第4話 もう一度

 結人達はケンタローとレイジをかわるがわる見つめた。どういうことだ。先程までここにはケンタローと結人達しかいなかった。ケンタローが思いを話したことでレイジもここに現れた…?


「そうだよな…俺のバンドにお前がいてくれたら最高だったけど…俺が悪いんだ。」


ケンタローはうなだれている。レイジはふんっと窓の方へ顔をそむけた。


なんだこの気まずい空気…。結人は困ってしまった。大山先生は浄化するって言ってたけど、こんなのどうすれば良いのだ。


「あの、歌いませんか?」


省吾が沈黙を破って唐突な提案をした。全員の視線が集まった。


「小学生の頃のことは、なかったことにできないけれど…もう一度歌って…今度はふざけずに…どうでしょうか。」


ケンタローもレイジも驚いた顔をして省吾を見つめている。


「俺、指揮者できるぜ。」


将也が言った。実は結人達の学年は昨年度「この地球に生まれて」を歌っていた。その時の指揮者は確かに将也だった。


「俺はアルトだった。省吾と由奈と綾は?」


省吾はソプラノ、由奈と綾はアルトだった。ケンタローがソプラノを歌えばいい感じに分かれる。


「おいおい、もう覚えてないぜ。ただでさえ俺は不真面目にやってたんだ。歌詞もあやふやだ。」


動揺するケンタローに綾が大丈夫!と言って音楽準備室から楽譜を持ってきた。綾は音楽委員なのだ。楽譜をしまう場所を知っていた。


 結人達はさあさあ、と戸惑うロックスターとそキーボード担当になるはずだった男たちを促し舞台を整えた。


 将也が右手を上げ、全員と目を合わせる。最後にピアノの方へ向きレイジと軽く頷きあって腕を大きく、しかし優しく振り上げた。


 レイジのピアノはとても上手だった。ピアノを習っている結人は感心してしまった。そしてソプラノを歌うケンタローの歌声は圧倒的だった。さすがに1オクターブ下を歌っていたが、力強くて魅力ある声だった。


 将也が高く掲げた右手でぐっと拳を作り、最後の音が消えた。音楽室には余韻が残った。


「レイジ、悪かった。ごめんな。」


ケンタローはレイジに向かって頭を下げた。レイジは立ち上がった。ケンタローは顔を上げずに続けた。


「あの時のことはもう、なかったことにはできない。だから、俺は今後も音楽に真摯に向き合うことで償っていくよ。」


レイジはケンタローに近づき、顔を上げさせた。


「そんなに重く取るなよ。今の歌でお前がどんな気持ちなのかはわかったよ。俺は今後のお前の活躍を楽しみにしているよ。」

「レイジ…ありがとう。」


ケンタローとレイジは光りだした。まぶしくて見ていられず結人は目を閉じた。しばらくして目を開けると、二人の姿はなかった。


「浄化…されたの…?」


由奈がつぶやいた。

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