次期作倉庫

清河ダイト

異世界ならチハたんでも無双できる説(大幅改変)

北海道、札幌。


休暇の度に来ているが、やはり建物のスケールに圧倒される。


きっちり礼儀正しく区切られた街。

たしか北海道開拓時代の名残だとかなんとか。


もし俺がただの暇人で、とんこつラーメン好きならば、毎日でもこの街に赴き、片っ端から食べ歩き(?)するであろう。


しかしそのような事は、俺の仕事柄難しい。



「──いや、だからこそ楽しめるじゃないか!」



そうだ、いくら好物でも毎日食べ続けていたら飽きてしまうだろうし、少なくとも「久しぶりに」という感動やワクワクは生まれない。


スマホにはこの日の為に、巡る店のメモを取っている。



「では……いざラーメン屋に向けて、出撃ッ!!」



俺こと、時村忠政ときむら ただまさ陸上自衛隊二等陸曹はスマホ片手に、予め決めていたルートを歩いてラーメン屋に向かう。


とその時、一瞬空が光った気がした。



「?」



なんだ? 目の錯覚か? いやだが今のは明らかに光ったぞ。


周囲に目を向けると、同じようにキョロキョロしている人が大勢いる。


つまりさっきのは俺の目の錯覚じゃない。

本当に光ったのだ。


しかしなぜ? 朝確認した時は札幌降水確率0パーセントだったし、雨雲レーダーを見ても雲のひとつなかったはずだ。


それにここは北海道。

九州とか台風がよく通るところでもない。


つまり雷では無い……。



「……っ!! まさかっ……!?」



まさか……ほんとうに……?


俺の脳裏に嫌な考えが過ぎる。


職業柄、自衛隊というのは元々、災害派遣を主の任務で結成された組織では無い。

つまりその任務は国防、外国からの攻撃に備え、訓練し、国民を守るのだ。


そして先程の一瞬の光。

あれは広島や長崎に落とされた原爆とかが炸裂した時に発する閃光ではないか?


そういう考えに辿り着いた俺は、開いていたスマホを閉じ、急いで駐屯地に向かうために体の方向を変えた。



「ラーメン食ってる場合じゃねぇ……!!」



それはなぜか。

無論、死ぬのは怖い。

だがそんなこと言ってる場合ではないのだ。


光った、つまり核攻撃されたということは絶対に一箇所だけではない。

攻撃するなら数箇所同時にだ。


もしかしたらここ、札幌も攻撃を受けるだろう。

その前に一刻も早く地下や、気休め程度だが頑丈な建物に逃げなければならない。



「皆さん!! 万が一を考えて今すぐ地下か建物内に……」



避難誘導するために声を上げた。

しかし、民衆の顔を見たら違和感を感じた。


皆、見ている方向が同じなのだ。

そう、俺が向いている方向と反対側を……。



「……まさか」



恐る恐る、ゆっくりと振り返る。



「……そんな」



視線が同じ方向。つまり、その方向にがある。


は恐らく、俺が危惧したモノだろう。


しかし、振り向いた先にあったは、俺の予想とは違っていた。



「……え?」



目の前には、いわゆる光線銃というか、有名漫画の主人公が使っているようなを飛ばす必殺技のような。

少なくとも単なる光や閃光でなく、


そしてこのというのが分かるということは、これは光とは別の何か、ああそうだ、だ。

エネルギーの塊が信じられないスピードで迫ってきているのである。



「や、やべ──」



この光に、エネルギー波に触れたら、飲み込まれてしまったら生きることはできないんだと、根拠はなくとも俺の本能がそう言っている。


しかし、今から逃げきることなんかできない。


いくら光より遅いといっても、人間の足には余裕で追いつける。


一瞬背中に熱を感じたと思ったら、もう四肢の感覚はなくなり、意識や視界も同様に消失。

あまりの死の速さに、俺は死を認識することすら出なかった……。


──────────


「…………」



ここは……どこだ……?

俺は……さっきまで、何をしていた……?


意識が戻った。

しかし、どうも記憶が曖昧だ。


えっと……たしか俺は札幌でラーメンを食べに市内に入って、それで……、



「ッ……! 攻撃されたんだ……!」



「何をしていたか」という疑問が解決されると同時に、「ここはどこか」という疑問も、半分はわかった。


つまり、周囲の状況の変化に気がついたのだ。


一面の森、森、森、森である。

森が森々、18本も木がある。


あ、字面が。


ちなみに木自体はオークの木のようで、一般的な緑の葉っぱや幹が沢山並んでいる。



「ほ、本当にここどこだよ!?」



なんだここ……演習場でこんな場所はなかったはずだ。


……というかそれより、なんか視界が高くないか……?

俺の身長は175cmと、低くも高くもない平凡な高さだが、どう見てもこの視界はいつもより高い。


いや、そんなことよりはまず周囲の状況を確かめるべきだ。

もしかしたら森の部分はこの方面だけで、振り返ると街が広がっているのかもしれない。


俺は期待を膨らませながら、勢いよく振り返る──ことができなかった。



「えちょま……な、なんで!?!?」



ゆっくり、ゆーくり……同じ速度で水平に視界が動く。


あまりにもゆっくり過ぎて、すぐ隣に広がっていた池の中にいる魚を観察できてしまう。


この動き方、ちょっと見覚えがある。


そうそれは、俺が戦車に乗って、砲塔を旋回させた時だ。

しかしその時のスピードよりも明らかに遅く、今のこのスピードを例えるなら、第二次世界大戦中の戦車をゲームで扱った時のようなスピードで……。



「……おい、これ……まさかそんな……」



俺はやめ、視界を下に向ける。


だがどれだけ真下を見ようと思っても見えない。


それはそうだろう。

普通戦車は車体と砲身が干渉しあって、一定の俯角までしか下げることはできないし、そもそも真下は車体なのだから砲身や砲塔から見る必要も無い。


最低俯角まで下げた視界には、緑色に統一され角度のある鉄板と、湖の水面。

そこには、車輪とそれを被せるように装着された履帯、逆台形のような形をした鉄の塊と、その上にぴょこんと乗っている円柱の鉄の塊と筒、ハチマキみたいに着いている鉄のアンテナ。


この形、いや戦車見覚えがあるな……。


そうこれは、大日本帝国陸軍の主力戦車であり、歩兵支援に特化した戦車、九七式中戦車。


つまり、である。



「な、な、な……なあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

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