認知症になったうちのおばあちゃんが最強だった

千口立華

第0話 プロローグ

 認知症。原因は様々だが極端に言えば認知機能が低下、つまり物忘れがひどくなったり物事を考えずらくなってしまったりする状態のことだ。


 僕は暑い日差しを睨みつけながら、お母さんのその言葉を待っていた。

「ほらあんた、支度しなー。予約取れたから会いに行くよ」

 昨今、嫌なウイルスが最悪なタイミングで流行って人に会うのさえ苦労する。


 その場所につくと、僕の中で渦巻いていたなんとも言えない感情が、洗濯機みたいに勢いを増していく。


 ギリギリまで開かない自動扉を避けるようにして入って、置かれていた消毒液を手に噴射。空気に煽られてひんやりと涼しいような、冷たいような感覚が肌を覆う。このツンとした匂いはどうしても好きになれない。

 かがむようにして検温機に額を見せる。グリーンに光って正常体温を知らせる。

 まるで宇宙から飛来した物体を調べている最中のSF映画だ。


 若い女性の職員さんが出てきて、僕らを中へと案内する。

 ストレッチマシーンや、リハビリ用の棒柵、自転車のペダルなどが広い空間で目に入った。

 エレベーターで二階に上がると長い通路を歩く。すると一つの扉が僕らの足を止めた。

「少し待ってくださいね」

 高いところに設置された鍵を、職員さんが背伸びして開ける。毎回閉めているらしく、まるで監獄みたいだと僕は思った。


 いよいよ、部屋の目の前まできた。扉の札には『尾波さん』と書かれている。

 職員さんがそっと開け、僕とお母さんはその隙間から覗き込むようにして入る。

「おばあちゃん、来たよ」



 これは、僕の優しいおばあちゃんが認知症になってしまってからを綴った、70%以上事実の物語だ。

 少し面白おかしく書くだろうが、笑顔にはいつも幸せが反映されているとは限らない。そのことを覚えて、読み進めてほしい。

 なんて、イキったことを書いてみたが、まあ嘘ではないからいいだろう。

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