第5話 おめでとうございますEランクに昇格です!え?Dランク?

 満月が綺麗な時分、俺とリュールは冒険者ギルドに戻った。


「クエスト終わらせましたよー」

「早ッ!?」


 冒険者たちが酒を飲むテーブル席を挟んだ向こう側で、受付嬢さんは悲鳴を上げた。


 軽い足取りでカウンターに近づく俺とリュールに、受付嬢さんはややテンパる。


「あの数の清掃と運搬業務をこの数時間でどうやって!? 何か不正行為はしていませんよね!?」

「それならボクが保証するよ。彼は一切不正行為をしていないし、ボクも手は貸していない。オールOKさ」


 Aランク冒険者に保証されて、受付嬢さんは絶句した。

 周囲の冒険者たちも、挙動不審になりながらざわついた。


「おい、あいつ夕方の新人冒険者だろ?」

「採取系クエストひとりで全部クリアした」

「今度は清掃運搬系全部って何者だ?」

「どうせ金持ちのボンボンだろ? 採取系は素材をどこからか買ったんだよ」

「でも清掃系と運搬系は無理だろ」

「すげぇ、とんでもない大型新人だな」

「い、今のうちに取り入っておこうぜ」

「ていうかリュールとどういう関係だよ。ま、まさか……」

「言うな!」


 リュールってすごい人気なんだな。

 まぁ、これだけの美貌と性格なら当然だろう。


「ではこちらが報酬になります。でも本当にどうやったんですか?」

「ん、まぁ俺のスキルでね」


 実際、アイテムボックスSは凄まじかった。



 運搬系は大量の瓦礫や石材を別の場所に移動するもので、収納してから半径1キロ以内の場所に出したり、レベル19の身体能力で走れば簡単だった。

 土方仕事のペンキや左官の仕事も、一度ペンキやモルタルを収納してから、壁にまんべんなく配置していくと一瞬で完了した。

 清掃の仕事なんて、それこそ半径1キロ以内の汚れやゴミ、汚物を全て収納すれば1秒もかからない。


 

 実質、移動時間しかかからなかった。

 流石のリュールも、これにはひどく感心していた。



 特に、半径1キロ以内の瓦礫を全て回収してから再利用できるよう、サービスでキレイな石材に加工してから指定の場所に陳列した状態で取り出すと笑ったぐらいだ。


「キミのアイテムボックス万能過ぎじゃないかい? ボクのアイテムボックスDは容量が100立方メートルで射程が2メートルだから羨ましいよ」

「ランクは秘密だけど、結構高ランクだからな。おかげで荒稼ぎさせてもらっているよ」

「でも、Eランクに上がったらモンスター討伐クエストの受注ができるけど、キミ、戦えるのかい?」

「Eランク?」


 俺が尋ね返すと、受付嬢さんが頷いた。


「はい。クジョウさんは壁内クエストと壁外クエストの両方を10件ずつクリアしたので、FランクからEランクに昇格です。これからはEランクのモンスター討伐クエストを受注できます。いま、冒険者証を再発行しますね」

「へぇ、ところでどんなのがあるんですか?」

「いまあるのはこれらですね」


 言って、受付嬢さんはまた、引き出しからクエスト書類の束を取り出して俺に手渡してくれた。


 それから、冒険者証の発行手続きをするのだろう。


 奥に引っ込んでしまった。


 リュールと一緒にモンスター討伐のクエスト書類を眺めてしばらくすると、奥から受付嬢さんが金属プレートを片手に戻ってきた。


「はい、クジョウさん。これが新しいEランク冒険者証書ですよ」


 その手には、この世界で文字で俺の名前と冒険者ギルドの刻印、それから【E】の文字が刻まれた金属プレートが光っていた。


 が、何故かリュールがウィンクをしながらスマン、とばかりに受付嬢さん相手に手を縦にかざした。


 受付嬢さんが首をかしげると、俺は言った。


「このクエスト、全部達成済ですね」

「ふぇ?」


 受付嬢さんがちょっと間抜けな顔で首をかしげた。

 夕方の頃がデジャブするけど、今度はリュールがクエスト書類を読み上げ、俺がアイテムボックスからモンスターの頭部を取り出した。


「ゴブリン8体」

「ほい」

「グリーンスライム10体」

「ほい」(頭が無いので核を取り出した)

「ホーンラビット12体」

「ほい」

「クレイジーマウス20体」

「ほい」

「殺戮リス10体」

「ほい」

「ヨロイダヌキ8体」

「ほい」

「グリーンアント30体」

「ほい」

「ムラサキコウモリ10体」

「ほい」

「ファングフラワー5体」

「ほい」

「ウォーターリーパー6体」

「ほい」

「オオナメクジ12体」

「ほい」

「フリントマウス20体」

「ほい!」


 数分後、冒険者ギルドのカウンター内外はモンスターの頭部でいっぱいになるホラーワールドと化した。


 が、みんな恐怖よりも驚愕の方が勝っているらしい。

 受付嬢さんも他の職員さんも冒険者の人たちも開いた口が塞がらず、唖然としていた。


「これで全部ですね。査定をお願いします」


 俺の呼びかけにハッした受付嬢さんと職員たちが慌てて査定を始めた。

 それから、皆さんで何かを話し合ってから受付嬢さんが頬を痙攣させながら戻ってきた。


「全て確認しました。報酬の金貨1341枚は今、持ってきます。あと、Dランクに昇格なので冒険者証も一緒に。クジョウさんみたいな冒険者さん、初めて見ましたよ」

「ボクもだよ。キミみたいな人は始めて見るよ。どうして今まで無名だったんだい? 世捨て人になるような年にも見えないし」

「まぁ色々あってね」


 異世界から来たと言っても信じてくれないだろうし、今はてきとうにはぐらかしておく。


「でも本当に凄いですね。初日にFからDランクに昇格するだなんて前代未聞ですよ。リュールさんでも一か月かかったのに」


 ――いや個人情報言うなよ。


 この世界のリテラシーの低さを認識しながら、リュールの優秀さを実感した。

 俺みたいなチートもなくDランクに上がるのは、並大抵のことじゃないだろう。

 それを一か月で成し遂げたのだから驚かされる。


「じゃあ次はCランクに昇格するためのクエストを見せてくださいよ。もしかしてもう討伐してるかも」


 俺はちょっと調子に乗って手を差し出すも、受付嬢さんは首を横に振った。


「いえ、残念ですけどCランクに上がるための討伐系クエストはちょっと特殊なんです」

「特殊?」

「はい。単純にモンスターの討伐するのではなく、指定した特定の個体を討伐して欲しいのです。それも、ここから遠くの森の。今あるので比較的簡単なのは……」


 引き出しから取り出した数枚のクエスト書類に目を通してから、受付嬢さんは一枚を選んで俺に提示してくれた。

「ゴブリンコマンダー討伐?」




・人気になったら本格連載!

・この第5話に16PVついたら6話目投稿!

※PV プレビュー 本文の視聴回数のこと 今みなさんが目にしているのは5話。

2話 3話 などそれぞれの作品にアクセスするごとに各話のPVが1増えます。

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