできません」


 魔力を使われると厄介だから、どっちにしろ耳は傷つけるつもりだったんですけど、と誰にも聞こえないぐらいの小さい声で商人が言った。


 だけどアニーには聞こえていた。


 馬車は街に辿り着き、彼女は牢屋に入れられた。

 他の奴隷達は売られていった。

 商人がエルフの村の場所を聞くために、彼女だけは売らなかった。


 商人はエルフの村を聞き出すために彼女を拷問した。

 爪を剥がし、ナイフで肉を刺し、ポーションで回復させて、の繰り返し。

 見たくないシーンが永遠に続いて吐き気がして、さすがにチェルシーもココは早送りした。


「この子は言葉が喋れないんですね」

 牢屋に入れられて数日が経ってから商人が呟いた。

「仕方がないですね。もう売りますか」


 プロジェクターの映像の半分以上が黒くなっている。

「なんで映像が黒くなってんの?」

 と俺が尋ねた。


「忘れたい記憶だからだよ。アニーの脳みそが必死にこの事を忘れようとしているんだ。人間の脳みそってショックな事があったら消去してしまうんだ」


 彼女は絶望の底に沈み込んでいて、映像のほとんどが黒くなっている。


 牢屋の中に入れられた彼女は、母親を助けるために村を出た優しくて勇気のある女の子の姿ではなかった。


 髪が黒くなったエルフの女の子。

 もう2度と自分の村から歓迎されることはないだろう。母親に薬草を飲ませることもできないだろう。それどころか家に帰ることもできないのだろう。

 未来を失い、痛みに耐え、壁の一点だけを見つめていた。


 もう彼女は勇者に助けを求めなかった。

 絶望だけが彼女を支配していた。


 そして俺が奴隷商を捕まえるためにやって来たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る