黒ローブの男は魔法使い


 どうやら目の前の人物はカゾーリア王国のキーマンだ。

 顔も名前も分からない。黒いローブでなんも分からない。

 ・・・すごい胡散臭い。

 敵地で単独行動する豪胆さ。

 理屈じゃなく・・そう思う。


 ちょっとどころか・・全く普通の人間じゃない。

 

 グリフォンでここに来るという手段が既におかしいし。なぜボク達を発見できたかも不明だ。

 

 色々突っ込みどころはある。・・ある点はボクも人の事言えないらしい。・・なんで?・・よくわかんないよ。

 ともかく敵に気づかれてしまったのだ。当然のように皆殺しにしようとしている。捕虜という感覚は無いのもおかしい。

 殺すと言われて、分かりましたと普通は言わないよね。だけど実力も分からない相手に戦う程愚かではないつもり。

 だから逃げるのだ。


 ・・けど。

 ・・けれども。

 今回の一方的な慈悲なき戦争を仕掛けた一人が確実に目の前にいる。黒ローブの人間だ。

 カゾーリア王国の背景に何かあるかは知らない。大変な国情だというのは少しは知っている。だけど他国を攻める理由にしちゃいけない。


 この人間がボク達の国の兵を沢山殺した。敵軍の指揮を取った。これからもこの人間の指揮で敵軍はボク達の国の人を殺すだろう。

 兵士以外の民間人も殺すだろう。領都の包囲はその意思表示でもあると思う。


 ここで止めないといけない。

 話し合いで解決という手段が先だという事も重々分かっている。


 ・・でも。

 ・・・・でも、ダメだ。


 この人間には話し合いの余地は無い。断言できる。


 ここで殺さないといけない。この衝動が止められない。

 これは私怨だと思う。でも、ここで敵軍を止めないと・・死が増えてしまう。


 

 黒ローブの人間は最初から殺すと言っている。それ以降無駄口は開いていない。行動で殺意を示すつもりなのだろう。

 グリフォンを控えさせ無造作に詰めてくる。向こうはボク達を殺すだけが目的だ。

 でも、なんで近づいてくるんだ?

 魔法使いだと思っていたんだけど。近接戦闘タイプなんだろうか。片手に白い槍のようなモノを持っている。・・と、いうか骨のデザインか?・・・きもい。

 想像するに・・ネクロマンサーなんだろう。ボクの魔法の知識が不足しているだけかもしれないけど、この世界にそんな能力の魔法使いはいない。一体何者なんだ?

 

 ボクが動く前にジャスティンが前に出る。止めようと思ったのだけど間に合わなかった。・・意外と血の気が多いんだよな。

 気合と共に振り下ろされるジャスティンの剣を相手は簡単に受け止める。まるでボクがジェフに打ち込んだ時のように楽々とだ。ジャスティンの反応を見るに相当驚いているようだ。

 黒ローブは乱暴に槍を動かすと堪えられないジャスティンは横に飛ばされる。なんて腕力だ。


 背後の兵達が前に出ようとするのをボクは手で制する。ジャスティンがアレなら君達では無理だよ。ボクでもどうかとは思うけど。

 さっきの手合わせを思い出し、黒ローブの人間を観察する。


 ジャスティンとの攻防で黒ローブが一瞬めくれた。そこで、おおよその体つきが分かった。・・細身だけど男だ。身長はこの世界の平均より低いか。筋肉はついていない。槍の一振りしか見ていないけど武術を修めた感じも無い。

 何らかの自信の根拠があるんだろうな。訓練した剣士を凌駕する何かがあるんだ。・・判断材料は足りない。


 試してみるしかない・・。

 ボクは腰の剣を抜いて走り出す。

 黒ローブの男に打ち込む。ジャスティンをあしらって余裕を見せているのだから、まだ舐めているかもしれないと思うからだ。



 剣を交える事数合。

 ボクの攻撃はとても簡単に防がれた。ジャスティンより簡単のようだ。一応ボクも全力では無い・・けど。あしらわれている感じだ。

 相手の横払いの槍を躱す。やはり攻撃は鋭くない。その勢いのままジャスティンの近くに移動する。

 ジャスティンは心得ていたようでボクの前に出る。・・確認してみよう。


「どう思う?」

「槍の扱いは素人かと。何故かこちらの攻撃は止められます。防御特化かとは思いました。ですが隊長との攻防を見る限り違うかと思います」

「同感だね。確証はないけど、あの槍に秘密があるのかもしれない」

「成程。では同時にかかかっていきましょうか?」


 ジャスティンの提案にボクは無言で頷く。黒ローブの男は依然と槍を左手に持ったままだ。やはり無造作に近づいてくる。


「某は右からいきます。隊長は左からお願いします」


 小声で囁くなりジャスティンは動き出す。ボクはジャスティンの背後をついていく。そこから左に動いて攻撃をしかける。


 ジャスティンは突きを選択する。突きを払うには相当な練度が必要だ。ジャスティンも黒ローブの男の武術は素人と判断したのかもしれない。

 すぐにボクは左にステップする。ジャスティンとの身長差もあるからボクの動きを確認するのは難しいと思う。


 ジャスティンの突きは信じられない方法で防がれる。槍の柄で受け止めたんだ。滑らずにしっかりと。・・あんな柄で受け止めるなんて。

 瞬間の思考をたたま動く、素早く足を払うように剣を横なぎする。


 が、今度は槍の穂先で防がれる。背後でジャスティンが転がる音がする。槍で吹き飛ばしてから防いだという事?

 上を見上げると視線はボクを見ていないように感じる。

 


「無駄だぁ!」


 あぶな!

 ボクを全く見ていない攻撃は予測が難しい。槍の振り回し攻撃を辛うじて躱してボクは後退する。強引もいいところだ。


 やはり・・あの槍か・・もしくは左腕の装具に強さの秘密がありそうだ。


 ・・厄介すぎる。


「問答無用に俺を殺しに来たのは良い判断だと褒めてやろうぅ。だが甘めぇ。小細工なんかぁ俺には効かねぇ。あきらめな」


 途端に黒ローブの男から何かが放出される。

 嫌な予感がする。とっさにボクは魔力制御で体を覆う。・・何かまずい。


 何かに包まれたような感覚した瞬間・・。身体が脱力するような倦怠感がくる。立ってられない程だ。

 ・・なんだ・・?

 思考まで鈍くなる。・・耐えろ。


 変な感触が無くなった時には黒ローブの男の高笑いが聞こえてくる。

 近くのジャスティンに目を向けると・・・白目をむいて気絶しているようだ。

 背後にいる兵達もみんな倒れている。結構離れているのにあそこまで届いたのか。


 これは一体どういう・・魔法なんだ?


 黒ローブの男の高笑いが煩わしい。ひとしきり笑った後、ボクに言ってくる。


「おいおい。そこのガキ。お前にぃ・・なんでエナジードレインが効かねぇんだ?」


 え?

 ・・・とんでもないモノ使ってきたぞ。ボクは子供だから有効じゃなかったのだろうか。どっちにしても今動けるのはボクだけだ。


 ・・・黒ローブの男。・・・とんでもないヤツだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る