第30話 失恋同盟 (最終話)
「はあ……」
昼休み。
学校の談話室で椅子に座った俺は、おおきくため息をついた。
意中の女の子に告白したのだが、他に好きな人がいると断られてしまったのだ。
外はあいにくと雨が降りはじめて、見ていると涙を流したくなってくる。
いままでも何回か告白はしてきたが、すべて空振り。
いったい何がいけないのか、さっぱりわからない。
「はあ……」
ん?
俺の声じゃない。
同じようなため息が聞こえた。
隣の席からだ。
腕をたたみ、肘をつっかえ棒にして手の甲を額に押し当てている。
表情をうかがい知ることはできない。
が、綺麗な黒髪や、どこか丸みのある体格からして女の子だろう。
「……」
彼女にも何かあったのだろうか。
じーっと見ていると。
「なにか?」
俺を怪しんでいるっぽい表情で話しかけられた。
実際じろじろと自分を見てくるやつがいたら、変な目をするものだが、傷心の最中にそんなことをされると、ショックがさらにでかい……。
「いや、何かあったのかなあ、と」
俺が言った。
「あなたこそなにかあったのでは? ひどく落ち込んでいるようでしたが」
見られていたらしい。
まあ俺は周囲の目を気にしていられるほど余裕なかったからね。
女の子のため息に気づけたのは、まるで自分のため息だったかのように感じたからだし。
ここでとぼけるのは簡単だが、せっかくまた女の子と話す機会ができたのだ。彼女との会話を楽しむのもいいだろう。ということで、俺は失恋したことを話した。恋の話ほど女の子が好きなものもないはずだ。勝手に想像する。
「はあ、失恋なされたのですか」
「そうなんだよ、玉砕しちまったぜ」
「無理して明るく振る舞わなくてもいいですよ」
「あ、わかる?」
「ええ、声が震えていますし」
どうやら俺は感情が言動に出やすいらしい。
彼女にすぐ看破されてしまった。
俺はしょんぼりとした通常モードに戻って続けた。
「告白ってどうやったら成功するんだろうなあ……」
「そんなのわたしが知りたいですよ」
「え、なんで?」
「まだ言ってませんでしたね。わたしも告白して断られてここに来たんです」
「学校の談話室は駆け込み寺か何かか……」
彼女は遠い目になり。
「まあ、そんなところでしょうねえ……」
と言った……やや沈黙があり。
「わたしって可愛いほうですよね?」
なんて彼女は聞いてくる。
「自分で自分のことを可愛いって主張する女の子はちょっとなあ……」
「そうなんですか!?」
俺が素直な感想を述べると、彼女は席から立った。
どうやら驚いたようだ。
上から見下ろされる形で会話を続ける。
「自画自賛する女の子って痛いというか、友だちまでならいいんだけど付き合ったら面倒なことになりそうかなって」
「う、ううう、そうだったんですね……」
「というか、ご友人に指摘されたりしなかったんですか?」
「自分を可愛いと言い切る度胸を見せれば、男子は振り向いてくれるの!」
「それで上手くいった試しは?」
俺が強めに聞いてみると、彼女は釣り上げられたタコと化したような足で、ふにゃふにゃと力なく椅子にふたたび納まった。
その様子を見て、俺はぼやく。
「何か上手くいく方法を知る人がいればいいんですけどねえ……」
「わたしのことばかり言っているけれどあなたこそどうなの? 友人からアドバイスをもらったりしていないの?」
「外堀から埋めろとかわけわかんないことは言われましたけどね。男はやっぱり正面突破ですよ! 校舎裏に呼び出して、好きですと伝える! これぞ最強!」
おれは力説しながら、がばっと立ち上がった。
「でもその最強が上手くいったことはない、と」
「……」
彼女に冷静なことこの上ない指摘を受けて、俺もしおしおと着席した。
「ねえ……」
彼女がぽつりとつぶやく。
「わたしたちって、ひょっとして似たもの同士なんじゃないかしら?」
「……言われてみれば、でもさ」
「でも?」
「俺、きみにちっともドキドキしないんだよなあ」
「むかつく発言ありがとう。わたしもあなたにまったくトキメかないの」
不思議だなあ、と俺は小声で言う。
そうね、と彼女は続く。
そして、顎に手を乗せて考える仕草をすると、一言。
「同盟を組んでみるのはどうかしら?」
「ど、同盟?」
なにやら聞き慣れない単語がでてきた。
「志を同じくするわたしたちで協力して、異性の落とし方を研究して教え合うの」
「……いい考えかもしれない。少なくとも何もしないよりは」
「でしょう!?」
彼女は俺の両手を、自分の手で包み込もうとした。
が、さすがに高校生の男子と女子。ふたりとも一般的な身長と体格のため、完全に覆うことはできなかったようだ。
それにしても……。
思考さえ普通なら、西洋人形に魂が宿ったような彫りの深い顔立ちをしているし、モテてもおかしくないのに残念なやつだ、と俺は思った。思っただけで決して口には出さないが。
「それにしてもあなたって残念なハンサムさんね。整った顔をしているのに、告白のやり方が間違っているから変人と勘違いされているのね、きっと」
おおきなお世話だ……。
俺たちは互いに似ている。が、決して恋愛対象として見ないことは確かだろう。
だが、よき隣人を得たことは事実。ぷりぷりしていた顔を見合わせると笑い合ってしまったのだった。
いつの間にか雨は上がり、雲の間から陽光が談話室に差し込んできている……。
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