ギャルゲーで序章が終わったらリアルで本編が始まりました。
綾瀬桂樹
1st Season
第1話 あの子との出会いは突然に
「ダウンロード終わってるな」
夏も本格的に稼働し始めた7月の後半。クーラーで冷え切った部屋で俺はパソコンの画面を食いつくような姿勢で見る。
パソコンの画面には『ダウンロード完了しました』と書かれた画面が表示されていた。
「よっしゃ! 夏休みも始まったことだし当分の間ここから動かないからな!」
パソコンデスクにある茶色のコースターの上に麦茶をたっぷり入れたタンブラーを置いてゲームを起動させる。
ちなみにダウンロードしたのは個人が作ったとされる無料で遊ぶことができるフリーの恋愛シミュレーションゲーム。
タイトルは『俺が付き合うのは悪魔っ娘』というタイトルで、人間に転生した悪魔と恋愛をするという、よくありそうな設定のゲームだ。
で、何で俺がこのゲームをやろうと思ったかというと、キャラの1人に一目惚れしたからという単純明快な理由。
そのキャラというのは『月城レヴィア』
海をイメージさせるような青いロングヘアーに深海を思わせるような藍色の瞳が特徴的で、主人公に献身的に寄り添うといった設定がまさに俺の好みドストライクだったのである。
アイコンをダブルクリックしてゲームを起動させるとすぐに3人の美少女が描かれたタイトル画面が表示される。正面には俺のお目当ての月城レヴィアがいる。
スタートをクリックすると、プレイヤー名の入力画面が表示される。
俺はこの作品に入り込みたかったので本名の『大神 奏真(おおがみ そうま)』を入力して勢いに乗せてEnterキーを叩く。
「こんにちわ、奏真さん」
ゲームが始まってしばらくするとお目当てのキャラクターである月城レヴィアが登場する。
「マジかよ、俺の名前呼んでくれたぞ!?」
名前入力の後に名前の呼ばれ方のボイスの調整があったのだが、思い通りな感じで呼んでくれることにニヤけているのが自分でもわかってしまうほどだ。
「奏真、早くしないと学校に遅刻しちゃうよ〜!」
「君、かわいいわね、よかったらお姉さんの相手してくれないかな」
ゲームを進めていくうちに、他のキャラクターも登場して主人公である俺に絡んできたりするが、そっちには見向きもせずレヴィアとのふれあいを楽しんでいった。
「奏真さんはわたしとどんな関係になりたいですか?」
時間を忘れてゲームを進めていくと、ゲーム内でレヴィアが主人公に対して問いかけてきた。
この後、選択肢でもあるのかなと思ったが、画面に表示されたのは
『レヴィアへの返答を入力してください』
というテキストの下には入力フォームが表示されていた。
「マジで……!?」
思いがけない事態に俺は一瞬頭が真っ白になる。
「レヴィアとどんな関係になりたいかって、そうだなあ……」
どうせゲームだからセーブして色々試してみようかと思ったが、ここである重要なことに気づく。
「1回もセーブしてなかった……」
物語やレヴィアとのやりとりに夢中になりすぎてここまでセーブをしていなかった。
しかもこの入力画面ではセーブがすることができない。最初からやり直せばいいだけの話だが、もう一度やってここまで来れる自信もなく、次やってレヴィアにフラれでもしたら、ガチでヘコんで大事な夏休みを無駄に過ごしそうな気がしていた。
「やり直しなど邪道! この1回に全身全霊を込める!」
画面に映るレヴィアには聞こえるはずもない奇声に近い大声を上げながらカタカタとキーボードを興奮気味に叩き、テキストを入力していく。
何度もチェックを行い、震えた右手でEnterキーをゆっくりと叩く。
「よかった、私も同じことをおもっていたんですよ」
画面に映るレヴィアは頬を赤く染めながらもニッコリとした笑顔になり
こう答えていた。
「これからも一緒にいてくださいね、奏真さん」
レヴィアはこちらに向けていた。おそらく主人公の手を掴んでいるんだろうと妄想する。
その後は、壮大なBGMと共に画面が徐々に真っ白になり
『このあとも引き続き、彼女と共に過ごす日々をお楽しみください』
というテキストが表示された。
一瞬エンディングかと思ったが、どうやらまだ続きがあることに安堵し
自分が入力したテキストが間違ってなかったことに小さくガッツポーズをする。
「さすがに疲れたし、続きをする前に色々と済ませるか」
ゲームを始めた時は雲ひとつない夏空が広がっていたが、今はもう当たりは真っ暗になっていた。
「で、いつになったら続きが始まるんだ?」
セーブをしてなかったため画面をつけっぱなしにした状態で、夕飯と風呂など必要なことを済ませる。
そしてパソコンの前に戻り、マウスで何度も画面をクリックしていくが始まる気配が全く感じられなかった。
「このパソコン、スペック低いから時間かかるのかもな」
と、ポジティブに考えること数時間。
「——っていつになったら始まるんだよ!!」
壊れたロボットのように何度も画面をマウスでクリックを続けてたが
画面が変わる気配は微塵もない。
「もしかして、本編作られてないのか……」
フリーゲームにあることだが、完成していない状態でアップロードする製作者も少なくはない。体験版的な感じでアップしてユーザーの反応を見るとか、そもそも途中で力尽きたとか、やる気が失せたとか、理由はそれぞれ。
これ以外にもフリーゲームをダウンロードして遊んでいたが、そんな感じのゲームも今回が初めてではないので、ある程度覚悟していたが……。
「こんだけクオリティ高いなら最後まで作ってからうpってくれよー!」
欲望だらけの叫びをあげながらゲームを終了させる。
「なんかいっきに疲れがでたから寝よう……」
部屋の時計を見るともうすぐ日付が変わりそうな時間だった。
パソコンをシャットダウンさせて、すぐ後ろにあるベッドに倒れ込んだ。
ほぼ丸1日パソコンの画面を見ていたせいか、目を瞑った途端、眠気が一気に押し寄せてきた。
ピンポーン!
部屋の中に聞き覚えのある電子音で俺は目を覚ます。
寝る前にエアコンを消していたためか、部屋は熱気がこもっており
自分の体にかけていた薄手の布団があらぬ方向に飛ばされていた。
誰だこんなことをしたのは!?
など、問わなくても犯人は俺なんだが。正確に言えば寝ている時の俺
原因は暑かったから。
そんなどうしようもないことを考えていると再度、部屋中にインターフォンが鳴りだした。
慌てて体を起こして台所にあるドアホンのカメラモードをオンにする。
ドアホンの液晶に玄関付近が映し出されるが、そこには誰も映ってはいなかった。
応答するのが遅かったから帰ってしまったのかもしれない。
そう思い、ドアホンをオフにしようとした途端、声が聞こえてきた。
「やっぱり、朝早かったからまだ寝てるかな……夏休みだし」
声がすると同時にドアホンに来訪者の姿が映し出される。
「え……!?」
液晶に映った姿を見て、俺は画面を食いつくように見ていた。
「なんで……!?」
俺はすぐに玄関に向かい、急いでドアを開ける。
「ひゃ!? え、えっと……おはようございます!」
急にドアが開いたことにビックリしたのか、来訪者は目をまんまるに開いて驚いていた。
「……え、あ……おはよう……ございます」
戸惑いながらも挨拶を返す俺。
「朝早くに失礼いたします。 私、隣に引っ越してきました——」
来訪者は直角に近い角度まで頭を下げると、すぐに顔を上げる。
「——月城レヴィアっていいます」
俺の目の前に映る来訪者は昨日プレイしたゲームでに登場してきた
月城レヴィアに名前どころか、姿形がそっくりの女性だった。
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【あとがき】
前作を読んでいただいた皆様、お疲れ様です
今作からの皆様、はじめまして!
綾瀬桂樹です。
『ギャルゲーにて序章が終わったらリアルで続きが始まりました。』
をお読み頂き、誠にありがとうございます!
のんびり配信になります今作も皆様に楽しんでいただけるように
書いていきますのでどうぞ、宜しくお願いいたします。
次回は9/10(土)に投稿予定です
お楽しみに!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
読者の皆様に作者から大切なお願いです。
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