想像する鏡

阿滝三四郎

想像する鏡

あの『初夜』から約半年が過ぎた頃の、わが家での出来事




この頃の妻ときたら、以前起きた洗濯物、裏返し事件が発端となり、その続きから動画投稿サイトなどの影響を受けて、ドッキリとイタズラがブームとなっていた。良さそうなものを発見したら、仕掛けをして楽しんでいる

そして、優しいことに酒豪ということはないのだけれど、良さそうなお酒を買ってきては、お酒に合いそうな、おつまみを作って待っていてくれる





「ただいま」

「おかえり!!はやく、手を洗ってきて。お酒届いたの。はやく」

「うん、わかった。手洗ってくるよ」

「うん。はやく」





「ウぅ ギャーーーーーーーーーーー!!」

洗面台で、手を洗っている僕は、鏡を見て、大声で叫んでしまった


鏡に映った僕の顔は、思いっきりシワを寄せて、老けた表情に、白髪の髪の毛が

ささやかに、残っている程度になってしまっていた


スマホを片手に

笑いながら妻が、洗面台に駆け寄ってきた


「どう、驚いた。老けたよね。大丈夫????」

「シワクチャな、白髪のジジィになっているんだけど。どういうこと?」

「もう一度、鏡で見せてよ」

「え?シワクチャの僕を見せるの?」

「そう。見せてよ。撮るから見せてよ」

「ほら、見てみなよ」

と言いながら、腰が抜けそうになった身体を、やっと起こして立ち上がった



「いや~、ジジィだ。ジジィだ。」

「笑っているけど、将来の僕かもしれないよ」

「いやだ、あなた、こんな老けかたするの?白髪だけど髪の毛ウっす~~い」

「笑っている場合かよ」



「還暦に合わせて設定したんだけどね。こんな風に年をとるのね」

「還暦に合わせて?」

「そう、お酒の情報をネットで調べていたら、目にとまったの」



「で、なにこれ?」

「なんかね、AIでね、年齢を設定すると鏡に映るというやつ」



「なんだよ、これ。美嘉はやったの?」

「やってないよ」

「なんで???」

「いやだもん、老けた顔なんか見たくないもん」



「これ、買ったの?」

「うん。1500円だったからね」

「1500円?」

「そう、ドッキリには、いいとおもって」



「で、美嘉は、やらないの?」

「いやだもん」



「じゃーじゃー、若返りは出来ないのかな。将来の顔ではなく、高校時代の顔とか、過去の顔を見比べるとか」

「できるのかな」



「ちょっとアプリの設定を変えて、18歳にしてみよ」

「うん」

「じゃー、立ってよ。の前に、当時の写真持ってきてよ。あるよね、アルバムから持ってきてよ」

「え~、見比べるの?」

「いいじゃん、そのくらいはしようよ。せっかく買ったんだから」



「持ってきた?」

「うん」

「じゃー、スマホと写真貸して」

「え、撮るの」

「せっかくだから、鏡の美嘉と写真の美嘉を見比べて、残しておかないとね」

「うん、もう嫌」

「買ったのは、美嘉だからね。記念だよ」



「はい、鏡の前に立って」

「うん」



「あれ?まったく違っているんだけど」



「鏡に映った18歳は、体重どんだけあるんだ」

「こんなに太ったことない。って」



「太っていた頃の写真を抜いてみたとか?」

「そんなことはしないわよ。アルバムは成長の記録よ」



「そっか、そうだよな。いや~、そしたら、このAI、狂ったのかもな」

「そうだよ、わたし、こんなに太ったことない。って」



「ね、箱や取説は、あるの?」

「うん。あるよ」

「ちょっと見せて」

「うん」



「え、こんなに大変な思いをして設置したの。あっ、この前買った小型のプロジェクターが活躍したんだ。スマホと小型カメラを連動させるのか。すんごいな~。大変だったね」

「うん」

「おつかれさん」



「そうじゃなくて」

「あ、そうだったね」





「あ、はぁ。あああああああああああああああああああ」

「なに笑っているのよ」



「箱にも、取説にも AIって本当に書いてあると思う???」

「そうだよ、AIで将来の顔を想像しようって」



「そう、想像は想像だよ。だって、これ、嘘だもん」

「なに、嘘って」



「美嘉、よーく見てみな」

「箱を?」

「箱でも、取説でも、どっちでもいいよ」



箱や取説には

       『Al』  と書かれていた



A は A

  でも

l は Lの小文字




「だから、Alなんだよ。嘘を英語で書くと a lie つまり、嘘」

「どういうこと?」



「箱にも取説にも、小さくie って書いてあるでしょ」

「ほんとだ。何なのこれ。だまされた~」

「そもそも騙されていないよ。嘘なんだから」



「じゃー、あなたの還暦も、私も18歳も嘘だということ」

「僕の還暦は解からないけど、18歳は嘘だということが、実際の顔や写真から解かるでしょ」






「なんかくやしい」

「面白かったから、いいでしょ。それよりも買った、お酒飲ませてよ」


「もう~、お酒も嘘よ」

「うっそう~~~~」


「それは、冗談ですよ」





「あらためて、カンパイ」

「うん」





「そういえば、美嘉?」

「うん?」

「あの映像の様にヨボヨボになっても、一緒にいてくれるのかな?」

「その時に、考えようかな」

と、笑った

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