第5話 めしあがれ

 彼女が喋ってくれないとです。ヒロシです。お名前は? って尋ねても無視されるとです。ヒロシです。急にヒロシです、って言っても今の子ってこのネタ知らねぇーよな。そもそも異世界でヒロシなんていねぇーから知らねぇーわな。

 いいもんいいもん、契約書に彼女の名前書いていたから答えてくれなくても知ってるもん。

 代わりに俺の自己紹介をしておこう。


「ヒロシです。でも本当はヒロシという名前じゃないとです。だからヒロシと呼ばれても反応できないとです」


 もちろん全然ウケないし、エルフの女の子にヒロシネタをぶつけても、さっぱり意味わからないと思う。ちょっと場を和ませたかっただけなんです。ただセンスが無かっただけなんです。気にしないでください。


「俺の名前は宮本小次郎と言います。エルフの村に送るまでの付き合いになると思うけど、よろしくね」


 異世界に来たのが32歳で、そこから10年経っているから実年齢は42歳である。

 俺も歳を取った。でも心は8歳と変わらんよ。←どんだけ若いんだよ。心は20代と変わらんよ。

 コッチに来て肉体が10代になってしまった。それから10年も歳を取ったけど、見た目は10代のままである。

 俺こそエルフなのかしら? 見た目に性格が引っ張られているのか、そんなにオジサンって感じはしないと思う。朝勃ちもするし。


「君はいくつなの?」

 女性に年齢を聞くのは失礼と思いつつ、俺は尋ねた。

 彼女は手をモジモジさせるだけで何も答えない。

 チラッとだけ俺のことを見た。

 質問の答えはないまま沈黙が続く。

 なんか気まずい。

 窓を開ける。


「いい天気だね」

 天気の話題が出たらお終いよ。もう話題が無い。

 若い子と何を喋っていいのかオジサンわかんない。今の若い子はスマホばっかり見て、コッチの顔を見ることもないんだもの。

 エルフの女の子はスマホなんて持ってないし、手をこねくり回しているだけで何をするって訳じゃない。この仕草が、どうしても彼女が若く見えてしまう。

 

 

 そう言えば俺が住む大豪邸……自分の家のことを大豪邸って呼ぶのは鼻に付く。

 あえて俺は自分の家のことを大豪邸と呼ぶことに決めていた。超大豪邸でエルフの女の子にご飯を食べさせてあげる予定だったけど、元パーティーメンバー(現在は悪友)がいて、逃げるように出て来てしまった。


「お腹空かない?」

 と俺は尋ねた。

 エルフの女の子はコッチをチラっと見た。

 反応はしてくれるんだね。目を見て喋ってくれるだけでも嬉しい……いや、彼女は喋ってねぇーわ。

 ちょっとだけ彼女が頷いたような気がした。本当にちょっとだけ。1ミリ程度コクンと首を縦に降ったような気がする。


「お腹空いたわね。ご飯作りましょう」と俺はステラおばさんのモノマネをして言った。ステラおばさんって誰だよ。知らんけどクッキー焼くおばさんじゃなかったっけ? 日本にいた頃の記憶も曖昧ですわ。自分が誰のモノマネをやっているのかもわからん。もしかしたら誰のモノマネもやっていないのかもしれない。


 俺はキッチンの前に立つ。

 アイテムボックスからお米を取り出す。

 さっきは四次元ポケットと言ったけどアイテムボックスの方がしっくり来るので、これからはアイテムボックスで統一させていただきます。

 

 じゃがいも、にんじん、たまねぎ、ドラゴンの肉、←ドラゴンの肉で異世界感を出しております。

 それにスパイシーな香辛料。これを探すのに、めっちゃ時間がかかった。色んなところから取り寄せて、カレー粉に似せた何かにしたのだ。

 そう俺が作ろうとしているのは異世界カレーである。


 馬車が動いていたら料理が作りにくいことに気づく。

 ユニコーンに休憩を命じる。

 もう休憩かよ、と俺に訴えて来たけど、だって料理が作れないんだもん。


 ドラゴンの肉は硬いのでグツグツ煮込んで、野菜をドリャーーーと入れて香辛料を入れて、さらに煮込む。

 途中で装備していた剣が邪魔だったのでアイテムボックスに仕舞う。

 普段、腰に剣を装備しているのは、カッコイイからである。

 キャンピングカーにはいい香りが充満した。


 換気のために窓を開ける。

 外からは生暖かい風が入って来た。

 お鍋のご飯も炊けたみたい。

 お皿にご飯を盛った。そしてカレーを注いだ。

 スパイシーな湯気が食欲を誘う。


 彼女が座るソファーの前には頑丈なガラスで作られた机が置いてある。そこに注いだカレーを置いた。


「めしあがれ」と俺は言う。


 俺は自分のカレーを注いで彼女の隣に座った。

 エルフの女の子はカレーを見つめているだけで、まだ手を出していない。


「カレーって言うんだ。俺の国の食べ物だよ。食べてくれたら嬉しいな」

 俺は食べる。

 うまっ。俺って天才じゃん。ちゃんとカレーだよ。お袋の味だよ。


 彼女はスプーンに少しだけすくって、ゆっくりと口に入れた。

 人に食事を見られるのも嫌だろうから、俺は出来る限り彼女の方を見ないようにした。


 美味しかったらしく、さっきよりもスプーンに多めにすくって口に入れている。


 そう言えば水も出してなかった。


 アイテムボックスから2つのコップと水袋を取り出す。

 そして2つのコップに水を注ぐ。


 何も喋らないからわからないけど、何もない空間からコップや水袋を取り出したことに彼女は驚いているみたいだった。

 彼女は手を口に当て、ちょっとだけ瞳孔が開いていた。驚いている時のリアクションである。

 出来る限り彼女の方は見ないようにしているけど、ちょっとでもリアクションがあると見てしまう。申し訳ない。

 

「お水もどうぞ」


 彼女は水も恐る恐る飲んだ。

 咳き込んでいる。


「大丈夫?」

「……」

 返事は無いけど、カレーを食べているので大丈夫みたいです。



 ご飯を食べ終えると数時間だけ馬車を走らせた。

 外が暗くなって来たので、ユニコーン達も食事にさせた。俺は大量の果物をアイテムボックスから取り出してあげる。それにポーションも飲ませた。


 彼等は夜も走ると言った。言った、というか目で訴えてくる。

 そこまで急ぐ旅じゃない。つーか急ぎすぎたら、用事を済ませて早く家に戻ってしまう。家に戻ったら仕事が待っている。仕事ダリィー。


「そんなに急ぐ旅じゃない。ゆっくりと寝て、明日にしようぜ」

「女の子を抱く時はティンポコをちゃんと洗えって? バカ、そんなことしねぇーよ」

 ユニコーンがバカなことを俺に伝えて来た。

 どこで覚えて来たのか、汚い言葉でいやらしいことを2匹のユニコーン達が言っている。


 魔物が近寄らないように結界を張って、俺はキャンピングカーに戻った。


 ユニコーンがバカなことを言ったから、なんか緊張する。

 ソファーの背もたれを倒してベッドにした。


「ベッドになるんだ」と俺が言う。

「……」

 彼女も緊張しているみたいで、乾いた唇をペロリと舐めた。

 それに目がキョロキョロと動いている。

「君はココで寝るといい」


 アイテムボックスから毛布を取り出す。

「夜は寒くなるから、コレを使いなさい」


 俺はアイテムボックスから寝袋を取り出し、床で寝ることにした。

 ランプも消してキャンピングカーの中が暗闇になった。

 ベッドの上からエルフの女の子が動く物音がした。

 もしココで俺が彼女を襲っても誰も咎める人はいないだろう。そもそも俺が所有している奴隷なのだ。

 何を考えてるんだよ俺。

 俺が奴隷を禁止してるんじゃんか。

 それに俺には妻と娘がいるのだ。


 2人は何をしているんだろうか? 日本に残した家族のことを常に俺は考えている。

 夜の闇は家族への思いを濃厚にさせる。

 息もできないほど胸が痛くなり、日本に帰りたいという気持ちが強くなっていく。

 


 次の日。

 森の中に入った。

 すぐにソイツの気配は感じた。

 強い魔物がこの森には住み着いている。

 エルフの女の子は下を向いてブルブルと小さく震えている。

 そう言えばドワーフのくせにハゲ散らかしたバランが言っていた。 

 エルフが住む森にはすげぇー大きなケンタウルスが住み着いている。

 アイツが言っていたことは本当だったのか? 






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 関連作品の『性奴隷を調教したのに』もお読みください。


https://kakuyomu.jp/works/16818093080618894373

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