彼と彼の話

信じた理由

俺は、田辺さんに耳元でこう言われる。


「左胸の乳首の下にあるホクロが大好きです」


「えっ!何で?それを…」


俺は、驚いて田辺さんを見つめていた。


「何ででしょうか?」


そう言った後、田辺さんは笑いながらこう言った。


「あなたは、優しいキスが好き!それと、甘辛い牛肉巻きが好きで!アップルパイが好きな私達は、アップルパイの日の5月13日に結婚した」


その言葉に、俺は驚いた。


「それって!信じられない。えっ?そんな事あるはずない」


「じゃあ、これは?」


そう言って、田辺さんはズボンの腰の線を撫でる。


「あ、葵なのか?じゃあ、あっちのは?」


「ねぇー、千秋」


そう言って、田辺さんは「私の貯金通帳を持ってきてくれない?」と呟いた。信じるしかなかった。


「わかった!何とかするよ」


「それとね…」


田辺さんは、俺の耳元で「千秋の赤ちゃんが欲しいから抱いて」と言った。


「それは、無理だよ!そんな事出来るわけないだろ?」


「どうして?中身は私よ」


「そんな事、関係ないよ」


わかってる。中身は、葵の事ぐらい。だけど、肉体からだはあっちなのだ。


「じゃあさ………」


戸惑う俺に葵は、「精子だけちょうだい」と言った。


「わかった!それなら、協力するよ」


「本当に?」


「うん」


「約束よ!千秋」


「うん」


俺は、葵に約束した。それなら、裏切りにならない気がしたからだ!葵は、その後こう言った!


「そのかわりね!」


「私の肉体からだを愛してあげて欲しいの。これから先も、ずっと…」


「そ、それは…」


「じゃないと、ねっ?わかるでしょ?」


「わかった!約束する」


そう言いながらも、複雑だった。俺は、磯部葵の肉体からだだけを愛せる自信がなかった。


15年の歳月を重ねてきたのは、間違いなく目の前にいる田辺葵さんの中にいる人なのだ。


母乳を買ってくれと言われて、驚いていた。そんな事をしなければ生きれない程、生活が苦しいのか?


俺は、葵を幸せにしたい。


その為に、ずっと生きてきた。なのに、母乳を売って生計をたてているなんて…


俺は、田辺葵であろうが葵を幸せにしたいと思った。


ただ、どうして葵がこうなったのかがよく理解できていなかった。


次の日、葵と家に帰ると気持ちを押さえる事が出来なかった。見た目は、葵ではないけれど中身は完全に葵なのだ。そう思っただけでもう止められなくて…。気づくと、田辺葵を抱いていた。ただ、やはり肉体からだの繋がりで言えば磯部葵との交わりの方が、正直よかった。それは、きっと葵も感じたかもしれない。

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