千秋と誠
「楓ちゃん、会わせてあげて下さい!俺は、それを止めるつもりはありませんから」
「ありがとうございます」
「いえ、どんな子ですか?」
俺は、スマホで写真を見せる。
「似てますね!俺に」
「ハハハ、遺伝子って凄いですね」
「確かにそうですね!でも、お母さんはきっとわかってくれますよ」
「だといいんですがね」
「大丈夫ですよ」
そう言って、誠さんは笑った。
「では、また会いましょう」
「はい、さようなら」
俺は、田辺誠とお別れした。次の日から、どうやって服部の家に手紙を書くかを考えていた。楓が一歳になるまでには、どうしても会わせてあげたかった。
「パパー」
「はい」
「せつなね!今日ね、保育園でね!おうた歌ったの」
「おお!聞かせて」
「じゃあ、いくよ!さんはい」
雪那の歌ってるのを聞いていた。そっか!俺らしく手紙を書けばいいんだ。磯部千秋として、手紙を…。
俺は、ありったけの想いを込めて手紙を書いた。二ヶ月が経って、返事がやってきた。
【田辺誠様】
【麦茶とアップルパイを用意してお待ちしております】とだけ書かれていた。
俺は、葵を連れて行った!俺の母親も葵の両親も、凄く喜んでくれた。
そして、また、田辺誠にも会った!あの頃より、さらに幸せそうだった。
俺は、あれからさらに幸せな日々を送っている。葵は、磯部だった事も両親の事もすっかり忘れているけれど…。俺が、覚えているから!
「パパー!ばぁばとじぃじがね!ランドセル選びに行こうって」
「えっ?」
「ごめんね!服部さんからハガキが来てたのを雪那が勝手に見ちゃったの」
「ちょっと見せて」
俺は、葵からハガキを受け取って見つめる。
【千秋君から聞きました!雪那ちゃんと言う女の子が、来年小学生になる事を…。千秋君のお母さんともお話しました。どうか、私達三人がランドセルを買ってあげる事を許していただけませんか?千秋君は、田辺の家とお付き合いして欲しいと言ってくれています。田辺誠さん、駄目でしょうか?】
俺は、ハガキの内容に涙を流していた。磯部千秋は、俺と入れ替わった事を葵の両親と俺の母親に言ったのがわかった。それは、磯部千秋の良心と子を思う父としての気持ちだったのがわかる。
「勝手に、お爺ちゃんとお婆ちゃんだと思ちゃってるの雪那。どうしようか?誠」
「行こうか!連絡してみるから」
「いいのかな?知らない人に…」
「いいんだ!大丈夫だから」
俺は、そう言って葵に笑いかける。葵は、困った顔をしながらも「甘えさせてもらおうかな」って笑った。田辺葵と磯部葵は、元に戻れない。だから、俺と誠さんが入れ替わった。でも俺は、この選択でよかったと思っている。やっぱり俺は、中身が葵の方が嬉しいから!
「パパー」
「何?」
「アイス食べたい」
「ママに聞いてOKでたらね」
「わかった」
俺は、この家族を一生守っていく。
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