台風が骸骨が綺麗な殺戮が舞っている

はちみつプログラム

肉はお断り

 おったまげたもんだ。

 吹き荒れる風に家が揺れ、雨が窓を打ち付ける音に思わず俺は目を擦って起き上がる。

 窓の外を眺めてみりゃ、蔵の瓦が馬鹿みたいに吹き飛ばされやがる。

 昨日の天気予報で言っていた台風八号がやって来たのだ。

 太く深くに根が張った木々が、農家の収穫のように引っこ抜かれそうになっている。車はイタズラに横転して、まるでおもちゃを蹴ってるみてぇだ。

 おっかしくみえたばっかりに、眠気が消えて笑いながら眺めていたが、目の前の窓ガラスが鈍い音を立てて蜘蛛の巣状に白いヒビがはしって、思わず、ぶるりと体を震えた俺は、何が当たったのか僅かに食い込んだそれを見に行けば。

 そこには、真っ赤に染まった頭骸骨が窓に歯を突き立てていた。

 俺は頭が真っ白になり、手が震えた。

 空が巻いた台風は次々と全てを飲み込んでいく。それも森や畑、家にビルなんてあっさりで、中には歴史的建造物やなんやらと、ところ構わず横断する。土煙を纏わせ、様々なものを運びこむが、よく目を凝らしてみれば、肉一つついてない大量の真っ白な骨が列をなして浮いてやがるではないか。

 その時は俺は、初めて涙を流した。

 怖くて泣いたんじゃねぇ。あまりの美しさに、初めて「感動」から涙が出たんだよ。

 頭蓋骨が、肋骨が、骨盤が、どこか部位のまっすぐとした骨が、バラバラになりながらも規則的に螺旋状を描きながら巻き上がる姿は、天に在られる極楽浄土に、天女に手をそっと引かれて連れてかれてはお祭り道中、騒げや宴に舞い踊っているように、雲の上に辿り着けばそこには仏がおわすような神秘を感じた。

 なぜこんなにことが起きているのか、台風が通った後には墓場があり、そこから運びだされたようだと、俺は確証もないままそう結論づけた。

 しかしだ、あれだ、なんというか俺は、これを見て、とても興奮していた。

 人が死ねば最後は、骸となって消え去るのみだ。これまで積み上げたものが、火葬されて骨が砕かれ粉末となって骨壷に収められ、挙句には土の中で埋められる始末だろう。

 だが目の前のあの光景はどうだ?

 長い時を暗闇の中、土と墓に縛られて、お経で成仏できたかも透明な肉体で理解できるかわからないまま、永遠をそこで過ごすと思っていた。だが! 仏は彼らを許し、風となり下界に現れて土の中から救って見せたではないか!

 俺は寝巻きのまま外へ出た。

 外の異変に気がついた妻や子ども、父母など家族が俺を呼び止めようと必死に叫ぶが、俺は振り返ることなく、この暴風のなかを走り続けた。

 心の中で家族らに謝るが、一生のお願いだ。

 行かせてくれ!


 俺は土の中で、墓の下で死後を送る気なんてない。

 あの慈悲に溢れた綺麗な殺戮の渦に呑まれ、祭りの行列に並んで風に踊らされながら宴をして、如何なる人生を送ってきたかを語り合いながら死んで行きたいのだ。


 まもなく、台風の進行方向前に辿り着いた。

 成人から少し年を重ねた体が、ひっぱられ、時々宙に浮かされては落ち、浮かされては落ちと、いよいよ本格てきに死が近づいて来やがった。


 さぁ、来い!

 台風よ!

 俺を極楽浄土まで連れてってくれ!

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台風が骸骨が綺麗な殺戮が舞っている はちみつプログラム @dorolin

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