探す日々

それから俺は、暫く磯部葵の肉体からだと田辺葵と会う日々を繰り返しながら、どうにか出来る方法がないかを探していた。

そんなある日だった。


「噂話だって」


病院で、女子高生が何かを話していた。


「あの橋の欄干で、死のうとしたらお婆さんが現れるんでしょ?」


「そうそう」


「もう、何回も聞いたから!美奈子」


俺は、女子高生達に近づいた。


「あの」


「な、何ですか?」


「その話を詳しく教えてもらえませんか?」


女子高生達は、俺に嫌なそうな顔を一瞬向けたけれど、すぐに笑ってくれた。


「お婆さんの話?」


「はい、それです」


「いいよー、じゃあ座って」


そう言って、女の子の隣に座った。


「朝の、4時44分44秒に死のうとしたらお婆さんが現れて!死ぬのを止められるの」


「はい」


「それで、お婆さんは小さな人形の腕を渡してくるの」


「はい」


「その腕を握りしめながら、なりたい人生を思い続けるの」


「はい」


「そしたら、その人生を持っている人と入れ替わるって話」


「だから、都市伝説みたいな話でしょ?美奈子」


「嘘って事なのかな?」


美奈子と呼ばれる女の子は、首を横に振った。


「嘘じゃないよ!友達のお姉ちゃんが、急に別人みたいになったんだから」


「そうなの?」


「うん!だから、きっと本当だよ」


そう言って、笑った。


「ありがとう、参考にするよ」


「うん」


「あっ!これ、話してくれたお礼にジュースでも飲んで」


俺は、二千円を渡した。


「いいのに」


「いや、ありがとう」


そう言って、深々と頭を下げて彼女達とお別れをした。


橋の欄干か…。


俺は、病院を出た。

どうしたら、田辺葵の傍にいれるのだろうかとずっと考えていた。暫く、車を走らせてある場所で停める。


「こんにちは」


「こんにちは」


俺は、田辺さんに会いに来ていた。


「何か用ですか?磯部さん」


「少しだけ話せますか?」


「いいですけど…」


俺は、田辺さんを車に乗せる。暫く、車を走らせて家に連れてきた。


「自慢ですか?」


「そんなつもりじゃありません」


「じゃあ、何だよ」


「外で、出来ない話なので」


「わかったよ」


そう言って俺は、田辺さんを家にあげる。


「そこに座って下さい。珈琲いれますんで」


「はい」


田辺さんは、ダイニングテーブルの椅子をひいて腰かけた。俺は、珈琲をいれて持っていく。向かい合わせに座る。


「何ですか?」


「頭がおかしいと思われていいので、聞いて下さい」


「何?」


「私の妻は、今、田辺葵なんです」


そう言うと、田辺さんはイカれてんのか?って顔をして俺を見つめている。

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