銀灰の鍵、カバンの後ろポケット

@nem-take

第1話 異色の二人

───ふりむくな。


そう言われた気がして、俺は振り返らず全力で走った。

後ろから覆い被さるような気配をはっきりと感じる。走る。走る。今はただそれだけを考える。

勢いをつけすぎたせいで、曲がり角で足が交差する。カバンの中身をぶちまける。そうだ、言っていた。銀灰の鍵。


「カバンの…後ろポケット…!」


───14時間前───


「なぁ、今夜学校忍び込むべ?」


唐突すぎる八帯やおびの発言に食べていた弁当を吹き出す───

というわけでもなく、いつも通りの突拍子のない提案に笑いを堪え、俺は多めに口に含んだ白米と、彼に言われたことの意味をモクモクと咀嚼する。

「…(笑)なん急に、え学校?」

嚥下えんげした後、やはり理解ができなかったことに吹き出しながら、八帯に問いかける。


「そ、学校。」

「なぁよかろ〜?よかろうもんじゃ〜ん。」


八帯は縋り付くような目でこちらを見つめてくる。

頭は耳にかかるほどの長さの黒髪にパーマを当てており、そこに鮮やかな青のメッシュが散りばめられている。いわゆる派手髪というやつだ。

身を乗り出すと彼の耳に開けられた校則違反の代物がキラめいた。


「んん、いいけど、てかお前それ何弁だよ、出身ここだろ(笑)」


彼の適当すぎる言い草に思わずまた笑えてくる。

うちの高校は偏差値が高いので、髪型の規則など校則が緩かった。

それを八帯はフル活用し、こんな見た目になっているが、当然こんな見た目にする生徒など八帯以外ほとんどいないので、外見は浮いている。

しかし、整った容姿と有り余るコミュニケーション力で、クラス、および先生方からの信頼も厚ようだ。

ただ、人当たりがいいとはいえこんな見た目の奴がクラスで人気を博しているのが不思議でならない。ギャップ萌え…という奴だろうか。


「よし!じゃ、決まりな!」


一歩間違えば謹慎ものの、俺のような生粋の現代っ子には危険すぎる誘い。これを即決したことに深い意味はなかった。

クラス内での交友関係も良好、何か世の中に対する大きな不満があったり、ましてや八帯に借りがあるわけでもない(というか借りなんて作ったらろくなことにならないだろう)。

特に何も感じずに生活している。だからこそ俺は、

───少々日々に退屈を感じていたんだと思う。


「何しに行くん。」


「邪神様召喚の儀〜。」 


小学生のように目をきらめかせて、傍から聞いたら何とも恐ろしいこと言い放った八帯だが、これもいつも通りである。

そう、いつも唐突に誘ってきては俺を振り回すこの男、八帯やおびすすむと俺、黄精ささゆり衣織いおりはオカルト好きなのだ。

しかしこれを公言はしない。何ならひた隠しにしている(はずだ)。考えても見て欲しい。高校生男子2人組が儀式だとか呪いだとかを所構わず話し回っていたら、そりゃ引くだろ。

だからこれは2人の秘密のはず、なのだが…。見ての通り八帯はあっけらかんとしているので、どこまで隠し通せているのかは考えないようにしている。(現に今も昼休みで騒がしいとはいえ教室の中で話をしている)


「ふーん」


せめて雰囲気だけでも他愛のない話をしているように努める。


「あっ、またつまんなそーな顔してー。ゼッテー楽しいから!」


八帯は俺の顔をみては不服そうな顔をする。


(そんなつまんそうな顔してたかな。)


まぁ確かに召喚だかなんだかに興味はあまりない。八帯がオバケが本当にいるのか確かめたい行動派だとすると、俺は化け物のデザインの意味不明さに魅入られた鑑賞派だからだ。


「ごめんて、で?何時いついくの?」



───学校侵入───

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