狂気と蠢く影の源泉

駄犬

狂気と蠢く影の源泉

始まりと終わり

 三人は身体を屈めて、窮屈そうに身を寄せ合い、各々が持ち寄った駄菓子の数々で密やかにパーティーを開く。狭小な空間を共にし、時間の流れなどそっちのけで、満ち満ちる多幸感に身を任せていれば、頻りに鳴くカラスの声と飴色に焼けつつある景色が現れる。


「チャイム鳴ったか?」


「もしかして大分過ぎちゃった?」


 日暮れに急き立てられた声色は、鈴見、鵜飼、須坂の顔色を一変させ、肩に掛かった微睡む空気を性急に立ち上がって振り落とした。


「マジか?! 早く帰らんと」


 鵜飼と須坂の慌てようを静観していた鈴見は、窘めるように言った。


「どうせ、怒られるんだ。今から早く帰ろうとしても無駄じゃないか?」


「何いってんの! 出来るだけ早く帰る方が良いに決まってる」


 助走をつけずに走り出す鵜飼の一歩目は、何もせずには居られないといった具合の慌てっぷりであった。須坂はそれに釣られて、一段と大きく踏み出した。百鬼夜行が行脚するような山の獣道は、須坂のその勇み足を咎めた。地面だと思って踏んだ場所が崩れ、右手にあった急勾配の坂へ、吸い込まれるようにして須坂は姿を消す。下流を目指し回游する岩のように身を削られながら、滝壺の如く切り立った崖に放り出される。


 立ち上がってもいなかった鈴見は、須坂の転がる音で聞いて漸く、腰を上げる。そのうち首尾の悪さに胸を締め付けられ、言葉を吐き出さずにはいられなくなった。


「まて、まて、まて、待て!」


 何も知らないまま先頭を走っていた鵜飼の足を止めるため、鈴見は一気呵成に声を尽くして喚起した。


「え?」


 危機感を募らせた鈴見の必死の訴えに、鵜飼はそんな場違いなうつけた声を上げながら、踵を返して振り返った。鈴見が閉口して見つめる先には、急勾配の坂があり、直ぐにその違和感に鵜飼は気付く。


「須坂は?」


 鵜飼の疑問に鈴見はひたすら首尾一貫した無言の態度を崩さず、視線だけで物語る。じきに町の地平線に姿を消すであろう熟れた太陽が、蒼白する顔に辛うじて生気をもたらす。須坂の喪失を目にしたはずだと踏んだ鵜飼は、詰問を始める前の肩慣らしに鈴見へ問う。


「なにか言えよ」


 それでも鈴見は、口を開かないまま、急勾配の坂へ首を伸ばした。


「マジかよ……」


 事態を悟った鵜飼は頭を抱えて腰を落とし、非情なる時間の流れに汗が赤く光った。結果を咀嚼しつつあった鈴見は、腰を屈めながら坂を下り始める。柔らかい日差しに乾きほぐされた土が靴底を滑らせる。崩れた土塊が須坂の足跡を辿り、崖の縁で一度小さく跳梁して姿を消す。

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