三日月と薔薇に左手を添えて。
絃琶みゆ
第1章 悪夢は現実を喰う。
オカルト研究部
オカルト研究部
最近じゃ珍しい部活だな、というのが第一印象だった。
中学校にもなかったし、高校受験の際、多くの学校を調べたけれど、オカルト研究部がある高校はいま僕が通っている学校だけだった。
とはいえ、この部活に入りたいと思って受験したわけではない。
正直オカルトやホラーといった系統は苦手で、夜トイレに行けなくなってしまう。それに新入生歓迎会のとき、オカルト研究部の部員が少なすぎてあまり目立っていなかった。
部活動紹介のパンフレットの端にオカルト研究部という文字を見つけて、やっぱり存在するんだなこの部、と改めて感じる。
僕は先輩が作った一人前の焼きそばのパックをテーブルに置いて、誰が描いたかわからない派手なイラストが表紙の文化祭パンフレットを眺めていた。
[オカルト研究部※旧:オカルト同好会
今年度から部になりましたー!ってことで文化祭企画も真面目に考えました!
オカルトな話を聞きたい人は部室へCome on!
見の震える思いをしたい勇者は金工木工室へ!幽霊に扮して待ってるから話しかけてね……。]
随分と陽気な説明でオカルトっぽさゼロだ。
存在感がないせいか、僕のシフトはお昼の一時間ほどしか入っておらず、他は自由にしていいとクラス企画委員に言われていたものの、友達が一人もいない絶望的状況でがやがやした文化祭に放り出されても僕は何もすることがなかった。
とりあえず遅めの昼食ということで売り切れ寸前のソース焼きそばをゲットした。
不意に背後に気配を感じて、振り返る。
そこには焼きそばを立ち食いしている厚底のブーツを履いた背高な妹が立っていた。
「やっほー兄さん。食べないと、冷めひゃうよ」
「座って、飲み込んでからしゃべって」
「うるひゃいなあ」
茶髪のボブカットに整えた
アクセサリーにこだわるタイプで、三日月のイヤリングを愛用している。僕は竹で作られた割り箸の包装を開け、ピリ辛い紅ショウガをよけてから食べ始める。
「兄さんのクラス何やってるんだっけ?」
「健康」
「もうちょっと具体的に言ってくれない?」
「っていうかもう兄さんじゃないんだけど」
両親の離婚で父がどうしても紬だけは引き取りたいと言ったから、今は一緒に暮らしていない。元兄妹だ。
「血繋がってるんだからそういうこと気にしないでよ。モテないよ?」
「余計なお世話」
「その呆れ症どうにかならはいの?」
「別に呆れてない。飲み込んでからしゃべって」
「食べる? あーん」
「いらないよ」
僕は差し出してくる焼きそばを手であしらって、自分の焼きそばを口に入れる。
「友達は? 一緒に来たんでしょ」
「いないよ。一人で来たから」
「なんで。友達誘えばよかったのに」
「だって兄さんもどうせ友達いないんだろうなあって思って」
嫌味にも聞こえるけれど、紬が言わんとしていることは大体わかった。どうやら妹にまで気を遣わせてしまったらしい。
どうにも昔から紬と血が繋がっている兄妹だと思えない。性格も正反対で、紬のほうが優秀で、実は両親のどちらかが浮気したんじゃないかと疑っているが、息子がそんなことを考えるべきじゃないんだろう。
いや、ただ僕が認めたくないだけだ。僕が持っていないものを全て持っている妹を。
「なに見てたの? オカルト同好会? あー研究部。……[幽霊に扮して待ってる]ってこれ見えないってことじゃんねぇ」
紬は勝手に僕が見ていたパンフレットを横取りし、そのページをまじまじと見ている。
「最近さ、あたしの学校で流行ってるんだよね、オカルト。本当にあった怖い話とかさ」
「そういう話しないでよ」
「しないよ。怖がりな兄さんをいじめに来たわけじゃないからね」
内心ほっとする。妹が反抗期じゃなくて本当に良かったと思う。
「でも気になるからここ行きたい」
まっすぐな瞳で見つめられて咄嗟に視線を逸らす。
「行ってくれば?」
「なんでよ、兄さんも一緒にだよ」
やっぱり。
「このページ見てたんだから見に行きたいんでしょ? でも友達いないしひとりで行くのも惨めだから嫌だったんでしょ? ここに有能な妹がいるじゃん!」
全部とまではいかないが、だいたい、四分の三くらいは当たっていた。
「ねぇ、ここ行きたい! 行こうよねぇねぇ」
駄々をこねる幼女みたいになり始めた。
まあ紬と一緒なら怖くないだろうと思って、——紬がうるさいので——けっきょくオカルト研究部室に向かうことになった。
「金工木工室ってところでもいいんだよ?」
「体験なんかするわけないでしょふざけないで」
「まあそうだろうね」
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