米津玄師

イチ

ナンバーナイン(BOOTLEG)

 ザク、ザク——

 そいつが持っていた愛刀で、男は穴を掘る。

 最後の仲間が倒れたのだ。

 

 砂漠と化した世界。

 ここにはもう男しかいない。

 最後の仲間がたったいま倒れ、息をしなくなったのだから。

 


 ある日、叡智の群れが雲を掻き散らし、遥か彼方へ飛んでいった。

 突如、それから世界は日照りに直面した。

 残された人類はその中でも生きた。砂漠が徐々に世界を覆おうとも、仲間が倒れていこうとも。

 

 未来はあると、誰かが言った。

 未来はないと、誰かが返した。

 未来がないから、叡智の群れはここを抜け出していったのだと。

 残されたこの世界にはもう未来はないのだと。

 事実、それはそうだった。


 でも未来はある。

 未来はあると、そう、信じたいじゃないか。

 人々は馬鹿だと言われた。それでもかまわなかった。

 やがて馬鹿たちは、旅を始めた。



 男は、息をしなくなった仲間を穴に落とし、掘った砂を穴に戻す。

 仲間の愛した刀を思い切り突き刺し、墓標と見立てて目を閉じた。


「東京タワーだ。あそこに未来はきっとある」

 さっき、最後の仲間とそう話していたばかり。

 男は閉じた目の奥で、思い出をさかのぼった。

 


 仲間で旅をした。

 かつては大陸を隔てる海だった、いまは砂漠となった大地を渡って。

 長い長い旅だった。


 日中はとにかく乾く。貴重な水を我慢して、出来るだけ疲れないように歩き続ける。遠い未来でこの長く苦しい旅路が、人々の呼吸の奥底に大切に記憶として宿されるように。


 夜はとにかく冷える。焚火の近くで、みんな寄り添い合って眠る。たまに本物の馬鹿が現れる。焚火のリズムに鼓動を合わせて踊り始めれば、でもみんな眠るのなんてやめて朝まで歌って踊り散らかす。

 笑い散らかす。

 遠い未来でこの笑い声が、かつて絶望の中に希望を抱いて旅をした者たちがいた証として、人々の耳に美しく聞こえるように。

 


 長い長い弔いを終えて、男は立ち上がった。

 広大な砂漠にいくつもの墓標が、男たちの旅路として残っている。

 いくつもの墓標の上に立って、男は歩き出す。


 一歩、一歩。


 気が緩めば、いつでも倒れてしまう。

 しかし男は、絶対に倒れない。倒れるわけにはいかない。

 後ろにあるいくつもの墓標の上に立って、男は歩き続けるのだ。


 どうか、笑わないでくれ。

 過去に未来はある、そう信じて一緒に旅をした者たちを。


 そしてどうか、笑ってくれ。

 過去にこんな馬鹿たちが、未来へ希望を繋いだんだと。


 彼らの呼吸が、旅の思い出が、遠い未来で大きな愛に包まれ、

 恥ずかしいほど希望を信じて生きていた者たちの笑い声が、未来の平和な世に生きる人々の耳に、美しく聞こえるように。


 男は乾いた大地を一人、歩いて行く。

 たった一人でも。

 恥ずかしくらいに希望を持って。

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