幸せにしてあげて欲しい
田辺さんは、涙を拭いながら俺を見つめる。
「もしも、本当に入れ替われたなら…」
「はい」
「雪那と恭介を幸せにしてあげて欲しい。お願いします」
田辺さんは、俺に深々と頭を下げる。
「頭をあげてください。きちんと田辺さんの家族を幸せにしますから…。俺からもお願いがあります」
「何ですか?」
「俺の母さんの事と葵の両親の事を頼めますか?」
「わかりました」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺と田辺さんは、深々と頭を下げ合った。
お互いの話をする。葵のお父さんが好きな唐揚げの作り方も教えた。調味料は、目分量だけど、だいたいこの量ならいけるであろう目安を書いておく。
「記憶は、なくなるんでしょうか?」
「わかりません」
「そうですよね」
「ですが、なくなった時の為に覚えておきましょう」
「はい!わかりました」
俺と田辺さんは、お互いの事をハードカバーのノートに書き記した。もちろん、お互いの両親の事も、妻の事もだ!
「はい、千秋さん」
「ありがとうございます。誠さんもこれどうぞ」
「ありがとうございます」
「では、またその日にちが決まりましたら!連絡しますね」
「わかりました」
そして、俺達は彼女に会って入れ替えてもらったのだ。ただ、俺達は両親の事、妻の事、お互いの事を忘れなかった。
「田辺誠には、慣れましたか?」
両親に会いに行きたいと楓が産まれてから俺は、強く思っていた。そして、久しぶりに中身の田辺誠に会っていたのだ。
「だいぶ、慣れましたよ」
「膝、痛くないですか?」
「まあ、痛いですけど…。我慢できない程ではないです」
「千秋さんは、凄いですね。俺なんかと違って」
「そんな事ないですよ!誠さんも、よく頑張ってるじゃないですか!磯部千秋には、慣れましたか?」
「はい!千秋さんの
「俺は、今、清掃の仕事をしていますよ!体を動かすのも楽しいです」
田辺誠は、俺を見つめて笑う。
「千秋さんと奥さんが貯金を残してくれていたお陰で、心に余裕が生まれました。俺は、今、本当に幸せです!ありがとうございます」
「いえ、全然!いいんですよ!そんなお金じゃ足りないぐらいのものを俺は、誠さんから奪ってしまいましたから」
「そんなの同じですよ!俺だって!千秋さんのお母さんは、凄く優しくて!俺、めちゃくちゃ幸せですよ!幼い頃から、こんな人生なんだーって諦めていたから」
そう言って、笑う田辺誠はあの日出会った田辺誠ではなかった。人は、変わるんだ!人生が丸ごと変われば、変われるんだ。
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