記念碑の七不思議

第7話 墓石(はかいし)

 その記念碑は、あまり児童の通らない正門の側にあった。昔は別の場所にあったこの小学校が、移設された際に置かれたものらしい。記念碑には学校名と移設した日付が刻まれている。


「墓石…っぽいっちゃぽいけどね…。」


ここの七不思議を担当するクラス委員の愛花(まなか)は腕を組んだ。


「だから何って話だよな。どうすりゃいいんだ。」


元季(げんき)がみんなの疑問を代表する言葉を遠慮なく言う。この七不思議は「校庭の学校名が刻まれた石碑は、実はお墓である」という文言のみで、特になにか不思議なことが起こるというものだはないのだ。来てみたはいいものの、何をすればよいのかわからない。


「掘り返す?」

「もしお墓なら骨が出てくるって?」


祥一(しょういち)のとんでもない言葉に玲奈(れいな)が冷静に付け足しをする。


「えええ…それってちょっと嫌かも…。」


困り顔の咲良(さくら)に加勢するように、愛花は激しく頷いた。


「最悪そうするかもしれないけど…少し周りを調べてみようよ。そういう七不思議になった根拠というか原因が、見つかるかもしれない。」

「確かに。まずはそっちの方が良いね。」


玲奈が愛花の意見に賛成してくれたので、咲良は安心した。このやけに静かな学校で墓荒らしなんて、ゾッとしない。


咲良は石碑の裏側や近くの茂みや松の木などを見てみたが、特に怪談につながりそうなものはなかった。


「うおっ!!」


少し離れた場所を調べていた元季が驚きの声を上げた。慌てて4人はそれぞれ調べていた場所から元季の元へ駆けて行った。耳に届いた元季の声には恐怖の色が伺えた。咲良は自分の手が震えていることに気付いた。


尻餅をついている元季の前には沈んだ表情の男の子が立っていた。祥一がそれを見て大声を上げた。


「幽霊!?」


ほぼ同時に集まった四人は元季を助け起こした。


「幽霊…?」


男の子は祥一の言葉に不思議そうな顔をして周りをきょろきょろと見渡した。自分が「幽霊」と言われた対象だとは思っていないようだ。よくよく見てみると、その子は確かに全然幽霊っぽくはないと咲良は思った。その男の子は黒いスーツを着て、赤と紺の斜めのストライプ模様のネクタイをし、ピカピカの革靴を履いていた。表情は暗いが、顔色は悪くない。


「卒業式みたいな格好だな。」


仲間が来たからか、元季は落ち着きを取り戻したようだ。


「え、だって今日は卒業式じゃないか。」


男の子の言葉に咲良たちは顔を見合わせた。


「ちょっと話を聞いてもいいかな。」


愛花はどういう状況でどうしてここにいるのかを、丁寧に男の子に尋ねた。


「俺、賢介っていうんだけど…そこで人を待ってたんだ…けど…その…ずっとそこにいるのが気まずくなっちゃって…。」

「それで、こっちの茂みの奥の方に隠れたんだ。」


玲奈があとを続ける。賢介のやたらとモジモジする様子に、咲良はピンときた。


「待ってたのは、あなたの好きな子?」


普通に考えれば、初対面の人にそんなこと言われたくないとわかる。ただ、賢介はスラリと背が高くサラサラと眉にかかる程度の前髪が爽やかでくっきりとした二重が輝いていて…要するにイケメンだったので、恋愛ものの小説や漫画が大好きな咲良は、眼の前でお話が展開されているような気持ちになり、人のことなのに興奮してしまって、何も考えずにきいてしまった。赤くなって俯く賢介に、全員が咲良の言葉が正しかったことを確信した。


「なるほど。なんて子?」


こういったことに疎い元季は遠慮なくズケズケと質問する。


「…花香。」

「花子?」


祥一の聞き間違いに首をぶんぶん振り、賢介は「花香だよ」と訂正する。


「で、待ってたはずなんだけど奥に隠れちゃって会えなかったってことかな?」


愛花が冷静に話をまとめる。賢介はうなだれる。図星のようだ。


「ここにいたら、確かに見逃しちゃいそうだもんね。」


玲奈の言う通り、賢介が隠れている場所から記念碑は見えづらくその近くに人が来たとしても気付くことはできないかもしれない。


「最初は普通に記念碑の近くで待ってたんだ。そこで待つように言ったのは花香だったから。でも、なかなか来なくて…颯太(そうた)にからかわれて…怖気づいたんだ。」


余計なちょっかいをかける友達というのはどの世代にもいるようだ。全く知らない颯太という人物に咲良は腹が立った。


「で…どうすりゃいいんだ。」


元季が記念碑の前で言ったことと同じことをまた口にした。咲良もどうしたものかと腕を組んだ。この思いを浄化するって、告白をする以外に思いつかない。しかし、花香はどこにいるのだ。この異質な学校空間の中にいるのだろうか。


「あのさ、可能性は薄いけど…。」


考え込んでいた愛花が、いつも通り真っすぐな瞳を眼鏡の向こうに輝かせながら切り出した。嫌味なく自分の考えをみんなに伝えられる愛花を、咲良は同い年ながら尊敬していた。


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