02 - 清と清【後】



 しばらくして清一郎と呼ばれた人物がリビングに戻ってくると、夕飯の支度の片手間に用意していた炭酸水を入れたコップをカウンターに置く。

カウンターの内側に入ってきた清一郎は青年の横に立ち少し俯き気味だが、目線が少し低い青年からは表情がよくわかる。


「清彦…」

「帰って早々何泣きそうな顔してるんだよ」

「布団、ありがとう」

「申し訳ないと思うならもう飲み物こぼさないでよね。暑かったんだからね」


 文句を言いながらも料理を皿に盛り付けていく。


「キヨ、キスしたい」

「甘えん坊だな、少し待て出来ないのかな?」


 そう言いながらも手を止めて少し高い位置にある唇に自分の唇を重ね合わせる。


「今はこれでけね、箸とか用意して」

「ああ」


 夕飯の支度はそれからすぐに終わり2人並んでカウンターチェアに座ると綺麗に盛り付けられた料理を前に手を合わせる。


「いただきます」


 昆布で炊いたご飯に白だしと味噌だけで作ったワカメと玉ねぎの味噌汁。何品かの料理が並び成人男性2人には少し少ない量ではあるが、目が喜ぶ品数。


「キヨの料理は美味いな、こんなに種類用意しなくてもいいのに、大変だろう?」

「僕が種類少ないのが嫌なんだよ、それに作り置いておけば週に何回か出せるだろう」

「家事任せきりですまない」

「シンさんはその分稼いできてくれてるからいいんだよ」

「お前だって仕事あるだろうに」

「一緒に暮らすって話した時に言っただろう?僕を養ってくれるって、その代わり僕は家事をしっかりとこなすって」


 栄養バランスを考えながら作られている料理はどれも箸が進むもので、会話をしながらも箸が止まる事はなかった。

 食べ終わった皿をカウンターの上に乗せて椅子から降りようとしたら清一郎が手で制して立ち上がるとシンクの方へと向かっていく。


「洗い物くらいはさせてくれ」

「優しい彼氏だなぁ…ありがと、皿割らないでね」

「き、気を付ける」


 通った高い鼻筋に大きめの口、切れ長の目に綺麗に整えられた少し太めの眉を少し垂らし苦笑いを浮かべる顔は少し情けないように見えたがそれも一瞬だ。キリッとした表情は落ち着きのある大人のそのもの。

 歳は35程で清彦とは違いガッチリとした体型をしているのはゆるいTシャツ姿からもわかる。

 大人の色気を醸し出す落ち着いた雰囲気は見ていて絵になる。


「シンさん今週土曜は?」

「今の所は何もないが」

「じゃあデートしよっか」

「どこに行きたいんだ?」

「温泉」


 疲れている社会人には魅惑の響きだろう。温泉にゆっくり浸かって美味しいものを食べてのんびりする贅沢な週末。


「日帰りでもいいからさ」

「泊まってこよう、折角だし…予約しておくから行きたい場所スマホに送って」

「はーい、じゃあ僕少し仕事してくるからお風呂入ってゆっくりしてて」


 部屋に入ると早速行きたい所を送り、ゲーミングチェアに腰掛けノートパソコンを起動する。マウスで操作していき開いたページに慣れた手付きで文字を打ち始める。画面の右上に付箋で日にちと締切という文字が書かれている。彼の仕事は小説家だ。

 デスクに並んでいる書籍の作者は天彦と書かれている。彼のペンネームだ。


 2時間程仕事を進め、風呂に入る為に部屋を出るとリビングには清一郎の姿は見えなかった。おそらく自室だろう。

 急ぎ気味に風呂お終わらせてシンクの掃除なども済ませてベッドメイキングをした部屋の戸をノックする。

 気付かないだろうなとは思ったが案の定返事はなかったので勝手に開けて入ると、部屋の主と目が合う。リクライニングチェアに寝転びながら雑誌を手に大きめのヘッドホンをつけている彼のくつろぎスタイル。ヘッドホンを外した清一郎の先程まで整えられていた髪が落ちてきて前髪が目にかかる。前髪がおりていると少し若く見える。


「キヨ、もう仕事いいのか?」

「今日重たい布団洗ってきたんだからたくさん労ってもらわないとと思ってね、部屋で待ってるから来て」


 それだけ言い残し自室に戻ってベッドに腰掛けてスマホをいじっていると控えめなノックが聞こえ、すぐにドアが開く。


「シンさん、キスしたい。今度はちゃんと舌絡ませたやつ」

「ああ」


 ベッドに押し倒された清彦の唇が塞がれ舌を絡ませ合う濃厚なキスをかわす。

 慣れていないぎこちない感じが相変わらず可愛いなと思いながら必死に舌を絡めてくる清一郎に応える清彦。満足し、口を離せば唾液で濡れた唇がまたセクシーさを上げ清一郎をいやらしく魅せる。


「可愛いなぁシンさんは…シャツもズボンも脱いじゃおうか」


 言われるがまま清彦を跨いだまま上を脱ぎ、ズボンをおろしていく。躊躇いもなく脱ぎ捨てていく様は男らしく、肉体も筋肉質で世の女性はこんな男に抱かれたいと思うだろうというくらいに色気がある。


「僕の下着脱がせてよ」


 Tシャツにボクサーパンツだけだった清彦の下着が脱がされ、華奢な身体に見合った少し小振りなソレが少し勃ち上がりかけていた。


「シンさん、僕の元気にして」

「ああ…」


 流石に清一郎もこれには躊躇いつつゆっくりと舌を這わせていく。


「んっ…上手になったね…シンさん…」

「頻繁にするからな」

「嫌?頻繁なの」

「キヨとするのは嫌じゃない…が衰えを感じている所だ」

「そんな歳でも無いでしょうに」

「キヨとは一回り違うからな」

「でもよく筋トレとか運動しているじゃない…まだまだ若くていい男だよ、シンさんは」

「ジムでも行くかな」

「えー、僕との時間減っちゃうよ…ああ、僕も一緒に行けばいいのか…ジム。待ち合わせて、行くのもいいね」


 ベッドから降りた清彦がまだ足が地面についたままの清一郎の膝の下に手を入れて持ち上げると、サイドテーブルに置かれたボトルを手に取り蓋を開ける。手に出したそれはローション。


「中で気持ちよくなろうか」


・・・・・・・・・・



事後の片付けも大まかに済ませて一緒に清彦のベッドへと寝転ぶ。


「このまま寝てくでしょ?」

「ああ、動きたくない…」

「こんな色気ムンムンのシンさん隣にいたらまた襲っちゃうかもよ?」

「勘弁してくれ…明日も何かと忙しそうなんでな」

「週末大丈夫なの?出張とか入らない?」

「来週中頃から行くかもしれない…明日分かるから、分かったらすぐに連絡入れる」

「帰ってきてからでもいいのに」

「仕事中でも、キヨの声聞きたい」

「本当に?シンさん僕の声聞いて気が緩んで仕事でドジとかしない?」

「仕事中なら大丈夫だろう」


 清一郎は物凄いドジである。それが可愛いと思う清彦は日々彼がドジする所を密かに楽しみにしているのだ。布団に珈琲をこぼしたのだってそうだ、清一郎がテーブルに置こうとしたコップをベッドに落としたせいで炎天下の中のコインランドリーだったのだから。


「本当、なんで仕事中って全然ドジじゃないんだろうなぁ…中條さんも言ってたけど」

「中條といつそんな話をしてるんだ?」

「え、嫉妬?中條さんとはLINE交換しているからね、たまにしてるよ?LINEやり取りならいつでも見てもいいけど」

「…いい…」


 中條とは清一郎の同期の同僚であり、2人の関係を知っている数少ない人物だ。


「中條さんにね…監視頼んでるんだ」

「監視?」

「そ、シンさんが浮気しないように…」


 悪そうに笑う清彦の顔を見て、今度こそ苦笑いを表情に出してしまう清一郎だった。



……清と清(終)

――――――


次回は温泉編とかを予定。

気に入って頂けたら嬉しいです!

(R18はここではダメなんだった!って事で情事の所は削っています


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