葉っぱの少女

砂藪

小さな葉っぱの妖精さん


「ねぇ、あの子変じゃない?」


 耳をすませばいつでもその声は聞こえた。


「土から離れて動き回るなんておかしいおかしい」

「同じところに立ってられないなんておかしいおかしい」

「四本の太い枝しかないなんておかしいおかしい」


 遠い姉妹兄弟であるはずなのに私の姿はみんなとはまるっきり違うみたい。大きな枝と太い幹を持つ兄弟たち。美しい色の花弁の葉を持つ姉妹たち。

 兄弟たちとも姉妹たちとも似ていない体を動かして森の中を歩く。森の中はどこもかしこも兄弟姉妹たちの声が聞こえる。


「気にしなくていいよ」

「父さんが言ってただろ?森を出ろって」


 両隣を歩く二枚も私とは似ても似つかない。青々とした少しギザギザした葉っぱ。木から落ちた二枚は私が小石を詰めた靴を作ってあげたから飛んでいくことも無く、ぴょんぴょんと飛び跳ねて私の度を見守ってくれる。

 二枚ともお父さんが落とした葉っぱだ。


 虫たちに会った時に撃退出来るようにと作った背中の弓と矢もお父さんが落とした枝を使って作った。

 靴も弓も矢も服も、全部、作り方を教えてくれたのはお父さん。昔近くに暮らしていたニンゲンが作ってたのを見た事があるって言ってた。


 私の見た目がそのニンゲンに似てるから森の中にいるよりもニンゲンと暮らした方がいいって言われた時は泣いちゃった。


「私、みんなに嫌われてるから、森にいちゃいけないのかなぁ?」

「そんなことないさ!森では生きにくいから、生きやすい方に行った方がいいと思って父さんは森から出るように言ったんだ!」

「悲しむよりも前を向こう!ほら、ニンゲンが暮らしている家が見えてきた!」


 二枚に勇気づけられて顔を上げると、いつの間にか目の前にはサルスベリのお姉さんが咲かせる花の色をした大きな建物があった。お父さんのうろの中よりもあの建物の中は広いに違いない。


「ここにお父さんが昔仲良くしてたニンゲンがいるの?」

「ああ、そうだよ」

「名前はベンっていうらしい。父さんととっても仲良しで、前に来た時、君のことを頼んだって言ってた」

「え? じゃあ、どうしてその時に一緒に連れて行ってくれなかったの?」

「君が自分の足で来ないといけなかったんだよ」


 私と二枚がナンテンのお兄さんが冬になると実らせる実の色の箱の横を通り過ぎると大きな大きな木が立ってた。でも、その木は地面とは離れてて、私のことを見つけるとずんずんと歩いてきた。私よりも大きいのに、私と同じみたいな形をしてた。


「君が古木が言ってた木の小人ちゃんだね。これからよろしく」

「よ、よろしくお願いしますっ」

「横の二枚の葉っぱは?」

「お父さんの葉っぱで……一緒に旅をしてきました」

「名前はないの?」

「うん」

「じゃあ、ダニエルとフレディにしよう。三人とも長旅お疲れ様。ほら、僕の手に乗って。今日はご馳走にしよう」


 差し出された両手に二枚と一緒に乗るといつの間にかずっと聞こえてた兄弟姉妹たちの囁き声は、聞こえなくなってた。

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葉っぱの少女 砂藪 @sunayabu

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