巻き込まれ召喚されたのお前らなんだけど?30歳の逆転人生!
鏡銀鉢
第1話 巻き込まれ召喚?
「おっさん誰?」
目を開けると、大勢の高校生たちが俺を見下ろしていた。
わけがわからず、慌てて上半身を起こした。
何で俺は、スーツ姿で床に寝転がっているんだ!?
過労か!?
ブラック企業のクズ課長に命じられて20連勤したツケが回ってきたか!?
けれど、周囲の状況を確認して、俺はソレに目を奪われた。
「ドーム天井にステンドグラス?」
見上げれば、そこはにまるでヨーロッパのお城か大聖堂のようにドーム状の天上が広がり、ステンドグラスから太陽の光が差し込んでいた。
俺の仕事は不機嫌そうなおっさん巡りをする外回りはあっても、こんな綺麗な場所へ行くことはない。
なら、どうして?
そこで、はっと思い出した。
そうだ、俺は東京の会社から名古屋へ出張のために新幹線に乗っていたんだ。それで、修学旅行中の高校生たちと同じ車両に乗り合わせて、途中で白い光に包まれて、意識を失ったんだ。
「やっと目を覚ましたか」
やや呆れた口調に視線を向けると、高校生たちの向こう側、玉座的なものに、王様然とした格好のおっさんが座っていた。
偉そうにふんぞり返り、玉座の高みから俺らを見下しながらおっさんは気を取り直した風に再び口を開いた。
「では、よくぞ参られた勇者たちよ。貴殿らはこの世界を救うために召喚された。世界を暗黒に染めようとする魔王を打ち倒し、世界に希望を取り戻してくれ」
その口上に、俺は背筋が寒くなった。
――ちょっと待て。待て待て待て。それってまさか、もしかして。
俺の不安を煽るように、高校生たちが騒ぎ始めた。
「うぉおおおおお! マジかよ!」
「これっていわゆる異世界転移ってやつですか!?」
「キタコレ最高!」
「嘘!? 異世界転移って最近アニメでよくやってるあれでしょ!? やった!」
「あれでしょ? チート能力で活躍してストレスフリーにチヤホヤされる」
「ついにあたしの時代が来たわ!」
「異世界と言えばイケメン王子との結婚よね!」
「オレは巨乳のエルフ美少女とヤりまくるんだぁ!」
「冒険者ギルドでハイスペSUGEEで薬草採集に行ったらスタンピードに出くわして最速Sランク!」
「おいおいオレらはいわゆる【クラス転移】らしいし、それは違うだろ」
「クラス転移? そうなると……」
眼鏡をかけたオタク風の男子が、俺のことを一瞥してきた。
気持ちは分かる。
これがクラス転移だとしたら、30歳社畜の俺がこの場にいるのは、明らかにミスマッチだ。
そして、これが俺の不安通りの【アレ】だとすると、非常にマズイ。
生徒の一人が声を上げた。
「あのー王様。てことは俺らって何か戦闘スキル的なものが貰えるんですよね? どうやって確認すればいいんですか?」
「流石は勇者殿、話が早い。皆、慣れれば念じるだけで可能だが、ステータスオープンと言うがよい」
王様の指示通り、高校生たちは口々に「ステータスオープン」と呟いた。
すると、彼ら彼女らは何もない空間に視線を走らせ、色めき立った。
どうやら、自分にだけ見える画面が見えているようだ。
「王様! 剣術スキルって表示があります!」
「あたしは魔術師スキルよ!」
「オレはアサシンスキルか」
「私はビーストテイマーね」
「へぇ、オレはアーチャースキルか。ゲームみたいでわかりやすいな」
「オレ賢者じゃん! 主人公スキルキター! まじオレしか勝たん!」
「あたし聖騎士よ!」
「残念、オレなんか剣聖だぜ」
「すっごーい。流石は刈谷くん! 異世界でも一軍なんだ!」
「まっ、刈谷じゃしょうがないよな」
どうやら、あの刈谷とか言う長身美形男子がクラスのリーダーらしい。
みんなの注目を浴びて有頂天になりながら、得意満面に周囲を見下したあの表情。俺が高校生の時にもいたけど、どうやらあの手のバカは時代に関係なく存在するらしい。
はしゃぐ高校生たちの報告に、王様は怪しい笑みを浮かべた。擬態語をつけるなら【しめしめ】が適当だろう。
「うむ。本来、一人前の剣士や魔術師の育成には何年もかかる。だが、神の加護であるスキルは持つだけで一人前の能力が身に着く上、その道で尋常ならざる才を発揮する。本来ならスキルを授かるのは100人に1人もいないのだが、異世界から召喚された者には必ず宿ると言われておる。それにレベルの上昇もこの世界の人間よりも早い」
「レベル、まるでゲームだな」
「まぁまぁ異世界のお約束だろ」
「最初は1からか、当然だけど」
「それで、おっさんのスキル何?」
高校生たちの視線が、一斉にくたびれたスーツ姿の俺に注がれた。
王様の厳しい視線も突き刺さる。
流石に、俺が異物であることは異世界の人でもわかるらしい。
――そりゃあお肌ピチピチで同じ制服姿の若人たちの中におっさんが混じっていたら違和感ばりばりだよな。
「えーっと、ステータスオープン?」
遅れながら俺が自分のステータス画面を確認すると、それだけで何人かの高校生たちは笑った。
「遅っ」
「いまさらかよ」
という声が聞こえる中、俺は画面の情報を読み上げた。
「薄井恭二30歳、男、所有スキル:創造スキル。材料に応じたものを作れる?」
「戦闘系ではなく生産系だと? して、何を作れるのだ?」
訝しむような声の王様に促されて、俺は続けた。
「はい。うーんと、創造物一覧……銅の剣、ひのきの棒、木の靴、農作業着、麻縄、踏み台、桶、樽、簡易ベッド、棚、ウッドテーブル、ウッドチェア」
「もうよい! そんなもの、街でいくらでも手に入るわ! 無から作れるならともかく材料を使うのでは職人に発注するのと変わらないではないか! 大工スキルならお抱えの職人が何人もおる! そんなことで魔王を倒せるか役立たずめ!」
王様は激高して、口角に泡を飛ばしながら怒鳴り散らしてきた。
その様子は俺にパワハラとモラハラをかけてくるうちの会社と取引先A社とB社とC社とD社とE社とF社とG社の係長と課長と部長と次長にそっくりだった。
――酷い。勝手に召喚して思っていたのと違うからとイビるなんてあんまりだ。そもそも異世界召喚ってようするにただの拉致じゃないか。
「あ~王様、それはこのおじさんが可哀そうですよ」
意外にも、助け船は俺を馬鹿にしていた高校生の一人が出してくれた。
けれど、それは俺の勘違いだった。
先程、賢者スキルを手にして大喜びだった彼は、滑らかに舌を回した。
「だってこのおっさんは勇者じゃありませんから」
「どういうことだ?」
「思い出したんですけど、このおっさんはオレらが乗っていた新幹線、じゃわかんないか。とにかく長距離馬車に乗り合わせてたんです。ようするにこのおっさんはオレらの召喚に巻き込まれただけで、ようするにいわゆるぅ」
噴き出して笑った。
「巻き込まれ召喚って奴ですよぉ」
――で、す、よ、ねぇ~~~~~~………………。
他人から言われて、当人の俺は頭にズガガガガ~~ン、と衝撃を受けた。
しかも、しかも、だ。
「しかもぉ、これがラノベだったら巻き込まれ召喚されたけどチートですってのが定番だけど、そこはフィクションと現実の違いかなぁ? おっさん、本当に巻き込まれただけでチートじゃないみたいですね。まっ、でも生産系スキルなら城下町でなんとか生きていけるんじゃないですか? スローライフ系主人公として頑張ってくださいよっ」
賢者男子の言葉に合わせて、高校生全員がどっと笑い出した。
一人ぐらい、同情的な視線をくれていないかと期待するも無駄だった。
よほど歪んだ高校なのか、これが現代っ子なのか、理由は分からないが、その場にいた高校生全員が、一人の例外もなく腹や口に手を当てて大笑いしていた。
ただ一人、王様だけは眉間にしわを寄せて、怒り心頭に発していた。
「ええい、ハズレの粗悪品が余の視界を汚すな! 誰か、その下民をつまみだせ!」
高校生たちが道を開けると、当然ながら広間にいた鎧姿の衛兵たちが押し寄せてきて、俺の腕を取り強引に外へ引っ張っていった。
「待ってください! いらないなら日本に帰して下さい! 俺には向こうの生活があるんです!」
「そんな方法知るか!」
「そんなぁあああああああああああ!」
絶望の叫びを上げながら、目の前で広間の門が閉じた。
◆
そのまま城から投げ出された俺は、道の端っこで途方に暮れていた。
王都らしく整備された石畳の上を馬車が走り、レンガ造りの建物が並ぶ通りをチュニック姿の人々が行きかう。
異世界らしく、中世ヨーロッパ風ではあるがどこの国にも似ているようで似ていないナーロッパ風景に佇むスーツ姿のおっさんは、さぞかしミスマッチだろう。
「異世界、しかも帰れない……」
日本で俺は行方不明扱いなのだろうか?
向こうに残してきた仕事は?
アパートの荷物は?
パソコンのお宝フォルダは?
某海賊漫画とハンター漫画の最終回は?
貯金は……できるほど給料もらってなかったからまぁいいか。なにそれ悲しい。
せめて、俺も何か戦闘系スキルを持っていて高校生たちと一緒に勇者ライフを送りたかった。
そうすれば、社畜を卒業して日本に未練なく異世界で第二の人生を踏み出そうという決意も固まったかもしれない。
だけど、ただ一方的にネットも漫画もコーラもポテチもない異世界に身ひとつで拉致られてスローライフを送れと言われても困る。
まぁ、一応仕事鞄はあるから身ひとつじゃないけど、仕事の資料なんて何の役にも立たない。
これがせめて品種改良された現代農業の種とか農業資料なら異世界で現代知識農業無双できたものを。
そうなると、俺に残されたのはもうこの【創造スキル】ただ一つだ。
このスキルを上手く使って、少しでもマシな人生を送らなくてはいけない。
意外なほど立ち直りの早い俺だが、決してポジティブ思考の持ち主などではない。
むしろ、度重なる不幸のたまものだ。
小学生の時から苦しい時、悲しい時、辛い時、俺がどんなにヘコんでも誰も助けてくれなかった。
実の母親でさえ、「不景気なツラ見せるな!」と言って蹴りを入れてきた。
小学生の息子を蹴るなよ母ちゃん。
兄貴も、「お前そうやって悲劇のヒーロー気取りしていれば誰かがなんとかしてくれるとか思ってんの? ウザッ」と言って蹴りを入れてきた。
だから蹴るなよ。なんで俺の家族は俺を足蹴にするの? ちなみに親父は特に理由が無くても蹴ってきた。うちの家族ってカポエラマスターなの?
とにかくそんなこんなで、落ち込んでもなんの解決にもならないどころかむしろマイナスあと学習させられた俺は、不幸であれば不幸であるほどむしろ活発に行動を起こすクセがついた。
「とりあえず詳細を確認するか」
ステータス画面の、【創造スキル】の説明を、もう一度読み返した。
すると、ストレージなる機能がついていた。
これはいわゆるアイテムボックスで、生きた動物以外のあらゆるものを無制限に異空間に収納しておけるというものらしい。
「ま、異世界の定番だよな。あとは創造物一覧を見返すか。何か安い材料で売れそうなものがあれば、そうだ、土から作れる陶器とか、いや、あれは焼くのに専用の窯がいるか」
などと言いながら一覧をスクロールしていると、指のフリック加減を間違えて、一気に下に移動してしまった。
「おっとと、上から順にみようと思ったの、に……え?」
そこに表示されていたものに、俺は絶句した。
【高周波ブレード】
【ファンネル】
【プラズマライフル】
【レールガン】
【万能戦闘メイドロボ】
【スーパー巨大ロボ・ブレインメイル】
【空中要塞アルデバラン】
そして、
【惑星殲滅決戦兵器アンゴルモア(※創造しないで下さい)】
――世界観んんんんッッッ!!!!?
思わず、全力で叫んでしまった。もちろん心の中で。
でもそうか、こんなすごいものも作れたんだ。
どうやら、構造が単純なものの順に表示されているらしい。
「でも待てよ、ならこのことを王様に伝えればっ」
喜び勇んで振り返ろうとして、俺の冷静な部分が待ったをかけた。
――待てよく考えろ。今からあの高校生たちに混じって勇者ライフを送って、それでどうなる?
失礼だが、あの高校生たちはお世辞にも人間としての質が良いとは言い難い。
王様も、勝手に召喚と言う名の拉致をしておきながら、何の保証もなく人を捨てるようなモラル崩壊のいわゆるDQNだ。
上司と同僚がDQNぞろいの勇者ライフって、本当に幸せか?
そう考えると、城へ戻ろうとする足が止まった。
それに、巨大ロボなんて俺一人で作るのに何年かかるんだ? まずはマシーンを作る工具を作ってそれから電気ドリルだとか溶接するバーナー的なものとか、俺の開発環境を作るだけでも年単位でかかりそうだ。
材料だって、あのDQN王が用意してくれるか怪しいものだ。
――ていうかこの巨大ロボの材料の竜の心臓って絶対に超貴重素材だし手に入らないだろう……。
以上の理由から、俺は極めて冷静に、そして論理的に身の振り方を考えた。
「…………うん、やっぱ城下町でまずは金と生活基盤だな」
思いのほか、あっさりと決まった。
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