第8話 名推理
俺は高校生で探偵をしている者だ。
警視庁にも一目を置かれ、捜査に協力だってしている。
……と、いうのは嘘で、単に真似事をしていただけ。
今では珍しいものに目がない男子といったところ。
ある日、俺のクラスに転校生がやってきた。
黒い長髪に、平均的な体格の、いたって特別感のない女子だ。
席は俺の隣。
窓際で隅っこの奥だった。
話しかけやすさから言えば、背中を見せている前方の男子よりも、隣の俺だろう。
「よろしくお願いしますね」
やわらかな表情で、彼女は挨拶をしてきた。
「くっくっく……きみが普通の人間ならよろしくやってやろう……」
俺は適当なことをほざく。
普通じゃない人間……つまり異常な人間だ!
そんなやつがいるなら会ってみたいものである。
異能が事件に関わっているとなれば、俺の今までの常識は吹き飛ぶ。
そうなったら、愉快だ。
と。
俺の妄言に、彼女はうろたえている……。
声を震わせて。
「え、ええ? わたしはとっても普通の人間ですよ?」
ん、怪しいぞぉ。
俺は興味半分で彼女をもう少し探ってみることにした。
「宇宙人か」
「ちがいます」
「なら未来人」
「なんですかそれ」
「魔術師?」
「最近見かけませんね、……あっ」
近いのか?
魔術師に近そうな普通じゃない人間……それはずばり!
「超能力者」
「……」
無言。
当たってしまったか?
さすが俺。
こんな調子で人を探ったりするもんだから、友だちもいないだけはある。
うざいもんね。でも、好奇心は止められないんだ。
それにしてもマジで? マジで超能力者?
彼女は困ったような顔で。
「内密にお願いします。代わりに私のできる範囲でなんでもしますので」
「じゃあ超能……っと失礼。力を見せてくれ」
ここで『おまえのすべてを俺によこせ』なんて言うほど俺は鬼畜ではない。
そんなことよりも、本物の超能力とやらを見てみたい。
「――――ということを考えていましたね?」
「一言一句、合ってるぞ……なぜ俺の考えがわかった?」
「思考を読んだだけです」
「ほ、他にもできることはあるのか?」
彼女は俺の机に視線を落とし。
「教科書はちゃんと持って帰って勉強しないと受験で困りますよ?」
「透視か?」
「はい」
「うむむ……ほしい」
「え?」
「あ、いや。探偵に憧れていた時期があってさ」
彼女は少し困ったような顔をして。
「悪用するようなら縁を切ってまた転校しますからね」
「昔の話だってば……」
「前の学校でもあなたのようにわたしの異能を見抜いた人がいたんです」
「ほう、そいつとは友だちになれそうだな……」
「やめてください。わたしを利用するような人とは付き合いませんよ?」
「あー、すまんすまん。そんなことしないって!」
本当に? と彼女は疑惑の目で俺を見つめ、ため息をひとつ。
俺は担任の先生に見つからないよう、床を這うように腕を伸ばし、握手を求める。
マシュマロに似た感触がついてきた。
「こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
こうして俺は超能力者の女子高生と知り合いになった。
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